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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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21 風結ノ章 二十一

「助太刀に来たぞ!」

紅羽も刀を抜き、盗賊を切り倒す。

「あ・・・!?」

「あ!?」

嶺巴と目が合い、二人は絶句する。

「緋家の娘!?」

「藍羽の破廉恥娘!?」

「破廉恥は余分だよっ!」

二人は目を合わせたまま、斬りかかって来る盗賊たちをバッタバッタ斬りまくる。

「御体盗賊め、なぜこんなところに!!」

「あたしは今は盗賊じゃない!周りにいるのが盗賊だよ!」

そういう間にも盗賊たちは飛び掛かって来る。

「ああ、面倒な!とりあえずこいつらを片付ける!」

「あたしも同意見だよ!」


「雑魚はわたしが何とかします!白結丸・・・様は親玉を!」

伊佐が盗賊たちと切り結びながら言う。

「わかった、伊佐!頼む!」

・・・ああ、また名前で呼ばれた!

「きゃーっ!」

と、顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら盗賊を二人、三人と斬り倒す。

「くそう、このままでは!」

子分たちが次々とやられていく。荒熊は焦っていた。

「こいつら、ただもんじゃねぇ!奥の手を使うぞ!」

荒熊はそう言って、踵を返すと森の中へ走り出す。

「逃がすか!」

追いかけようとする白結丸の行く手を、子分たちが塞ぐ。

「邪魔だ!」

一瞬で斬り伏せるが、次から次へと盗賊たちが湧いてくる。

「くそっ、きりがない!」

「白結丸様!あれを!」

伊佐が指さす方向には、杉の木を押し分けながら近づいてくる御体の姿があった。

御体は首がなく、巨大な鹿のような角が左右に背中から伸び、木と錆びた鉄がむき出しの姿だった。

「わはははは!観念しろ!戦御体”角鳴(つのなり)”、見参!」

「あの声はさっきの荒熊!なんで盗賊風情が御体など!」

「驚け!おれたちは関所の役人と裏でつながっていたのだ!」

・・・素直に言うか、それ?

「伊佐!無理するな!相手が御体なら、このままではかなわない!」

「わかっている!子分たちはわたしと、あの気持ち悪いやつ(荊火)で大丈夫だ!白結丸様は御体であいつを!」

「承知した!頼む!」

・・・ああ、もう自然に「様」をつけて呼んでいる・・・。しかも、わたしの心配もしてくれている・・・。これはもう、両想いと言っても差し支えないのでは!?

「きゃーっ!恥ずかしい!!」

と赤面しながら盗賊をばったばった斬り倒す。

荊火も両腕の鎖で盗賊たちを弾き飛ばす。何よりも、その醜悪な見た目は盗賊たちに繊維を喪失させる。

「通さん!!」

その間に、白結丸は風結へ向けて走り出す。

「嶺巴、伊佐の姉!敵は御体を出してきた!風結で出る!巻き込まれるな!」

「承知!」

「何だと!?」

紅羽が顔を上げると、少し先に首のない醜悪な角をはやした御体が近づいてきている。

「ミカナ!風結を動かす!」

「おう、待ちくたびれたぞ!」

ミカナは風結に走り寄ると、体が光に包まれて吸い込まれていく。

白結丸ひとりで、御体車と風結を縛り付けている太い縄をほどく。そして大きな布を取り去ると、風結の姿があらわになる。・・・・ミカナ、荷台に縛ってある縄を一緒に解いてからでも良くない?

「・・・疲れた!行くぞ、ミカナ!」

『何をもたもたしとったのじゃ、遅いぞ!』

・・・はぁ。

白結丸は風結に乗り込み、御霊石に触れる。体の中を風が走り抜ける感覚。すべての神経がつながり、御体と同調する。

そして、風結は立ち上がる。

「軽い!今までと全然違うぞ!」

『うむ。むしろ、最初よりも軽くなっておる!』

本物の御体を触るのは初めてと言っていたが、彦佐たち、すごい知識を持っているのだな、と改めて感心した。

風結を走らせる。羽のように軽い。


「御体だと!?なぜ、こんなところに!?」

荒熊は驚きの声を上げる。

だが、荒熊の御体は角鳴だけではない。子分たちの操る中御体が三体。すぐ後ろにいる。

角鳴は左右の腰から太刀を抜き、両手で構える。

「お前ら、敵は一体だ!挟み撃ちしろ!」

「へい!!」

中御体が左右に分かれ、風結を挟み込む。

「中御体もいるのか。役人の怠慢だな」

『白結丸、来るよ!前!』

風結が太刀を抜くと同時の一閃は、完全に中御体のひとつを捉えた。

ぎゅぅん!!

軋むような音がして、中御体のひとつが上下に裂かれる。

「まずひとつ!」

「くそつ!相手は速い!油断するな!」

角鳴はじりじりと後ろへ下がる。

「逃がさない!」

風結が間合いを詰める。

「今だ!!」

荒熊が叫ぶ。

二つの中御体が、左右から網を風結にかぶせる。

「なんだ!?」

風結は巨大な網に捕らえられる。体に絡まり、身動きが取れない。

「お、お、動けないぞ!」

『刀で斬って!』

風結は腕を動かそうとするが、中御体が網を引っ張ると絡まった腕が上がらない。

ひっぱられ、思わず地面に腰を落とす。

「くぅ!」

「おい、小僧!」

勝ち誇ったように角鳴が風結を見下ろす。

「今すぐそこから出て、おれたちにその御体をよこせ!そうすればお前の仲間の命は助けてやる」

仲間の命・・・おれは?

「断る!」

「威勢のいい餓鬼だがな、世の中、それだけ・・・」

「断る!」

「ちょっと待て、おれが今しゃ・・・」

「断る!!」

「うっせい!!」

がん!

角鳴が風結を蹴り飛ばす。

「しっかり話を聞け!」

『・・・白結丸の悪いとこ、出た』

「ミカナまで言うか。いてて」

風結を通じて、蹴られた痛みが白結丸に伝わる。

『おれは痛くない』

・・・御体の痛みはミカナには伝わらないのか。

「そんなこと感心してる場合じゃないぞ!」

「お待たせしました!」

突如、木の陰から現れた黒字に金の御体”金冠”が、風結を押さえていた網を引きはがす。

「時千代!!」

「白結丸さん!御体が見えたので、助けに参りました!」

「なんだ、次から次へと!!」

荒熊は怒っている。頭から湯気が出そうなほど。

あたりを見ると、百人以上いた子分はほとんどがやられている。まだ数人が小競り合いをしているが、やられるのも時間の問題だろう。

「この大盗賊荒熊が、こんな奴らにっ!!」

角鳴は両手の太刀を振りかざし、風結めがけて次々と繰り出す。

だが、その速さは風結には到底追いつかない。

「くそっ、このっ!!」

風結は角鳴の攻撃をすべて受け流すと、角鳴の左腕めがけてたちを振るう。

角鳴は間一髪で躱し、かすり傷を負う。

「くっ!」

角鳴の中で荒熊が痛みで呻く。


「さて、あちらは白結丸さんに任せるとして・・・」

時千代は、金冠が両手に持った網を握り直し、ぶんぶんと振り回す。

網につながった中御体が持ち上げられ、姿勢を崩し倒れる。

「この金冠、力がすごいんですよ!速さは全く姉様たちに敵わないんですけどね!」

両腕で掴んだ網を上に振り上げると、二体の中御体も振り上げられる。

そのまま、地面にたたきつける。

どぅうん!!

地響がして、中御体は二体とも半壊する。

「うーん、もうちょっとやられてください。あとで薬つけてあげますから!」

金冠はさらに網を持ち上げ、ぶんぶんと振り回すと、中御体も振り回され、宙を舞う。

「えぇぇぇぇぇいっ!」

がしゃぁああん!

二体の中御体は空中で衝突し、ばらばらに砕け散る。

「あ、ごめんなさい!痛かったですよね!?」


「では、こちらから行くぞ!」

風結が低く太刀を構え、じりじりと間合いを詰める。

「さらば!」

荒熊が叫ぶと、角鳴は風結に背を向けて逃げ出す。

「え!?」

まさか、逃げるとは!

「逃がすか!!」

風結は走り出す。あの時と同じ。

白結丸が紅羽を守った時のように、風が風結を包み、後押しする。

・・・そうだ、この感覚。

一瞬だった。

目の前に角鳴が迫り、太刀を振るう。

角鳴は縦に真っ二つに裂け、沈黙した。断末魔さえあげる暇はなかった。

『白結丸、今のは!?』

「おれにもわからない・・・」


「何人かは逃げたが、構わないだろう」

紅羽は刀を鞘に納める。いなくなっていた役人たちも、離れた森の中で見つかった。全員が気を失って倒れており、正気を取り戻すなり、口をそろえて「やはり老野坂には鬼がいたんだ・・・」と言った。

「さて、白結丸。そして藍羽の破廉恥娘」

紅羽は白結丸と紅羽の方をきっ、と睨む。

「だから、破廉恥は余分だよ」

「おれたちを捕まえるか?ならばおまえたちとも刃を交えることになる」

白結丸が腰に手をやる。

「何を言う。わたしたちは温泉に行く途中だ。怪我を癒しに行く。お前たちを捕らえてしまうと、都へ帰らなくてはならなくなり、ここまで来たことが無駄になる」

「・・・姉様」

・・・ああ姉様、やはり聡くて美しい。伊佐は姉に見とれるが・・・。

「では、おれたちはこのまま行かせてもらうぞ」

「かまわん。盗賊たちを倒したことを認め、ここは大目に見てやろう」

紅羽は踵を返し、兵たちの元へ戻って行く。

「白結丸様・・・」

伊佐は白結丸を見上げる。

「助かったぞ、伊佐。それと、肩の傷はどうだ?やはり、跡は残ってしまっただろうか?お前のような美しい娘に傷跡は残したくないが・・・」

「・・・・美しい!?」

・・・え!?これって!!

ぼっ!!

伊佐は顔を真っ赤にする。

「あ、いや、その、えと、あの、こ、これは、えと、・・・・」

伊佐がもじもじしながら、言葉が出ない。

「白結丸!この女たらしが!」

ミカナが白結丸の頬をつねる。

「痛たた!と、とりあえず、装束を着ろ、ミカナ!」


「・・・いちいち脱げるのは面倒じゃのう・・・」

ぶつぶつ言いながら帯を結ぶミカナ。


「・・・美しい・・・美しい・・・・好き!?もしや、好き!?」

小声でぼそぼそ言いながら体をくねくねさせている伊佐。

嶺巴と皆秀は物珍しい生き物を見るようにそれを見ている。

「・・・あんな伊佐姉様、初めて見ました」

「時千代、ありがとう。また助けられたな」

「いえ、そんな!でも、できれば次は、盗賊たちもうちで飼ってあげたいです」

「・・・やめとけ」





「なんだ、これは!?」

貞基は関所の在様を見て大声を上げた。

「戦いだな!?戦いがあったのだな!?」

「そのようでございますな」

関所のあたりには盗賊たちの亡骸が転がっている。

「遅かったのか!?おれは遅かったのか!?」

「そういうことではないと存じます。それに、遅かったのはあんたがおかしな森に入って行ったからでございます」

「そうか!なら仕方ない!先へ進むぞ!」

「とりあえず、ずっと登り道で兵たちも馬も疲れております。一休みと、亡骸を片付けてはいかがですかな?」

「よし、そうしよう!それと、重国。さっき、あんた、と言ったな?」

「気のせいでございましょう」

「そうか!気のせいだな!」





「・・・で、あいつら、なんでずっと後ろをついてくるんだと思う?」

白結丸が嶺巴に聞く。

後ろにはずっと緋家の姉弟たちの一群が街道を進んでくる。

「そう聞かれてもねぇ」

「一本道だから仕方ないですよ」

皆秀が当然のことを当たり前に言う。


「ずっと前を進まれると、それはそれで気になって仕方ないな」

紅羽も前を進む白結丸たちが気にかかる。

「白結丸さんが気になるのは紅羽姉様だけではないですよ」

「時!!あとでお尻ぶつよ!!」

いたずらっぽく笑む時千代。

―――そんな時千代もかわいいが・・・?

「どうかしたのか、伊佐?」

「いえ!何もありません!!」

頬を赤くして口をとがらせ、上を向く伊佐。

「?」

馬に揺られてゆっくりと街道を進んでいった。




白結丸は気まずさいっぱいだった。

さっき、ちょっとお別れ的なあいさつしたのは恥ずかしいな・・・。

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