0-21 赤月ノ章 二十一
「そうか・・・・」
慶秀は孝周にそう言うと、宿の近くの馬場で馬に跨った。
「あ、慶秀殿っ!!」
孝周が叫んだが、慶秀は止まらなかった。
馬を走らせる。
あそこに見えた場所へ。
集落を出て、砂地を走る。
遠くに川が見えて、たくさんの人足たちが集まって穴を掘っているのが見えた。
そして、天威機が近くに見えた。
見上げるような大きさ。やはり大人三人分の背の高さがある。
きわめて人に近い人型だが、首はない。
ずんぐりとした腕と足、丸い胴体は全て木と鉄でできている。
崖から岩を持ち上げると、川の中へ運ぶ。
ただそれを繰り返すだけのことだが、人が運べる大きさではない。
「すまない、あれは何だ?」
近くにいた男を呼び止める。
「あれは天威機だ。この辺りは雨期になると川が溢れるからな」
「あんな岩を持ち上げるとは・・・・」
「あの岩で一度川の支流を止めるのさ。他へ水が流れるように。この辺りは長安の都が近いから、天威機を使わせてくれるのでとても助かる」
男はそう言うと、仕事へ戻って行った。
あれを・・・・人が作った。
信じられない光景だ。
しかも、おれが作れるようになる!?
胸の高鳴りが止まらない。
何故思うように動いている?
仕組みはどうなっている?
その天威機の一つが、姿勢を低くしてしゃがんだ。
すると、腹の辺りが開き、人が降りてきたのだ。
「ひ、人が乗っているのかっ!?」
思わず慶秀は駆けだした。
「今、これを動かしていたのはお主かっ!?」
そう言いながら、天威機の腹の辺りを見回す。
人が座る場所があり、緑色の石が二つ、手前に埋められている。
「これは何だ!?これは、どうやって!?」
光る石に触れようとした慶秀の腕を、天威機から降りてきた男が撥ね退けた。
「触るな!死にたいのか!?」
その後も、ずっと天威機から目が離せなかった。
気が付くと、人足たちはいなくなり、天威機も何処かへしまわれてしまった。
慶秀はひとり、興奮を押さえられないまま馬を引いて町へ戻ってきた。
興奮して走ってきてしまったから、帰り道がわからなくなってしまった。
辺りに人はぱらぱらといるが、何と聞いていいのかわからない。
とぼとぼと歩くうちに、陽が傾き薄暗くなってきた。
辺りの街並みは、まるで見たことがない。
手で押したら壊れてしまいそうな小屋がずっと並んでいる。
「参ったな・・・・どっちへ行けばいいのか・・・・」
その時、視線に気づいた。
あの、木彫りの兎の幼い男の子が立ったままこちらを無表情で見ている。
「あ、あのときの・・・・」
そう言いかけた慶秀の手を、男の子が掴む。
「お、おい!?」
すると、慶秀の手を引っ張って男の子が走り出した。




