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02 ずっといっしょ

 最初に見たときの印象は、「新入生にうるさい子がいるなぁ」程度の認識だった。

  


 わたしは秋野あきの由紀ゆき

 よく名前を茶化される。

 秋なのに雪かよって。


 でもわたしは無反応。

 理由は、ありきたりな人はあまり心に響かないから。

 学年は小学四年生。


 小学校でも後輩に好かれたりするものなのかな。

 四年生になってから、急に話しかけてくる後輩の子がいる。


 名前は結木ゆうきすすむくん。

 小学三年生で、ひとつ年下だ。

 わたしは面白みがないからシンくんって呼んでる。

 そっちの方がかっこいいし。

 そしたらその日シンくんは「今日からおれはシンだ!」って大騒ぎしてた。


 正直ちょっとおもしろかった。


 そんなシンくんは、ほとんどの休み時間にわたしに会いに教室に来る。

 普段はおちゃらけてるけど、わたしといっしょのときは静かだ。

 なんか不思議。


 すこし気になったので、ある日わたしは聞いてみた。


「シンくんって、わたしのこと好きなの?」


 シンくんは一瞬黙りこんでから、すごく大きな声で返事をした。


「大好きです!!」

「そ、そう」


 ちょっとビクッとしたけれど、それはナイショ。

 あれだけ大きな声を浴びせられたら、誰でもびっくりするよ。きっと。


 そんなシンくんだけど、わたしの返事を聞いてくる素ぶりはなく、それ以来もふつうに遊んでくれた。

 

 不思議な子。

 そんなシンくんにわたしは、だんだんと興味が湧いてきた。


 そして告白されてからというか、告白をうながしてから数日後、シンくんが交通事故に遭ったらしい。


 それを又聞きしたとき、すごくびっくりした。

 小さいころに怖いものを見たときよりもゾッとした。

 一応いまでもその怖いものはトラウマだ。


 それはさておき、わたしはシンくんのクラスの担任の先生にシンくんの入院してる病院を尋ねて、お見舞いに行った。

 

 でも病院なんてほとんど来たことがなかったから困っていると、運よくシンくんのお母さんに遭遇する。


「あなたがユキちゃん? 進の大好きな子の……」

「…………はい。お見舞いに来ました」

「そう。……いま寝てるから、明日お願いできるかしら」

「はい、わかりました。明日またお伺いします」

「うん」


 ちょっと難しい言葉を使って平静を保つ。


 なんだ。入院といっても、大したことないのかな……?

 そう思っていた自分をぶってやりたいほど大ごとだと気づいたのは、その翌日だった。


「進はね、当たりどころが悪くて記憶が曖昧らしいの。いわゆる記憶喪失ってやつ?」

「そう、ですか……」

「…………だれ?」

「…………もういいや」


 そうつぶやくと、わたしは部屋から逃げるように出ていった。


「あっ! ユキちゃん……!」

「雪?」


 だれってなんだよ。

 何なんだろう、この気持ち。


 怒ってるわけじゃない。

 悲しいわけでもない。

 ただ、胸に針を刺されたようなこの気持ちは……

 一体なんなの?


「ユキちゃん、大丈夫?」

「シンくんのお母さん……あっ、ススムくんの……」

「いいのよ、どっちでも。進も『シンくんって呼ばれたんだ!』ってうれしそうに言ってたし」

「そ、そうですか……」

「あんなに……元気だったのに……」

「泣かないでください。シンくんは必ず取り戻します」

「……ありがとう」


 この日から、シンくんに毎日お見舞いに行くのが日常となった。


「シンくん、キミはウザかったんだよ」

「ぼくはシンじゃなくてススムだってば!」

「……そうだね」


 またとある日。


「シンくんって好きなものある?」

「ないけど……ずっとここにいるから」

「そっか」


 そうこうしているうちに、シンくんが事故に遭ってから3ヶ月経った。

 だけどシンくんはまだ復学していない。


 わたしは、シンくんに質問する。


「シンくん。わたしが質問したこと、覚えてる?」

「うーんと、病院で……」

「ちがうよ。わたしが質問したのはね……」

「お姉さん昔の話ばかりでつまんない。未来の話しよーよ!」


 その発言に、シンくんの面影を見る。


「お姉さん?」

「……ごめん、帰るね」


 なにやってるんだわたしは。


 これからのシンくんの人生はわたしのものなのかな?

 わたしが彼の人生を左右してもいいのかな? そんな権利あるのかな?

 わたしはシンくんのことをどう思ってるのかな?

 わたしは──────


 

 わたしは気がついた。

 わたしはいつも受け身だ。

 それはなんにも興味が持てないから。


 でもシンくんと関わって、わたしは変わった。

 シンくんに質問したし、シンくんを元に戻したいと思ってる。


 つまりシンくんに興味があるってことで────


 それはつまり、わたしはシンくんが好きってことだ。



 わたしは手紙を書いた。

 口で話すのは恥ずかしかったし、覚えきれないと意味がないと思ったから。


 シンくんを初めて見かけたときのこと。

 シンくんが初めて話しかけてきたときのこと。

 シンくんがどういう風にわたしに接してきたのか。

 シンくんにあの質問(・・・・)をしたときのこと。

 そして、シンくんの記憶がなくなったこと。


 最後に、シンくんが好きなこと。

 記憶が戻ろうが戻らなかろうが、ずっといっしょにいようねと、最後に書いたこと。

 

 その手紙をシンくんに見せると、だんだん表情がおかしくなっていく。


 嫌な顔をしたり、ニヤニヤしたり、真顔だったり、気まずそうだったり……

 そして、ものすごく喜んでいるような顔になったり────


「ふふっ……」


 ついおかしくて笑ってしまうわたし。


 すると──────


「ユキさん、思い出しました。おれのためにありがとうございました」

「シンくん……?」

「はい! シンです! いやススムだけど! チョーうれしくて涙が出そうです! えーんって!」

「そのウザさは、シンくんだね」

「なんですかそれ! でもありがとうございます!」

「よかった」


 そう言いいつつ、わたしは涙を流す。


「ずっといっしょにいましょう! 浮気はしません! 一筋です!」

「うん。ありがとね」


 ウザ絡みはされたことなかったけど、これが本来のシンくんなんだろうな。


「……でも、わたしは緊張してるときもかわいくて好きだったよ」

「そうですか! でも、もう3ヶ月も毎日いっしょだったので!」

「あ、そっか。そうだよね」

「はい!」


 このあとシンくんのご家族に報告したけど、みんな喜んでいたらしい。

 わたしがいるのは野暮だと思って帰ったから、真相は知らないけど。


 それから数日後、シンくんは復学した。

 ただ、復学したシンくんはものすごい範囲をやることになったので、休み時間はいつもわたしがシンくんの教室へ向かって勉強を教えてあげてる。

 復習がてらちょうどいいからね。


 いつのまにか立場が逆になったけど、これでよかったのかもしれない。


 そんなこんなで、大人になってもずっといっしょにいるわたしたちだった。

秋野あきの由紀ゆき 女  10歳(7月生まれ)

小学四年生。

常に冷静で、無口でおとなしい。

一人称は「わたし」



結木ゆうきすすむ 男  9歳(4月生まれ)

小学三年生。

常に明るく前向き。

すこしウザい性格。

ユキに一目惚れして以来、アタックしつづける。

一人称は「おれ」(記憶喪失のときは「ぼく」)

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