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社畜にブラックギルドはぬるすぎる!  作者: 城太郎
第一章・新人研修編
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5.クロダ、豪遊する

「今日はもう時間だから、帰っていいぞ」


 ジェイクの言葉に、クロダはハッと我に返った。壁に掛けられた時計を見上げると、時刻は21時を指している。


 周囲を見渡すと、部屋にはいつの間にかクロダとジェイクの二人だけ。いつの間にか、他の新人たちの姿はなかった。


「え……でも、全然終わってませんよ? まだまだこれからじゃないですか?」


 クロダの反論に、ジェイクはあからさまに舌打ちをした。


「お前一人でこの量、何日かけるつもりだ? 残りは明日でいいから、帰れって言ってんだ」


(本当に、こんな早い時間に終わりなんだ……)


 クロダは信じられない思いでジェイクの表情をうかがったが、冗談を言っているような雰囲気ではなかった。ジェイクはクロダのもとに歩み寄り、無造作に小さな麻袋を押しつけた。


「ほら、今日の日当だ。さっさと受け取って失せろ」


 クロダは慌てて両手で麻袋を受け取って中身を確認した。中には銀貨が数枚――合計で1万ブラックがきっちり入っている。


(たしか、紹介してくれた男の話だと、通貨価値は1ブラックで1.5円くらい。ってことは……日当1万5千円?! え、こんなに楽な仕事で、そんなにもらっていいのか?)


 クロダは感激のあまり踊り出しそうになったが、ここでもたついてジェイクを怒らせてしまっては元も子もない。クロダはジェイクに深々と一礼し、軽やかな足取りで作業部屋を後にした。


(今日は時間も短かくて楽だったし、体が軽い)


 その足でギルドの食堂へと向かう。何はともあれ、まずは腹ごしらえだ。





 食堂に入ると、そこはがらんとして閑散としていた。


 確かにテーブルは汚れが目立ち、ゆがんだ椅子は座るとガタガタと音を立て、メニューも三種類しかないが、ギルド職員なら無料で食べれるというのだから驚きだ。


 日替わり定食を注文してみたが、なかなか美味い。


(昔から、社食がある職場に憧れてたんだよな……みんな、もっと利用すればいいのに)


 そのとき、先ほどまで隣で一緒に作業していた男が通りかかった。一人食事をしているクロダを見て、驚いた様子で声をかけてくる。


「あんた、ここで食べてるのか?」


「はい。量も多いし、美味しいですよ。毎日来ようと思ってます」


「そ、そうか……俺は、今日は外で食うわ」


 男は何とも言えない微妙な表情をしている。


(好みのメニューがなかったのかな)


 クロダは、目の前のブルースライムの丸焼きをフォークに突き刺し、しげしげと眺めた。


 青く透き通ったプニプニは、およそ人間の食べ物とは思えない見た目をしている。


(食べてみると、意外や意外、結構イケるんだけどなあ……)


 青いプニプニをうっとりと眺めるクロダを見て何を思ったか、男は「お疲れ」とだけ言い残して逃げるように食堂を出ていった。





 のんびりと定食を平らげた後、クロダはふと思案した。


 出勤初日で体はさほど疲れていない。時刻もまだ夜十時。寝るには少し早い。


(せっかく異世界に来たんだし、夜の街を少し歩いてみようか)


 そう決めたクロダは、ギルド会館を出て夜の街へと繰り出した。


 街の中は想像以上に人通りが多く、あちこちの酒場や屋台から楽しげな声が響いている。


 通りを行き交う人々の中には、人間だけでなくオークやエルフといった異種族の姿も混ざっている。なかには、虹色に光る耳を羽ばたかせて宙をふわふわと漂う、ウサギのような不思議な生き物を連れている者までいた。


 これぞ異世界――そんな雰囲気に胸を弾ませながら街を歩いていると、目の前にひときわ賑やかな酒場が現れた。


 クロダは少し迷ったが、ポケットには今日分の給料がたっぷりと入っている。


(食堂で夕飯は食べてきたけど……いや、異世界に来た記念日なんだから、ちょっとぐらい派手にいっても罰は当たらないだろ)


 そんなことを思いながら、クロダはそっと酒場の扉を押し開けた。


 酒場の中はさらに人の密度が増し、騒がしかった。酔っ払い同士が肩を組んで歌を歌い、店のあちこちで笑い声が飛び交っている。


 クロダは隅の空いた席を見つけて腰を下ろした。


 エールとつまみを少しだけ注文した。


(腹が減ってるわけじゃないし……雰囲気を楽しむだけだ)


すぐに運ばれてきたエールを、グイッと一口。たまらない。


 続いてフライを一口。何の肉かは分からないが、ジューシーで美味い。エールをもう一杯頼み、豪快に飲み干す。


 気がつけば、何度もおかわりをしていた。


 すっかり酔いが回っていい気分になり、クロダは会計を済ませて店を出る。お会計は驚くほど安く、その気になればもう5、6軒は飲み歩けそうだった。


(でも、急に金が必要になることもあるかもしれない。今日はこのへんで切り上げておこう)


 クロダは、ほんのり赤くなった頬を冷ましながらギルドの寮へと向かった。時刻はちょうど0時を回ったところだ。


 寮はギルドから徒歩1分の距離にあり、立地としては申し分ない。入り口で警備員にギルドの職員証を見せ、カギを受け取る。


 クロダの部屋は201号室。ドアを開けると、そこは四畳半ほどの狭い一人部屋だった。


(ちょっと狭いけど、一人部屋をもらえるだけありがたいな)


 クロダは、部屋に唯一置かれていた備え付けのベッドに腰を下ろした。


(これだけ豪遊して、まだ0時。出勤は8時だから、あと7時間も眠れるぞ)


 クロダは満足げな笑みを浮かべながら、布団に潜り込んだ。


(まったく、なんてホワイトギルドだ……異世界、最高じゃないか……)


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