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8月31日(木)
今日から日記をつけはじめることにします。
あたしが生きていたっていう証拠をなにか残しておかないとって思ったから。
「余命半年」とドクターに告げられたのが4月の終わりで、あれから4ヶ月が経ってしまった。
いまの心情をひと言で言うなら、「もう疲れた」って言葉が適切だ。
ずっと病気と付き合ってきた。
……闘ってきた。
毎日朝昼晩、ありえない量の薬を飲む。正直もううんざりする。点滴は背中に打つ。これが、嫌になるほど痛い。打ったら激痛、打ったら激痛。ホント、打つたんび、激しい痛みにさいなまれる。
健康な人でも、ちょっとした病気になっただけですっごくヘコんだり、めっちゃおろおろしたりすると思うけど、あたしは死ぬことが避けられないほどの病気になっているのだ。おかしくなったってしょうがないでしょう?
死ぬってわかってて、だけど助かるって信じたフリをして過ごしている。
なぜなら、それは家族のためだ。
お母さんもお父さんも、あたしが助かることをあきらめたって知ったら、絶対耐えられないはずだから。
身体を壊すと、普通の生活を心の底から望むようになる。
普通の生活がしたい。
朝普通に起きて、普通に学校に行って、勉強して、友達と遊んで、ごはん食べて、夜に寝る。
眩しい太陽の下を散歩してたり、買い物をしたり、友達とくだらないおしゃべりをする。マックでシェイクをすする。
多くの人にはあたりまえの「普通」が、あたしにはとても羨ましい。
そろそろ回診の時間だ。これだけ書いたらかなり疲れた。今日はこれでやめます。
9月1日(金)
あたしはリスカはもうやめている。
●●はやめれただろうか?(←書いたあとに、誰かあたし以外の人が見るかもしれないことに思い当たり伏せ字にしました)
手首の傷痕は、1年前に手術で全部消した。
だけどそのあとタトゥーを入れた。
ピアスも開けまくった。
……開けまくったっていうのは言い過ぎかな。
右耳に4ヶ所、左耳に6ヶ所。それにおへそにひとつ。
せっかく手術して手首の傷を消したんだからって、手首切るのを我慢してたら、その衝動がタトゥーとかピアスの方に走っちゃったみたいな気がする。そして今は、首筋を切っている。
腕を切るのはアムカだけど、首切るのはなんて言うんだっけ? ネックカ? 変な感じ。
バカなことばかり書いている。疲れた。今日はこれまで。
9月3日(日)
うちの病院のトイレは特有のニオイがする。
はっきり言って臭い。
なんのニオイなんだろう?
9月5日(火)
ツラい。ツブれそう。
悪あがきだ。
この日記を書くことだって全て無駄なことだ。
もう嫌だ。
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9月10日(日)
今日は雨が降っている。
あたしは雨が好き……。
できれば、この雨を全身に浴びたい。ぐしょ濡れになりながら、突っ立ってたい。
あたしは雨が好きだ。あたしの汚い部分や醜い部分を洗い流してくれるような気がするから。
今のあたしは病院の外に出ることすらできない。だから、どんどん汚れていく一方だ。もうこれ以上醜くなりたくないのに。
「汚れたなら恋や夢で洗い流せるらしい」
昔好きだった歌のフレーズ。
恋をすることも、夢を持つこともできないあたしは、やっぱり汚れていくしかないってことだ。
ひどい。
あの歌が、こんな残酷な歌だったなんて。
9月13日(水)
彼氏がせっかくお見舞いに来てくれたのに、ひどい言い方で八つ当たりをしてしまった。
なんてバカなんだろうあたしは。
また、あたしから離れていってしまうのだろうか。
あたしはバカな過ちを何回繰り返せば気がすむんだろう。
9月14日(木)
切りたい。
リスカ、やめなきゃ良かった。
久しぶりに血が見たい。
そうすればきっと少しは落ちつくのに。
9月21日(木)
今日、彼氏にはっきりと「別れましょう」ってメールを送った。
もちろん、つらかった、メチャクチャ。
だけど仕方ないんだ。
あたしは死ぬんだから。
これ以上あの人を付き合わせちゃ悪い。
……だけど……
涙が止まらなかった…………。
9月30日(土)
今日で9月が終わる。
あたしの身体は長くてあとひと月しか保たない。
残りの日数を、ベッドの上で数えて過ごすしかないんだろうか……。
10月1日(日)
「41332444」って、前に書いたけど、意味わからないだろうな。
ま、いいか。
10月4日(月)
病院の図書室(って言うほど大きくはないが)に置いてあるマンガもあらかた読んでしまった。
今は『スラムダンク』を読み返している。
これって、やっぱ名作。すごい泣ける。
一日5冊ずつ読んでいっています。
10月5日(火)
長いことピアスをつけてなかったら、穴がふさがってきた。
そういう身体の変化はあるんだなと思ったら、不思議なような、なんかへんな感じがした。
どうせ変化するんなら、この身体の病気が治ってくれないだろうか。
そっちの方が助かるんだけど。
10月12日(木)
今日、久しぶりの外出をした。
外出なんてもんじゃないか。
学校の文化祭に行ってきた。
前からお願いしてて、ドクターが外出許可をくれた。
前ならたぶん許してもらえなかった。許可が出たってことは裏を返せばあたしの命ももうあとわずかって意味なのかもしれないけど、できるだけそのことは考えないようにした。
みんなの輪に入りたかった。
恐れてたとおり、みんなはあたしを腫れ物扱いした。
普通に笑って過ごしたかったんだよ? クラスメイトや知ってる先輩が作ったものを食べたり買ったりして笑って、おしゃべりして……。
悔しい。
苦しい。
身体が病気になると、心も病気になってしまう。
10月19日(木)
もういつ死んでもおかしくない。
大量の服薬。
友達や彼氏が離れていく悲しみ。
家族の気遣いが苦しい。
点滴の激痛。
治療を受けるむなしさ。
気分がいい日は、過ぎていく日々の中に小さな幸せを見つけて生きていこうと思うときもあった。
でも、もう限界。
あと数日したら、あたしはこの世からいなくなります。
もしものために、今日からは毎日最後に「さようなら」と書きます。
みなさん、さようなら。
10月20日(金)
雨が降った。
とても優しい雨だった。
あたしはたまらなくなって、付き添いのお母さんも家にもどってて、看護婦さんも姿が見えなくなった隙を狙って点滴の針を抜くと、スリッパのまま病院の外へ飛び出した。
5分もせずに男の看護師さんが連れ戻しに来たけど、そのあいだ、あたしは雨に濡れていた。
秋の雨の音。
雨の匂い。
あたたかい空気と、冷たい水の感触。
ひさしぶりに「生きている」って気がした。
ホント、汚れたあたしの身体と心が、少しだけきれいになった気がしました。
もう、思い残すことはありません。
さようなら。
10月27日(水)
さっき、『スラムダンク』を読み終わった。
10月29日(日)
今日も入れてあと3日で10月が終わる。半年前に宣告された死の期日まであと3日。
怖い。
死ぬってどんな感じだろう。
何百回も何千回もそのことを考え続けてきた。
答えなんかわかるわけない!
死ぬのは嫌だ。
死にたくない!!
10月31日(火)
この日記を読んでくれた人へ。
あたしは確かに生きていました。
ありきたりだけど、死んで一番いやなのは、みんなから忘れ去られてしまうことです。
あたしが生きていたことを、覚えていてください。
それでは。
さようなら。
みんな、いろいろとありがとう!
11月3日(金)
今日は文化の日。
11月になった。
読書の秋。
活字は疲れるから読んでられないので、雑誌を読んでいます。
11月4日(土)
いま、あたしの周りにみんながいます。
お父さん、お母さん、親戚のおじちゃんやおばちゃんやイトコ達。
ドクターに、前もってお願いしてた。
死ぬ直前に、日記を書かせてって。
字が震えている。あたしの最後のメッセージです。
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それじゃ、さようなら。
読んでくれて、ありがとう。