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38 呼び出し

「あれ、隼人は?」

 放課後、担任に空のことで呼び出されたサキは、職員室からもどると隼人を探して教室を見渡した。

 警察が隼人を任意でひっぱるのは時間の問題だ。その前にもう一度、ゆっくり隼人と話をしておきたい。

「コスモワールドに行くって。偉い人に呼び出されちゃったみたいだよ」エリカが眉を寄せて答えた。「青い顔をして飛び出して行ったけど、大丈夫かな?」

「偉い人?」

「うん。隼人がそう言ってた」エリカが心配そうな瞳でサキを見つめる。

「隼人の携帯に電話がかかってきたの。すると、見る見るうちに隼人の顔色が変わったんだ。天童さんって聞こえたから、相手は天童じゃないかな?」

「ちょっと行ってくる」

 胸騒ぎがしてサキは鞄も持たずに教室を飛び出した。


 コスモワールドを目がけて全力で走る。足で地面を思いっきり蹴りながら、サキは思いを巡らした。

 なぜ、天童が直接隼人に連絡をしてくる? それも警察が隼人に目をつけた途端にだ。

 サキの心臓の音がどんどんと大きくなっていく。

 思い過ごしであってくれ。

 神に祈るような気持ちで、サキは走った。


 何者かと携帯で話をした後にホームから落ちた佐伯。コスモワールドの女子高生と不倫をして妻に殺された本間。翼につきまとっていて水死したコスモワールドの会員、青木。すべての事件の影に天童がいる。

 手のひらがじんわりと汗ばんだ。頭を左右に激しく振って冷静になろうと試みる。

 天童が関わっているのなら狙いはなんだ? 翼も無事に帰ってきたんだ。特別な子を手に入れたいという理由もなくなった。二千万なんて金は天童にとってたいした額じゃない。金のための犯罪ならリスクが大きすぎる。

 思い過ごしだ。思い過ごしに違いない。


 駅の近くまで来ると、下校途中の学生や夕飯の買物に急ぐ主婦たちで商店街は賑わっていた。ここを抜ければもう駅なのに、人に遮られてなかなか前へと進めない。

 サキの前を五人の女子高生が横一列になって話をしながらだらだら歩いている。女の子たちは、ことあるごとにきゃあきゃあ言ってくっついたり離れたりを繰り返し、追い抜きたくても追い抜けない。サキは後ろから蹴りをいれたくなるのを我慢して商店街の真ん中くらいまで歩いたが、とうとう我慢が出来なくなった。

「どけ、だらだら歩くな!」

 サキは真ん中にいる女の子の肩を掴んで横へ押しのけると、五人の前に走り出た。

「うそっ、今のって三組の麻生さんだよね?」という声が後ろから聞こえた。


 商店街を抜けたところで翼を見舞いに行くと言っていた空と、佐藤に出くわした。

「こんなとこで、何をしてるんだ?」

 サキが立ち止まって空に訊ねた。

「翼君が病院からいなくなりました。コスモワールドから電話があったみたいです」

「翼もか?」

 サキの不安は大きくなった。

「翼をあいつらが……」と言って、佐藤が地面に両膝をついた。

「あんた、何をしに来たんだ。嘆いていたって何にもなんねえだろ。翼を救いたけりゃ、ついて来い!」

 サキはぐずぐずしている空と佐藤を残してコスモワールドへ向かった。


 心の中で嫌な予感が強くなる。

 隼人、お願いだ。無事でいてくれ。

 子どものころ、家に帰りたくないと駄々をこねたサキに付き合って、夜の公園で一緒に遊んでくれた隼人。嫌だよと言いながらも隼人はままごとに付き合って、砂のおにぎりをふたりで作った。引っ越しの日、サキが乗ったトラックを走って追いかけてくる隼人に、サキは窓から身を乗り出して姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


「もし友達が僕を裏切るのなら事情があるのですよ」

 空の声が心に刺さった。

 裏切られても、隼人は隼人だった。もはや裏切られたとすら思わなかった。事情があったんだろう。その事情を訊きたかった。力になりたいと、心から思った。


 ロータリーの先の四階建てのビルまでは後少しだ。天童が演説をしていた日と同じように、黄色いポロシャツを着た会員たちがチラシを配っているのが、駅からでも見えた。

「天童に会うにはどうしたらいい」

 コスモワールドのビルまでダッシュで走ると、サキは黄色のポロシャツを着ている女の腕を掴んで訊ねた。

「三階の受付に……」

 女がおどおどして答えるのを最後まで聞かずにビルの中に入ると、エレベーターを待たないですぐ横の階段をかけあがった。

 足は痺れて膝がガクガクし胸はぜいぜいと音をたてている。引きずるように足を持ち上げてやっとの思いで三階に着くと、受付ですました顔で座っているおばさんに怒鳴った。


「おい、隼人は? 柴田隼人だ。どこにいる? 学生服を来た高校生がさっき天童に呼ばれて来ただろ?」

「部外者に会員の方のお話をすることは出来ません。お帰りください」

 受付のおばさんはムッとした顔で答えた。

「うるせえ、早く隼人をだせよ。何が部外者だ。隼人はな、あたしの大切な友達なんだよ」


「隼人君なら屋上じゃないかな。考え事があるって言っていたからね」

 後ろから声がした。振り向くと、天童が爽やかな笑顔でサキを見つめていた。

「冷たい空気にあたりたいと言って出て行ったよ」

「隼人に何をした?」

 サキは天童にくってかかった。

「なんだい、まるで君は人殺しでも見るような目をするね」天童は不気味に笑った。「大丈夫、隼人君ならぴんぴんしているよ。特に最近は熱心に活動をしているから、褒めてあげようと思ってね。何か問題でも?」

 問題はたくさんある。サキは天童に訊きたいことが山ほどあったが、今は隼人を見つけるのが先決だ。


「屋上はどこだ」

 天童がにやりと笑ってエレベーターの方を指でさした。

 サキはすぐにエレベーターへと足を向ける。

「屋上はエレベーターでは行けないよ」

 天童がサキの背中に向かって言った。

 サキはエレベーターの前を遠って、さっき上ってきた横の階段へ向かう。

 階段を上りかけたとき、エレベーターが開いて中から出て来た空がサキを呼び止めた。

 サキが振り返ると、佐藤もエレベーターを降りようとしている。

「空、あたしは隼人を探しに屋上に行く。おまえたちは翼を探せ」

 サキはそうふたりに怒鳴ると、階段をかけ上がった。


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