第32話
「ドリス、僕はお前のように人殺しはしない。だから、僕が手を放したら大人しく僕たちと一緒にソロンに戻るんだ。そしてイガ先生を殺した事や、コペさんを刺した事を償うために、罰を受けろ。」と言った。ドリスは苦しそうに顔を歪めると自分の首を掴み軽く絞めているチェドの手を掴み
「はっ。罪を償えだと!?何も罪など犯してはいないだろう。」とせせら笑った。チェドは
「イガを殺した事はどうでもいいなか。」と言った。ドリスは
「俺の目的のためには仕方のないことだった。」と答えた。
「例え家族に会うためでも、人を殺しても良いっていう事にはならない。」
「黙れ!俺の生きる目的は、それしかなかったんだ。」チェドは、その言葉を聞きドリスの首を締め付けている力を緩めた。その隙をすかさず生かしドリスはチェドを自分の上から取り払った。そして、咳き込むと、床に落ちている自分のナイフを掴んだ。チェドは慌てて自分の小刀を手に持ち構えた・・・が、そんな必要などなかった。ドリスは、まっすぐ自分の胸にナイフを突き刺した。ミーは愕然とし、座り込んでしまった。チョコとパフェは体をよせあい、がたがたと震えていた。ケーキはコペにつき、チェドに言われた事を黙々とこなしていた。ドリスのパートナーである虚ろ魔法の妖精は、涙を流し泣き叫んでいた。チェドはドリスに駆け寄り、崩れ倒れそうになっているドリスを支えた。胸にナイフを刺したままのドリスは自分の胸に滴る血を手で触れ、自分の血を見つめ、もうすぐ死に行く命のなか、
「本当は聖なる木から闇の現を奪った時点で分かっていたんだ。闇の現はただ持っているだけでも自分の1番心の奥にある思いをあばき出そうとする。俺の思いは家族だった。ソロンに連れてこられた時から・・・。闇の現は、俺に真実を教えた。使者はお前を連れ出したあと、お前の家族を殺した。そして、地球に存在しない者たちとした。お前に関わる記憶とお前の家族に関わる記憶を、地球の人間の記憶から抹消した。とな。だが、俺はどうしても、最後に地球を見たかった。そして、地球で死にたかった。」と、血の涙とともに、最後の笑みを浮かべ、自分の望み通り地球えで死を迎えたのだった。チェドは、ドリスの体をゆっくりと、床に寝させ、胸からナイフを抜き取った。そして、黙ったままコペのもとへ行くと
「ケーキ、血とまった?」と聞いた。ケーキは笑顔でチェドの方を向き
「えぇ。もうすぐ意識は戻ると思うわ。でも当分動くのは無理ね。絶対安静ってとこかしら。」と答えた。ミーは、ゆっくりと立ち上がると、チョコとパフェと共に、コペのもとへ行き
「コペおじいちゃん生きてるの?あんなに刺されたのに?」と無表情のままチェドに尋ねた。チェドは優しく笑うと
「うん。大丈夫。傷は深いけれど、急所は外れてるから。」と答えた。ミーはコペの手をしっかり握ると、
「温かい。」とまだ実感が湧かないかのように、一言だけ呟いた。ミーのパートナーのチョコは、コペの頬に自分の小さな手をあてミーに笑いかけながら
「本当だ。死んでないよ。」とはしゃいだように言った。ミーは、涙ぐみながら
「うん。そうね。コペおじいちゃん生きてるね。」と、笑い答えた。チェドは、
「サン先生は、本当に死んでるよ。このまま地球で寝かせてあげた方がいいと思う?」と聞いた。ミーは、コペの手をゆっくりと放すと、立ち上がりサンの体が、横たわっている場所へ行った。そして、サンの顔に自分の小さな体を寄せ、ガタガタ震えながらドリスを見つめている、サンのパートナーであった虚ろ魔法の妖精に
「何で私たちがここにいるってわかったの?」と、いきなり尋ねた。妖精は、ドリスを見つめたまま
「もともと私たちの方が先にここに居たのよ。この家に魔法かけてあるの全然気づかないであなた達は入って来たのよ。今はもう劣化魔法の香りは残っていないけれどね。」と答えた。
「劣化魔法?この家にかけたの?何のために?!」とパフェがいきなり言葉を発した。虚ろ魔法の妖精は、今の声は誰?というように、ドリスの亡き骸から視線をはずし、声のした方を見た。パフェは、
「私、透明魔法の妖精よ。」と、虚ろ魔法の妖精に気づいてもらえるよう、手をふり挨拶をした。虚ろ魔法の妖精は、パフェを一瞬自分の瞳に写し存在を認めたが、すぐに視線をドリスへと戻した。そして、
「自分より、レベルの下のあなたに同等のように声をかけられたくないわ。」と言った。パフェは傷ついたように、チョコの後ろに隠れた。チョコは、虚ろ魔法の妖精をにらみ
「性格直した方がいいんじゃない?」と、軽蔑したように、言った。虚ろ魔法の妖精は、ため息をつくと、
「うるさいわね。そんなに聞きたいのなら教えてあげるわ。この家はサンが劣化魔法をかけるまではパン屋だった。そしてパン屋の前は普通の5人家族が住む家・・・サンの家だったのよ。サンは家族が殺されていなくても、せめて家だけは残っているだろう。って思っていたの。だから、パン屋になっていて、しかも他の人間がいるのを、見てとてもショックを受けた。それで、この家に住んでいた人間を違う土地に送ってこの家には、これから先誰も住めないように、劣化魔法をかけたのよ。サンが自分で死んだのには、地球で死にたかったという思いの他に、自分の本当の家で死にたいという思いもあったと思う・・・。」と、サンの胸の傷に、涙を落としながら、語った。ミーは、何かを決したように、チェドの顔を見据え、
「サン先生は、ソロンに連れて行かない。」と言った。チョコたち妖精は、賛成の意を示すように、うなずきチェドは
「その方が良さそうだね。」と言い、サンのマントの奥から、闇の現を取り出した。そして、虚ろ魔法の妖精に、
「この闇の現は、ソロンに持っていくから。」と言い、自分の手に強く握った。その時、ケーキの献身な介護の甲斐があり、コペの意識が戻った。しかし、体を起こす事はやはり出来ないらしい。ミーはコペの顔を覗きこみながら、
「コペおじいちゃん、私のことわかる?」と心配そうに聞いた。コペは痛みがあるにも関わらず、優しく笑うと、
「心配かけて悪かったの、ミー。」と言った。チェドは、ケーキに
「ありがとう。」と感謝の気持ちを述べたあと、コペを気遣いながら、
「コペさん、大丈夫?サンは自分で死を選びました。ここはサンの家だったらしいです。」と教えた。コペは
「そうか。チェド・・・すまんが、虚ろ魔法の妖精を呼んでくれんかの?」と言い、痛みが走ったのか、顔を痛みでゆがませた。チェドは、コペに言われた通り、虚ろ魔法の妖精を呼ぼうとしたが、すでに、ドリスのもとを離れコペの顔の上に浮かんでいた。コペは苦しそうに呼吸をすると、しっかりと虚ろ魔法の妖精を、見つめ
「博士はどこにいるんじゃ?」と尋ねた。虚ろ魔法の妖精はただ一言
「妖精は、死ぬと粒子になるのよ。」とだけ答えた。コペは、微かに微笑むと
「じゃあ、もう博士の亡き骸と会う事もできんのじゃな。」と、自分で言の葉をかみしめるように呟いた。そして、チェドに
「チェド、悪いんじゃがわしに、浮遊魔法をかけておくれ。」と頼んだ。チェドは、すぐにケーキに命令しコペの体は宙にゆっくりと浮いた。そして、
「虚ろ魔法の妖精や。お前さんも一緒にソロンに戻るんじゃ。サン君はミーに頼み体が腐らんよう、凍らしてもらうから安心せぇ。」と虚ろ魔法の妖精に言った。虚ろ魔法の妖精は、涙で顔を覆いながら、
「ごめんなさい・・・。」と言った。その言葉には、ありがとう、という言葉も含まれていただろう。虚ろ魔法の妖精は心からサンを愛していたのだ。サンの孤独を自分が助けると、自分に誓いサンに尽くしていた。そんな彼女はサンの死を、サンはこれで幸せになった・・・。と受け止めていた。そして、私は妖精の領域に自分の居場所を見つけるわ。とサンに最後の言葉を残し、コペやミー、そしてチェドと妖精たちと共にソロンに戻ることを決めたのであった。チェドは、闇の現を虚ろ魔法に見せ
「空間を裂くにはどうやってやればいいんだい?」と尋ねた。虚ろ魔法の妖精は
「ただ、行きたい場所を闇の現に言えばいいの。あんまり長く見つめていると、サンのように、自分の恐れている事をあばかれるわよ。」と質門に答えると共に忠告をした。チェドはうなずくと闇の現に
「ソロン」と言葉を放った。すると、まがまがしい紫の光が空間を裂きソロンへと導いた。あまりにも一瞬のことだったが、ミーたちは何が起こったのか理解する事ができた。地球からつながった空間の先は、ソロンの王の宮殿であった。ミーは最後にチョコに頼み、サンを体の芯から凍らせ、たとえこの家が崩れ原型を留めなくなろうとも、融ける事のない氷の亡き骸・・・・サンの墓を作った。サンの傷ついた胸の上には、純白のチューリップが1輪置かれていた。それは虚ろ魔法の妖精が最後に贈った、サンへの思いだった。そして、ミーたちは、サンに別れをつげ、闇の現が導いた王の宮殿へと足を向けたのだった。
そこは宮殿の庭園だった。今の時刻が夕方という事もあるが、暗かった。そして魔法の香りが異常なほど強く立ち込めている。サンの言っていた通り、太陽が力を失っているのだ。




