18 洗脳
男はパソコンの画面をじっと見つめていた。
チャットの白い画面に、闇の帝王の言葉が浮かぶ。
もう、引き延ばせない。後もどりは出来ないのだ。男はそっと両手をキーボードの上にのせた。
闇の帝王 「約束の日はすぎた。早く行動をおこせ」
同志 「警察がうろついていて、うかつに動けないのです」
闇の帝王 「残念だ。わかりあえたと思ったのに、おまえは同志でなかったのだな」
同志 「待ってください。私は同志です。あなたのおっしゃるとおりにします」
闇の帝王 「これは、おまえのゲームだ」
同志 「わかっています」
闇の帝王 「では、なんども言わせるな」
同志 「はい、必ず実行します」
闇の帝王 「いいか、難しく考えるな。ゲームは楽しんでするものだ」
同志 「私に出来るでしょうか?」
闇の帝王 「こうやってなんども話をしているのに、まだ、わからないのか?」
同志 「自信が持てないのです」
闇の帝王 「思い出せ。おまえは、私が見つけた選ばれし者だ」
同志 「はい」
闇の帝王 「支配されるものと、支配するもの。おまえはどっちだ?」
同志 「支配するものです」
闇の帝王 「ふみにじるものと、ふみにじられるもの。おまえはどっちだ?」
同志 「ふみにじるものです」
闇の帝王 「あやつるものと、あやつられるもの。おまえはどっちだ」
同志 「あやつるものです」
闇の帝王 「同志よ、自分が特別な人間だということを忘れるな」
同志 「はい。命令に従えば、返してくれるのですよね?」
闇の帝王 「命令ではない。もう、私たちは同志だ。一方的に支配する関係ではない。
おまえは、自分のためにゲームをするのではないのか?」
同志 「もちろん、そうです」
闇の帝王 「では、なぜ聞く。わくわくしないのか? 私はおまえとかわりたい。
ゲームをしかける楽しみで、体がふるえている」
同志 「私もです。ひとを支配する喜びでいっぱいです」
闇の帝王 「それならば迷うな。命令するものと命令されるもの。おまえはどっちだ?」
同志 「命令するものです」
闇の帝王 「私の使命は同志を導くこと。それだけだ。同志ならわかるだろう?
それとも、おまえはニセモノなのか?」
同志 「いいえ、帝王。私はあなたと志を共にするものです。私の行動で他人の運命
が決まることに快感を覚えます。警察を翻弄することに喜びを感じます」
闇の帝王 「それでこそ同志だ。一緒に世界を手にしよう」
同志 「ありがとうございます。もう、迷いません」
闇の帝王 「忘れるな、支配されるものは、支配するもののおもちゃでしかないことを」
同志 「はい」
闇の帝王 「この試練をのりこえればもう迷わなくなる。もっと強くなれるのだ。
おまえは支配するものになり、他人をあやつることができるだろう」
同志 「必ず、やりとげてみせます」
闇の帝王 「同志よ。おまえは強い。忘れるな。我々は神が創った悪の遺伝子を持つ者。
世界制服のためにこの世に存在することを神にゆるされたのだ。わかるな」
同志 「もちろんです」
闇の帝王 「心配ない。おまえが本物の同志ならどうどうとしているがいい。良心など、
我々サイコパスの心にはない。迷いはすぐに消える。そうでなければおまえ
は同志ではないということだ。できないのならみじめな一生になるだろう」
同志 「だいじょうぶです。やりとげます。私は同志です。みじめな一生は嫌です」
闇の帝王 「嫌ならいつでもやめるがいい。おまえに失望するだけだ。愛するものは返し
てやる。おまえは一生、支配される側でどれいとして生きていくがよい」




