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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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10 風結ノ章 十

「ここが都か!?人が、人が多い!!」

白結丸は驚きを隠せない。蔵馬の山中とはあまりにかけ離れた都の景色に、興奮が止まらない。

「あんまり大声を出すと周りから怪しまれるよっ!」

「しかし、家だらけで、人だらけで・・・」

初めて見た都の町には行商人や町人たちが行き交う様子でごった返していた。山育ちの白結丸が興奮するのは無理もない。都育ちの嶺巴はこんなものが珍しいのかと首を傾げた。

「さて、とにかく職人街へ行くよ。ついておいで」

「お、おう」

白結丸はあたりをきょろきょろしながら嶺巴について歩く。



「あら、お兄さんは職人さんかい?」

「職人探しなら、職人街へ行きな」

そう言われること数十回。

「なあ、同じ所をぐるぐる回ってる気がするんだが・・・」

「おかしいねぇ・・・・。七条の角を右に曲がって・・・」

「右って言いながら何で左に曲がるのさ!?」

「だって、あたしから見て右って、相手からすると左ってことで・・・」

「・・・・・・」

そんなこんなを延々と繰り返し、職人街に着いたときには太陽が一番高いところに登っていた。



「今、都で一番の職人って言うとどなたかしら?」

嶺巴が着物の胸元の谷間をちらとのぞかせながら、職人と思しき男たちに声をかけると、あっという間に情報の方から集まってきた。今、都で一番の職人と言えば楠流(くすりゅう)の元締、楠重蔵という男らしい。

楠という名前を聞いて嶺巴は顔を顰めたが、通常職人達は師の屋号を名乗ることが多いため、職人の流派も細かく枝分かれしていることが多い。同じ楠を名乗っていても、所縁があることは少ないだろう。

「嶺巴、大丈夫か?」

楠流の工房を突き止めた二人は、その工房の前までやってきた。

「あたしは大丈夫。ただ、もし、常秀の奴がここにいたら、正体がバレちまう。」

「そうだな・・・なら、ここはおれだけで行く。嶺巴は外で待っていてくれ」

「・・・大丈夫かい?白結丸だって、正体がばれたらまずいんじゃないかい?」

「重蔵とやらが緋家よりなら・・・かなりまずいけど・・・。正体さえ明かさなければ大丈夫さ」

心配そうに白結丸を見る嶺巴。

「なら・・・・」

着物の胸元に手を入れて、何か取り出す。

「危ないと思ったら、これを吹きな。玄市が持っていたのと同じ笛だよ」

「・・・わかった。ちゃんと、笛の鳴るほうへ来てくれよ」

「・・・・・まかせろ」

自信なさげな嶺巴に見送られ、不安な面持ちで白結丸は工房へ入っていった。



門扉をくぐり、中へ入る。

一歩中へ入ると、工房の中は木の香りで満ちていた。

柿葺(こけらぶき)の屋根と土塀、湿気を避けるために石台の上に作られた高床。鋸と鉋をする音が聞こえている。足元に転がる木片や木の粉、削りくずが舞い、樹脂の香りが鼻腔の奥に届く。

そっと玄関を開け、中をうかがう。

「誰か、誰かあるだろうか・・・?」

屋敷の奥の方で声が聞こえる。何か怒鳴り合っているような。奥から不穏な”風”が流れてくる。

・・・・出直した方が・・・・。

白結丸が戻りかけた時、奥からどすどすと歩いてくる男がいた。

装束に烏帽子を身に着けている。左目の上にほくろがある。その姿は職人には見えない。

「まったく、あの石頭め!!今に吠え面書かせてやろうぞ!!・・・どけ!小童!!」

白結丸をちらと睨み、男は悪態をつきながら出て行った。その後に従者らしき男たちが二人続く。

隠れることもままならず、脇に避けてやり過ごす。

その男たちが出ていくと、奥から男が走ってくる。

「二度と来るんじゃねぇぞっ!!」

そう言いながら手にいっぱい握りしめた塩をあたりに振りまいた。

「うはっ!?ぺっぺっ!!しょっぱい!!」

「・・・・なんだおめぇ。まだいるのか!?」

「い、いや、おれは・・・」

「とっとと帰らねぇか!!」

白結丸はもう一度、清めの塩を頭からかけられた。




「いや、すまねえ。あいつらの仲間かと思っちまってな」

塩をまいて落ち着いたのか、急に柔らかな口調で男が言う。

「さっきの奴らは?」

衣装に着いた塩を払い落しながら白結丸が聞く。

「あいつら、緋家の御体守(みたいのかみ)だ。畜生、忌々しい!」

緋家の連中!?白結丸は背筋に冷たいものが走った。気づかれなかったようだが・・・。外の嶺巴は大丈夫だろうか?

「で、若いの、何の用だ?」

どうやらこの男がこの屋敷の主のようだ。楠重蔵だろう。

老齢のようだが体の肉付きがよく、腕と肩の筋肉は目を見張る。長年木を彫り続けてきたのだろう。

髭は白く、髪はない。

「あ、ああ。実は御体を直してくれる御体匠を探していて、心あたりがないかと・・・」

「何だと!?てめえも御体ってか!!」

突然重蔵は鬼の形相に代わる。

「あ!?いや、あの!?」

ごん!!

急に頭の上に重い重い何かがぶつかったような・・・。確かめる間もなく、そのまま気を失った。



「はっ!?」

白結丸が目を覚ますと、畳の上だった。ずきんずきんと頭が痛む。手をやると、どうやらこぶになっているようだ。濡れた手拭いが頭に乗せられている。

「あら、気が付いたかい!?」

女の声がした。

「いてて・・・ここは?」

「ここは楠工房だよ。何か用があってきたんだろ?あの人もこんな子を殴るなんてどうかしてるよ」

楠重蔵の妻だろうか?小袖を着て髪を結わえている。やや高齢のようだが、重蔵同様、締まった体をしている。

ああ、そうだ。御体と言ったとたんに殴られた。

「あたしはきみ。楠重蔵の妻さ。あんたは?」

「お、おれは白結丸。蔵馬の白結丸だ」

「ほお、蔵馬かい?随分遠いところから来たんだね。何か仕事の依頼かい?」

「・・・いや、御体を治せる御体匠を探して・・・」

と言いかけたところで、きみに口をふさがれた。

「御体のことは言っちゃいかんよ。そうか、それで殴られたんだね」

「むぐ・・・むぐぐ・・・・・」

「悪いけど、うちの人、御体が大の嫌いでね。さっきも緋家の役人と大喧嘩して。御体の部品を作れって言われたらしくってね。そんな仕事できるか!って追い返しちまったんだよ」

「むぐ!・・・・むぐ!ぐぐ・・・・!!」

「あの人、口下手だからねぇ。ちゃんと言ってやればいいのにさぁ。口より先に手が出るっていうかねぇ」

「・・・・・・むぐ・・・・・・・む・・・・・・・」

「ちょっと、あんた。聞いてんの!?人が教えてやってんのに、寝るんじゃないよ!ちょっと!」

白結丸は白目をむいてまたも気を失いかけた。



ひどい目にあった・・・。正直、職人にはもう関わりたくないな。

白結丸は重蔵の屋敷を出ると、嶺巴と落ち合う。

「で、どうだった?」

「・・・・御体匠については何も・・・。もう考えたくもない」

「・・・なんだい、それ?」

白結丸がふるふると首を振ったので嶺巴もそれ以上聞かなかったが、何かひどい目にあったのだと察した。

「じゃあ、これからどうしようか・・・。手がかりがなくなっちまったね」

嶺巴がため息をつく。

「そういえばさっき、緋家の役人たちが出てきたけど見つからなかったかい?」

「あいつら、知っているのか?」

「ああ、たぶんだけど御体守の佐伯信典(さえきののぶのり)だね。あまり会ったことはないけど、常秀と懇ろの嫌な奴さ」

皮肉っぽく言う。

「よっぽど嫌いなんだな、その常秀ってやつ」

「ああ、大嫌いさ!」

思い出すだけでも嫌だ、と言わんばかりに頭を振る。

「とりあえず楠重蔵は御体嫌いのようだから、ここにいても御体匠にはつながりそうもないな」

二人は重蔵の屋敷を後にした。




それから二日ほど、近くの寺で寝泊まりして聞き込みをしたが御体匠についての情報は得られなかった。

御体が作れるほどの知識のある職人は、すでに地方の名のある武家に引き抜かれて都には残っていないのでは?という話だった。

彷徨い疲れて二人がやってきたのは、あの羅城門。少しでも御体に関する事柄がないだろうかと、ここへ戻ってきた。

昼間に見ても、不気味な城郭。そびえたつ楼閣と、通る者を見下ろすように飾られた朱雀の装飾。

「やっぱり気持ち悪いなぁ・・・」

「我慢しな。ここは唯一、御体がいた場所だからね。何か残されているかもしれないよ」


二人は扉を抜け、あの気色の悪い小御体と戦った中庭に入る。草が生い茂り蜻蛉が跳んでいる。昼間に見ると、あの時の印象よりもずっと広い。

「とりあえず、あの上の階に登って・・・・」

「まて、嶺巴!・・・・何かいる!」

白結丸の声が低くなる。奥の楼閣から、漂ってくる”風”を感じた。何か、言いようもない混ざり合った色味のない”気”。

「まさか・・・・!?」

嶺巴もはっとしてあたりを見回す。あの時確かに倒したはずの小御体の亡骸がどこにもない。

「・・・なんてこった!?まだ生きてたのか!?」

布にくるんでいた太刀をほどき、鞘から抜く。白結丸も腰の刀を抜き、構える。

奥の陰から、金属音が聞こえてくる。ガシャガシャという、あの音。

徐々に見えてきたのは、四本足とまとわりつくような長い髪、そして両腕に生えた鎖。

あの時の小御体だ。

「通さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

獣のような咆哮を上げ、小御体はこちらへ向けて鎖を伸ばす。

二人はそれぞれ左右に跳び、鎖をよける。

小御体は嶺巴に狙いを定め、両腕の鎖を伸ばす。嶺巴は刀でそれを受けると、鎖を刀にぐるぐると巻き取るように絡めとる。

「今だ!白結丸!!」

「承知!」

白結丸が小御体の背後を取る。一気に間合いを詰め背中の一番太い管目掛けて振りかぶる。

小御体は痙攣したように震え、のたうち回りながら鎖を振り回して暴れる。

「まだ動くっ!?」

背中の管から血を吹き出しながら暴れまわる。

「待て!!待ってくれ!!」

不意に、建物の奥から声がした。

白結丸は振り下ろす刀を小御体に少し食い込んだところで止める。

「何だい、いったい!?」

「人がいるのか!?」

二人が奥へ向かって叫ぶ。

「すまない!!でも、もう壊さないでくれ!!」

建物の奥の陰から走り寄ってきたのは、細面の長身の男だった。

「こいつ、三日かけてようやく直したんだ!」

そう言いながら白結丸の前に立ち、息を切らしながら小御体を守るように立つ。

男は急いで小御体の背中の管をつなぎ、布をぐるぐる巻いて血が噴き出るのを止めた。

嶺巴と白結丸は顔を見合わせて刀を収めた。



「本当にすまなかった!」

男は皆秀(かいしゅう)と名乗った。白結丸と嶺巴が小御体に襲われたことを伝えると、両手をついて頭を下げた。

「知らなかったんだ。おれが寝ている間にこいつが人を襲っていたなんて」

皆秀はこの羅城門の二階に住み着いている。鬼の伝承で人が寄り付かなくなって、住処にするにはちょうど良かったから、と話していた。

そこには、ばらばらになったたくさんの部品や管、木材や鉄くずが散乱している。

「おれはここで、小御体を調べていたんだ。親方のところで御体匠になりたいって言ったら追い出されてしまって・・・。住むところもなく仕方なくここで・・・」

「御体匠?もしかして楠流か?」

「・・・そうだ。まだ継ぎ名ももらっていないが」

楠を名乗ることを許されていないのだろう。

「じゃあ、あんた、御体を直せるのかい?」

嶺巴が期待を込めた目で聞く。

「・・・無理だよ。おれはようやくこの小御体を直せるようになったところで・・・。御霊石を触ったこともないから・・・」

「・・・・そうか」

あからさまにがっかりした様子の嶺巴。

「でも、どうしてその小御体を?」

先ほどまで鎖を振り回していた小御体は何かが切れたようにぐったりと動かない。

「まだ生きているんだ。罪人とはいえ、御仏以外が人の命を弄ぶのは許されないさ。それに、こいつも生きたいと思ってる。だから少しでも生かしてやりてぇんだ」

「言葉が交わせるのか?」

「いや、こいつはもう人じゃないから、仕込まれた言葉、通さん!しか言えねぇんだよ。どうして緋家の奴ら、こんなひどいことを思いつくのか・・・・」

皆秀は胸のあたりをぼりぼりと掻いて、二人に向き直る。

「あんたたち、御体匠をさがしてるのかい?」

「心当たりがあるのか?」

「いや、残念だが直接は知らねぇ。だけど、親方のよくできる弟子が何人か御体匠になったって話だ。さっきの口ぶりからすると、親方のこと知ってるんだろ?でも、親方に御体のことは話さねぇ方がいいぜ」

・・・ああ、それはしっかり体で覚えた。

「その弟子というのはどこにいるかしらないかい?」

「一人は・・・緋家の御造所にいるって話だな」

・・・ああ、常秀か。やはり。

嶺巴はまたあいつの話を聞いてしまったか、と嫌な気持ちになる。

「もう一人、直に唐へ渡って、この国で初めて御体を作ったってすげぇ人がいたみたいだが、今はどこにいるかわからねぇ」

「名前は?」

「それが、誰も教えちゃくれないからわからないんだ。すまないな、力になれず」

だが、楠流からは御体匠が何人か出ているということだ。もう少し詳しく当たれば、情報が出てくるかもしれない。

「もう一度、楠流工房をあたってみるか・・・」

白結丸と嶺巴は顔を見合わせてうなづく。すると、皆秀が二人を交互に見ながら小声で言った。

「・・・・おれも、ついていっていいだろうか?」

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