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だいたいカノジョ

作者: 葱田金鹿
掲載日:2010/11/14


 待ち人、来らたず。

 だがしかし、ああ、緊張する。というか凄く緊張している。具体的にどのくらいかっていうと、小学校の時の学芸会で、ステージの上で一人台詞を言った時以上に緊張している。

 何故に俺がそこまで緊張しているのかっていうと、今日は俺にとって特別な日であり、また奇怪な体験をすることになる希有な日でもあるからだ。

 そんでもって何をもって特別か。それは今日が彼女との初デートだからであり、何をもって希有という表現を用いるかと言うと、今日のデートがダブルデートだからだ。

 そう、ダブルデート。

 本来デートとは、好きな者同士が好きな相手と好きな場所に行って好きな事をして好きなモノを食べて好きなだけ同じ時間を過ごす、という甘い蜜まみれのイベントであるである。

 そしてそのデートを二組のカップルが一つのグループとなって密度二倍で行うデートがダブルデートとである。

 そんな糖尿病一直線みたいなイベントがこの地球上に存在するなんて、ちょっと前の俺にはまったく考えられなかったことだけど、実際に今から体験する身としては、それが本当に楽しみでならない。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 とりあえず今日はデートだ。

 しかも彼女との待ちに待った初デート。

 これはもう心が躍らないわけがない。踊らなければ男じゃない。まあ、実際は心だけでなく身体まで躍り出しそうで、結果として昨日の夜は興奮して寝られなかったけど、今朝はきっちり起きられたから問題なし。寝坊して講義に間に合わないって分かっていても覚醒しない俺の頭も、重要なイベントが控えている今朝だけはきちんと覚醒してくれた。素晴らしいことだ。ビバ・デート。

 お気に入りの腕時計を見れば、現在時刻は午前九時半。十時待ち合わせなのに三十分も早く来るのはベタすぎて逆に違和感がないだろう。

 でも、まあ少しくらいは、彼女だって今日のデートを楽しみにして昨夜は寝られなくて、ちょっと興奮した感じで「早めに来ちゃった」みたいな展開を期待していないわけじゃないけど、彼女はどうしようもなく時間に正確なので、そういった偶発的なイベントを本気で期待しているわけじゃない。というか、その手の彼女の正確さはもう正確過ぎて、もはや世界の標準時計にさえなれそうなくらいのレベルなので、そういったハプニング的なイベントは全く期待できないのが、少しだけ悲しいと言えば悲しいことだった。

 しかし。今日はデートだから全てが許せる。待ち合わせ時間よりも前に来たら万々歳だし、時間通りならそれはそれで文句のつけようはないし、遅刻でもしようものならそれこそ何時間だって待ってやる。

 そんな感じでいろいろなことを期待して待っていたら、だいたい俺と同じような雰囲気の服装でだいたい俺と同じように顔がにやけててだいたい俺と同じようにそわそわとしながら俺の方へと近づいてくる男がいた。

 彼が俺の待ち人だ。まあ、最初に断っておこうと思うが、言うまでも無く、ご存知の通り、彼は俺の彼女ではない。

 この男は俺と一緒にダブルデートをすることになったカップルの男の方、兼、俺の大学の同級生であるガモウ・ヨシタケだ。

「よお、早いな」

 ヨシタケが右手を上げて挨拶した。随分とクラシカルな挨拶だ。

「そう言うお前だって、だいぶ早いだろ」

 まだ待ち合わせ時刻まで二十分以上の時間があった。

「まあな。ちょっと昨日は興奮して寝られなくてな」

 どうやらこいつも俺と同レベルらしい。

 まあ、お互いに今の彼女とは初めてのデートなわけで、当然ながらダブルデートも初めてなわけだ。最初のデートにしちゃハードルが高いかもしれないが、俺とヨシタケにしたら一人でも知った顔がいた方が気楽だという事だった。

 それに本音を言えば、お互いがお互いの彼女に興味があるのだ。

「やっとお前の彼女を実際に見られるよ」ヨシタケがにやりと笑いながら言った。

 実のところ、彼は写真で何度か俺の彼女を見たことがある。そのたびにヨシタケは「かわいい」を連呼するので、最初の方は俺も優越感に浸っていたのだが、最後は鬱陶しくなってしまうくらい、ヨシタケはその形容詞を連呼していた。まあ、実際に俺の彼女は可愛いのだが。

「でも、俺なんかお前の彼女見たこと無いぞ」

 俺がそう言うと、ヨシタケはまたにやりと笑った。

「知ってるって。だから今日、ダブルデートにしたんだろ?」

「まあな、メインはお互いの彼女のお披露目……あ、来た」

 俺がそう言うと、ヨシタケは俺が見ている方向を見た。

 そこにはやや小柄の、大人しめの白いワンピースを着た俺の彼女がこちらに向かって歩いているのが見えた。

 彼女は最短距離で俺たちに近づいてきて、俺の前に来た後、まず俺を見て、それからヨシタケを見た。

「ヨシタケさん、こんにちは」

 満面の笑みでヨシタケに微笑みながら挨拶をする彼女。うん、はたから見ていてもやっぱり可愛い。

「こんにちは」負けずに満面の笑みでヨシタケが答える。「俺の彼女がまだ来てないから、もう少し待ってて」

「はい」

 俺の彼女が歯切れの良い返事をする。腕時計で時間を確認すると、十時ジャストだった。さすが俺の彼女。時間ぴったりである。

 それに比べて、ヨシタケの彼女は珍しく遅れているようだ。

「時間過ぎたぞ。彼女が遅れるなんて珍しいんじゃないのか?」

「今日は研究室でメンテがあったんだよ。だから研究室に寄ってから来る予定になってるはずだから、少し時間がかかる」ヨシタケはケータイで時刻を確認しながら言った。「でも、もうそろそろ来る時間なんだけど……」

 ヨシタケが周りを窺うようにきょろきょろすると、しばらくしてから彼は「あっ」と言葉を上げた。

「来た来た」ヨシタケは駅から出てくる人だかりに向けて手を振った。「おーい」

 ヨシタケが手を振ると、多くの人からなる流れの中から一つだけがその流れに逆らってこちらへ向かうのが見えた。

「遅れてごめんなさい、ヨシタケさん」

「良いの良いの、気にしない」

 ヨシタケの彼女は長い黒髪で、その容姿は日本美人の典型だった。整った顔立ちは完璧なまでの左右対称形で、美容整形した女性芸能人並みに美しい。それに、物腰と物言いから奥ゆかしい雰囲気と清楚な印象を受ける。

 俺の彼女がキュートだとしたら、ヨシタケの彼女はビューティフルだろう。

「こんにちは」

「……」

 俺が挨拶をすると、ヨシタケの彼女はぎこちなく微笑みながら俺に向かって首を傾げた。それがまたどことなく奥ゆかしい。

 とにかく、たとえつたない会話の誤魔化しだとしても、奥ゆかしい雰囲気が良い。現に俺がヨシタケの彼女をまじまじと見ると、そんな俺を見てヨシタケの彼女は首を傾げるだけだ。逃げたり、奇声を上げたり、襲いかかって来るようなことは絶対にない。

 そして俺がヨシタケの彼女を見ているように、ヨシタケも俺の彼女をまじまじと見ていた。

「しかし、いつ見てもお前の彼女は可愛いな」

 俺の彼女を見ていたヨシタケがぽつりと言った。

「そりゃそうだろ。あのレベルはなかなか無いよ」

「まったくだ。お前には不釣り合いなくらい可愛い。本当にお前の彼女か?」

「たぶんね。だいたいは、俺の彼女だと思う」

 俺がそう言うと、ヨシタケは苦笑した。

「つか、見た目もそうだけど、中身も良いな。待ち合わせの場所に来て、まずお前よりも先にお前の友人である俺に挨拶するんだぜ。たまんねえよ」

 確かに、そこらへんの言動は他のものではなかなか真似できるものではないだろう。

「でもお前の彼女も良いじゃん。流石に今の俺の彼女と比べてみれば地味だけど、最初の頃は俺も羨ましかったんだぞ」

 それを聞いて、ヨシタケは嬉しそうに笑った。

「これでも一応、見た目よりも中身重視なんだぜ。そのおかげであまり話していて嫌な感じはしないだろう?」

 確かにヨシタケの彼女は俺の彼女と比べてもなんら変り無い口調や仕草だった。話し方も嫌な違和感を抱くことは無く、かなり自然だ。

「確かに。だからお前が長く続いてんのか」

「いやいや。俺は今でも一途だぜ。俺にとっての彼女はあいつだけだ」

 口から出まかせを言うヨシタケを無視して、俺は自分の彼女とヨシタケの彼女を見比べた。

 ふと、何となく思ったことを二人に言ってみる。

「ちょっと、二人とも並んで見て」

 俺がそう言うと、二人は少しだけ首を傾げながら、それぞれの横に並ぶ。

 俺の彼女とヨシタケの彼女が横に並んだ。俺の彼女は小柄なのでその身長はヨシタケの彼女の肩の位置くらいになる。

「こうしてみると、姉妹に見えないことも無いな」

「そりゃ、会社は同じだからな」

 俺がコメントするとヨシタケはそう言って、さらに自分の彼女と俺の彼女を見比べていた。

 その後、数分間二人を見つめた後、ヨシタケが言った。

「ああ、やっぱりお前の彼女は可愛いな」

 どこか納得したようにヨシタケが言った。

「当たり前だ。デザイナーの腕が違うんだよ」

 格が違うのだ、格が。

「俺も次は同じやつにしようかなー」

 唐突に恐ろしい事を言うヨシタケ。

「おいおい、金の余裕あるのか?」

「決めた。今から貯金して、来年の夏までには新モデルに乗り換える」

「ったく、相変わらず乗り換えが早いな」

「流行に敏感と言ってくれ」

「はいはい。わかりましたよ」俺は苦笑しながら言った。「だけどさ、頼むから俺の彼女と同じモデルだけはやめろよ」

「わかってるって。流石にそこまで執着しねーよ」

「ならいいや」

「まあ、でも万が一、被る可能性も無いわけで」

 俺が言うと、ヨシタケがまた恐ろしい事を言う。冗談でもやめてほしいものだ。

「おいおい。お前と同じ彼女なんていやだぞ」

 冗談だよ、とでも言いたげにヨシタケはくすくすと笑ったあと、やっぱり俺の彼女をまじまじと見てから言う。

「あー、でも、本当にうらやましいよ。うん、本当にちょっと新しいモデルの件、すこし考えることにするわ」

 ヨシタケがまた笑いながら言った。

「しかしホントに可愛いな、お前の彼女。型番いくつ?」



最後までお付き合いいただきありがとうございました。

将来、恋人の代替ロボットが一般化するような時代が来ないことを祈るばかりです。

何かありましたら感想でも頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の作品でも思いましたが、やはり起承転結が上手いですね。読んでて途中「あれ?」と違和感が漂い、最後は綺麗にまとまって、納得するとともに背筋を伝う恐ろしさ。 自分はSF好きなのですが、ロボッ…
2010/11/23 04:23 退会済み
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