唐揚げ男爵の男爵いも断捨離日記
今日もまたつまらぬ男爵いもを捨ててしまった。メークインはとってあるのだがね。どれくらいかって? そうだね、この間引っ越した時に追加料金で42万取られたぐらいだね。単位? もちろんドミニカペソだよ。
私はしがないただの唐揚げ。盛り合わせになれなかった負け犬と言われることもあるけれど、私自身はそう思わない。たった1人で唐揚げライフを楽しむ私は、自分のことを「唐揚げ男爵」と名乗っているよ。どうか君たちも唐揚げ男爵、呼びにくければツァカンツァ・ツォンツォツォンとでも呼んでくれて構わないよ。唐揚げ仲間は主に後者で呼んでくれるがね。呼びやすいのだろうね。
そんな私には悩みがあるのだよ。それは、じゃがいもに目がないこと。じゃがいもコレクションなるものをここ数年作っているのだけれども、どうもじゃがいもというものは芽が出てしまうのだね。元々食べる気は無いのだから問題は無いのだがね。
だが芽が出てしまうとじゃがいもの美しいフォルムが台無しになる。じゃがいもは芸術だ。一つ一つの個体がそれぞれの形でそれぞれの「美」を表現していて、その表現力の高さを見て私は毎度感動するのだよ。
そして私はじゃがいもたちの芸術性に敬意を表し、それぞれに名前をつける。
ダン・バン・ラム、クエ・ゴック・ハイ、ドアン・バン・ハウ、ファム・タイン・オルン……。様々な名前をつけてきたよ。
え? なんで全員サッカーベトナム代表の名前なのかだって? それはほら、じゃがいもってサッカーボールと大体同じ形してるから。なんとなく丸いし。え? メークインは楕円じゃねえかって? 丸は丸だ。あとベトナムで川下りしたい。
そして私にはもう一つ重大な悩みがある。それは、メークインだけが好きなこと。男爵いもはどうも受け付けないのだよ。理由? それはほら、男爵って名前が私と被ってるからだよ。お前はツァカンツァ・ツォンツォツォンじゃねえのとかいうツッコミは男爵いもと同じくらい受け付けないよ。
だがどうしてもじゃがいもを買う時に「とりあえず全部ください。レシートに連絡先を書いてからください」と言うせいで男爵いもが混じってくるのだよ。もちろん他の野菜や肉、飲みものなんかもあるけれど、それらはきちんと責任を持っていただいているよ。唐揚げが肉食うなとかいうツッコミは男爵いもと同じくらい受け付けないよ。
だから私は仕方なく男爵いもを断捨離する。いつもいつも袋にまとめて捨てるのが面倒なのだけれど、男爵いもは受け付けないのだから仕方がない。
ということで今日も男爵いもを断捨離しようとメキシコ国歌を歌いながら意気揚々と袋を持って来たわけだが、どうも今回の男爵いもは話が違うようだね。驚いたことに、男爵いもの一つが話し出したのだよ。
「唐揚げ男爵! ちょっと待って! オイラたちを捨てないでおくれ!」
「……? ああ、私のことかね?」
「あんただよ! 他に誰がいるって言うのさ!?」
唐揚げ男爵と呼ばれるのが久しぶりすぎて、数秒間考えてしまったよ。前に呼ばれたのはいつだったかな? 確か中臣鎌足から呼ばれた気がするね。
「唐揚げ男爵、オイラたちを毎回簡単に捨てるのはとっても悲しいよ! どうかオイラたちの話を聞いておくれ!」
「ふむ、どんな落語を披露してくれるのかね?」
「誰がこの感じで小噺するのさ! じゃがいも落語ってちょっと面白そうなのが腹立つ!」
男爵いもの話など聞きたくはないが、ここまで主張しているのだから仕方がないね。聞いてあげるとしようか。
「男爵いもにはいいところがたくさんあるんだよ! 男爵いものいいところは、ホクホクとした食感と、じゃがいもらしい香りが楽しめること! 特に、じゃがバターやポテトサラダ、コロッケなど、加熱してホクホク感を活かした料理に向いてるんだよ!」
ふむ、確かに男爵いもは特に日本で多く栽培されている品種。じゃがいもらしさで言えばトップクラスなのかもしれないね。
「それから煮崩れしやすい特性もあって、カレーや肉じゃがなどの煮込み料理では、じゃがいもがルーに溶け込み、とろみと旨味を出すのに貢献するんだよ!」
煮込み料理にも向いていると。それを聞くと確かにじゃがいもとしての価値は高いように感じるね。
「どう? 唐揚げ男爵。これだけ聞いてもまだ男爵いもを捨てるの?」
「うん」
「うん!? え、うん!? あれだけ熱弁したのに!?」
「だって私、男爵いも食べないから」
「食べないの!? こんなに集めて何してるのさ!?」
「え、そりゃボウリングとか」
「もっと食べものを大事にしなよ! ああちょっと袋に入れようとしないで!」
あまりにも騒ぐので、この喋る男爵いもだけを袋から取り出してみる。
「仕方ない。せめて君だけでもうちに置いておいてあげよう。せっかくだから名前を付けようかな」
「え? 名前を付けてくれるの?」
「そうだね、私の話し相手ということで、男爵の名前は残したいね。でもただの男爵だと私と同じになってしまうから、下男爵とかはどうだい?」
「何さ下男爵って! 聞いたことないよ!?」
「あとそのままだと気持ち悪いから、色を塗ろうじゃないか。蛍光ブラウンとかでいいかい?」
「気持ち悪い色! 何その光る茶色!」
私はハケと絵の具を取り出し、下男爵を蛍光ブラウンに塗った。うん、これなら家に置いていても不快ではないね。
こうして、カラー下男爵が誕生したのだよ。唐揚げ男爵とカラー下男爵は、これからも男爵いもを断捨離していくことだろうね。
男爵いもを断捨離しようとする度にカラー下男爵に止められかけるのは、また別のお話。