表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/37

15 風結ノ章 十五

そこにいたのは荊火だった。

焚火に照らされた姿は、ただでさえ不気味な容姿に拍車がかかっていた。

「・・・はぁはぁ、脅かすなよ!荊火は普通に見ても怖いんだから!」

「し、心の臓が・・・・」

時千代も地面に倒れ込んで肩で息をする。

「通さん!」

「もう、わかった、わかったよ!忘れてたわけじゃないんだって」

嶺巴が荊火の頭をなでると、荊火はおとなしく目を細めた。嶺巴にだけは懐いているようだ。

「・・・・・不思議な生き物じゃのぅ」

ミカナが覗き込みながら眉をひそめる。

「・・・・お主、これは・・・・・」

「何かわかるかい?」

「うむ・・・こいつ、もう長くはもたんの」

「えっ!?」

「人であったが、今は人でない。だが、人ともいえる。珍妙な存在じゃ。本来、自然に生きるものは生きていくために必要な姿をもって生まれる。それを人の力で捻じ曲げてしまえば、命そのものを捻じ曲げるのと同じ。こうして動いていることが世の摂理に反しておる。命を使い果たせば、二度と動かなくなるじゃろう」

「そんなことがわかるのか?」

「おれは陰陽師だからの。命の風が、弱弱しくしか吹いておらん。今もこうしておるのは・・・、こやつの執念じゃな」

「執念・・・人だった時に、やり残したことがあるってことかい?」

「まあ、そうじゃろうな。それを知りたいか?」

「・・・ああ、こんな姿になってまで果たしたいことがあるってんなら、叶えてやりたいよ」

「うむ。任せよ」

ミカナは荊火の頭のそばに両手をかざす。目を閉じて一心に祈り始めた。

白結丸と時千代には荊火から漏れ出た碧色の靄が、ゆっくりとミカナに吸い込まれていくのが見えていた。


薄く、ぼんやりとした記憶。

・・・大切なもの、妹。生みの親と、育ての母・・・・。憎い、憎い・・・・・。


「ふぅ・・・」

ミカナが深く息をついた。

「そんなことで何かわかるのかい?」

「うむ、嶺巴とやら、お主、兄はおるかの?」

「いや、いないよ」

「こやつはお主を”妹”と重ねて見ておる。そして、育ての母親の敵討ちがしたかったようじゃの」

「・・・荊火の妹・・・あたしと似てるってことかい?」

嶺巴は改めて荊火の顔を見つめた。




眠れるわけがない。

ああ、時千代・・・・。ひどいことをされていなきゃいいが。

蚊や蛭にまで餌をあげたがるような子だから、痛い思いや痒い思いをしていないだろうか?

ああ、時千代に会いたい。時千代成分を補給したい。

ぎゅって抱き着いて、ほっぺをすりすりして・・・。

こうして、ああして・・・。

「?」

ああ、時千代・・・・。

時千代のどんな姿も見逃したくない。だからずっとそばにいたいのに・・・。

あんな時千代も、こんな時千代も・・・そしてあんなことやこんなこと・・・えっ!?そんなことまで!?。・・・なんてね!!

姉様(あねさま)、さっきから何をくねくねしてらっしゃるのですか?」

「びくっ!?お、おお、おおおお、伊佐!?ちょっと眠れるように体操を・・・」

「姉様もですか。わたしも眠れずにおりました」

空は満点の星空。月は低く、星が輝いて見える。

小高い丘の上に陣取り、明日の時千代捜索に備えて、しっかり眠っておけと兵たちには命じていた。

「伊佐もか。わたしも時千代が心配で仕方ない。だが、時千代も武士の子。傷つこうとも、立派に最後まで戦ってくれるだろう・・・」

い・や・だ!

時千代が傷つくなんて、絶対嫌だ!!痛い思いなんかさせたくないんだから!!

「・・・姉様、少しはお休みを」

「うむ・・・」

伊佐は姉の紅羽の横顔を眺めていた。

――――ああ、姉様、凛々しい・・・・。かわいい時千代を心配する姉様の横顔は、ほんとに凛々しくて美しい。星明かりの下の姉様、ずっと見ていたい。

「姉様、あれは!?」

伊佐の指さした先、森の奥に強い光が現れ、すぐに闇に溶けて消えた。

「なんだろう?幻か?」

「姉様、もしや、あの辺りに時千代が?」

しばらくの静寂。

ここから北西の方角。御体の足ならすぐの距離。

そしてその方角から、ほんのかすかにだが、悲鳴のような声が聞こえた。

「時千代!?」

考えている暇はない!時千代が、悪人たちにいたぶられているに違いない!

そして、そんな時千代は今しか見られない!

そんな姿の時千代もかわいいに決まっている!見たい!

「伊佐!」

「はい!姉様!!」

「すぐに向かう!兵を起こせ!」

「承知!」

伊佐は兵たちのところへ走る。

・・・ああ、やっぱり時千代を想う姉様は凛々しくて、美しい・・・。

紅羽も綾芽に飛び乗る。

―――いじめられている時千代も絶対かわいい!・・・えへへ。






「・・・・あれ?」

「紅羽姉様!!怖かったですっ!!」

時千代は紅羽を見るなり飛びついた。

そこには時千代と金冠だけが取り残されていた。

「時千代・・・無事でよかった・・・。ひどいことされなかったかい?」

「はい!大丈夫、いい方たちでした!」

キラキラとした笑顔の時千代・・・かわいい。

・・・でも、ちょっと、・・・いや、だいぶがっかり。

「時、あいつらはどこ行った!?」

「もう行ってしまいました」

「どこへ?」

「わからないんです。教えてくれませんでした」

「ああ、・・・そりゃあそうだね」

「兵たちよ!このまま奴らを追うぞ!夜の闇に眼を慣らしておけ!」

おう!!

紅羽の号令に兵たちが答える。

「ともかく、時が無事でよかった・・・」

ホッとした顔の伊佐。普段時千代に厳しい伊佐も、こんな顔をするのだなぁ。

「ありがとう、紅羽姉様!伊佐姉様!」

飛びきりの笑顔を見せる時千代。かわいい。

しかも、今、わたしに抱き着いている。

・・・ということは?

・・・これは、これは、ぎゅって抱きしめていいやつなんでは!?

感動の再会だし!ぎゅって・・・ぎゅって・・・・していいのでは!?

そうだ、自然な流れじゃないか!囚われていた弟と、それを助けに来た姉!普通、抱き合うじゃん!!

うん、今だ!両腕を時千代の背中の方へまわして・・・・。えへへへへ・・・・。

「紅羽姉様!」

「ビクッ!?あ、はい!」

あー、台無し!両手をふわふわさせてごまかす。

「時千代は六原へ帰って汁粉が食べたいです!」

「よし、わかった!全軍、都へ引き返す!追討は取りやめだ!」

「え!?今、このまま追えば・・・」

「伊佐!違う!今、わたしたちが姉としてすべきは、時千代の心の傷を癒すことだ!」

ぽかん、とする伊佐。よし、とこぶしを握る時千代。

・・・ちゃんと約束通り、紅羽姉様を説得しましたよ!時千代は約束を守ります!

「孝基叔父がいい加減なことを申し付けたおかげで時千代が怖い目にあったのだ!これは孝基叔父に文句申し上げねばならん!!」

「・・・・そうですね!何はともあれ、時千代が無事でよかった!兵たちよ、撤退だ!!」

おう・・・おう?

戸惑う兵たち。

「すまない、時千代。わたしがついていながら、怖い思いをさせてしまった・・・」

「いえ、紅羽姉様はこうしてちゃんと迎えに来てくれました!時千代はとてもうれしいです!」

そう言って紅羽にギュッと抱き着いて装束に顔をうずめる。

―――きゃーっ、かわいすぎるぅ!!こっちからも、ぎゅってしなきゃ!しなきゃっ!!

「紅羽姉様!」

「ビ、ビクッ!?あ、はい!?」

「紅羽姉様は母様と同じ匂いがしますね」

「・・・・・・・」

―――そんなこと、そんなこと言われたら、ぎゅって出来ないじゃないか・・・。






一行は再び山の中に御体を隠し、見張りに荊火を残して都の西側、西院門へやってきた。

「あいつは目立つからな」

腕を頭の後ろで組みながら歩くミカナ。

嶺巴とミカナもじゅうぶん目立つが・・・。

「とりあえず、その楠流工房で慶秀について話を聞こう」

羅城門のような楼閣はないものの、西院門も大きな門が据え付けられており、その脇に人が通る扉があった。扉は解放されていて、誰でも出入りできるようだ、羅城門よりも人の往来は多く、賑やかで活気がある。

「お主たちがなぜ羅城門へ行ったかわからぬが、この西院門から入れば職人街はすぐじゃ」

・・・・嶺巴は右上を眺めながら口笛を吹いている。

嶺巴は絶対的方向音痴だ。道を間違えなかったことがない。

今も、違う方向へふらふらと歩いていく嶺巴の腰の帯の先を白結丸がしっかりと握る。

「・・・犬じゃないんだから・・・」

「犬ならちゃんと家に帰って来るよ」

白結丸の言葉に、いじけ顔の嶺巴。

「もう、なんでそっちに行こうとするんだ、こっちだろ!?」

「お、おい!あんまり帯を引っ張らないでおくれよ!ほどけちまう!!」

「こら、あんまり騒ぐな!周りに見られておるぞ!」




「なんだか、あちらの大路の方は人が多いのぅ」

「何だろうね、祭りでもあるんじゃないかい?」

嶺巴がいい加減なことを言う。

「・・・・祭りか・・・・・」

「こちらに人が少ないなら好都合だ。楠流工房はもうそこの先だから」

白結丸が嶺巴の帯を握りしめたまま言う。

「・・・白結丸!」

「・・・・・・ミカナ、おれ、嫌な予感しかしない」

「見に、見に行ってもいいかのう!!」

目をキラキラさせてる!星がいくつも見える!

「はぁ、そういうと思った・・・。でも、おれたちは緋家に追われる身・・・」

「まあ、いいんじゃないか?これだけ人がいれば、見つかることは少ないだろう」

「・・・一番目立つ格好でよく言うよ」

「おれ、おれ、ずっと封魂炉の中だったから、祭りが見たい!!」

・・・この愛らしい顔でねだられては断りづらい。

「・・・少しだけだからな。目立つことはするなよ」

「大丈夫!ミカナはあたしが見ているからね」

「嶺巴が一番心配なんだよ・・・」




「時千代様が都にお帰りになられた!」

「紅羽様も伊佐様もご一緒だ!」

「お美しい姫様方をお目にかかれるぞ!」

「一目、一目でいいから時千代様を!!」

三人が群集の中に紛れていると、声が一段と高まってくる。

「おい、ミカナ、嶺巴!時千代たちが帰ってきたらしい!それを見に集まっているんだ!」

「・・・なんだ、祭りじゃないのか」

「そんなこと言ってる場合か、ここから離れるぞ!」

と言ってその場を離れようとするが、あとから次々と押し寄せる群衆に阻まれて身動きが取れない。

「なんだ、なんだ。すごい人だな!!」

「い、息苦しい・・・」

背丈の小さなミカナはこれだけの人に囲まれては息ができない。

嶺巴がひょいとミカナを抱え上げる。

「ふはぁ、苦しかった!」

と、その時。周りの群衆が一斉にどよめいた。

「わーーーーー!!時千代様!!」

「紅羽様!!」

「伊佐様!!」

群衆が大騒ぎになる。

「すごい人気なんだな・・・」

「なんだい、おめぇたち、知らねえのかい?」

白結丸の隣にいた男が話しかけてくる。

「今日、都に着いたばかりなんだ」

「そうかい。あの先頭の馬に乗ってるのが時千代様と紅羽様だ」

鎧装束の凛々しい美人の背中に、時千代がしがみついて群衆に手を振っている。

「その次の馬に乗っているのが紅羽様の妹の伊佐様だ」

意志の強そうな切れ長の目。紅羽にも劣らない容姿でまっすぐ前を向いて進む。

「あの、浄基様のお子たちだ。おれたち都の民は、紀基様より時千代様達に緋家を継いでほしいと願っとるんだよ。浄基様が亡くなってから、都は荒れる一方で。租は上がるし、取り立ては厳しくなるしで。浄基様がもう少し長生きしてくれりゃあ、良かったものを」

「・・・・・・・」

「偉い人は戦のことしか考えとらん。戦するには金がかかるからな。せっせと御体なんか作っとる暇あったら、民に施しをしてくれりゃあいいものを・・・」

六原で起きた白結丸の父・宗明の乱以降、大きな戦こそないもののあちこちで小競り合いは常に起きている。いざこざを武力で解決する時代、御体ひとつがすべての勝敗を左右する。御体を作るためには膨大な資金がいる。

「は、白結丸!大変じゃ!」

嶺巴に持ち上げられているミカナが血相を変えている。

「ど、どうした?」

「時千代と目が合った!!」

「は!?」

見ると、時千代がこちらを向いて手を振っている。

「おーい、ミカナさん!白結丸さん!嶺巴さん!ちゃんと逃げられたみたいでよかったです!!」

えぇぇぇぇぇぇえええええーーーーー!!

「また会えてうれしいですよ!!」

時千代は心底嬉しそうだが、だからと言って再会を喜んでいる場合じゃない。

「に、逃げよう!!」

紅羽と伊佐が馬をこちらへ向ける。

「待て!!悪人ども!!」

紅羽が叫ぶ。追いかけようとするが、集まった群衆が邪魔で思うように進めない。

「一旦、都の外へ!」

ミカナを抱きかかえたまま、嶺巴が走りながら叫ぶ。白結丸も後に続く。

後ろから、群衆を振り払った紅羽と伊佐が迫る。

「みなさん、また見つかっちゃいましたね!!」

あくまでのんきな時千代。

「くそつ、馬には敵わない!追いつかれる!」

「仕方ない!やるよ!!」

嶺巴が立ち止まりミカナを下ろす。白結丸も立ち止まり、腰の刀を抜く。

「観念しな!悪人ども!その首、この緋浄基の娘・紅羽がもらい受ける!・・・いや、時千代がもらい受けるのだ!」

紅羽も馬の手綱を時千代に渡し、馬を降りて刀を抜く。

・・・なんか、どうしても時千代に手柄をたてさせたいみたいだな。

「同じく伊佐!」

「時千代!!」

・・・なんだよ、時千代!って!誰のせいでこうなったんだよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ