44.対決! 魔術研究課②
頑固で、子どもじみていて、底意地の悪い、偏屈じじい。
――バルドによる、ロドルフ評である。
保守的で、利己心が強く、面白みのない、臆病者。
――こちらは、セシルによるロドルフ評だ。
聞いていた通りの光景が、目の前で繰り広げられていた。
「やーじゃ! やーじゃ!」
「そ、そこをなんとか……」
「やーじゃ! やーじゃ!」
「話を聞いてもらえませんか……!」
「お前の顔が気に入らん! 嫌じゃ!」
「か、顔……」
クロダは絶句した。会話にならない。助けを求めるように魔術研究課の面々を見るが、誰もがわざとらしく視線を逸らす。
「こうなった課長は、誰も止められないだろ……」
どこからか、そんな声が漏れ聞こえてくる。
困り果てて隣に目を向けると、イゼルと目が合った。イゼルは頷き、遠慮がちにロドルフに声をかける。
「ロドルフ課長……しかし、この案は魔術研究課にも多くのメリットがございます。どうか、ご一考を」
「別に、今のままでもうちの課は売上トップじゃしの? わざわざやり方を変える必要はなかろう?」
「ですから、その売上がさらに上がるというお話でして……」
「さらに上がるじゃと?」
ロドルフの表情が一変した。急に暴れ回るのをやめ、目つきが鋭くなる。
「さらに上がって……それの、どこがうれしいんじゃ?」
クロダたちは顔を見合わせた。ロドルフの話の意図が読めない。ユートが、おずおずと手を挙げる。
「それは、売上が上がったらみんなうれしい……じゃないスか?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。青い。青いのう。売上が上がってうれしいとはのう……」
「え……?」
ユートは反論しようとしたが、ロドルフの表情を見て黙り込んだ。
ロドルフは、さきほどのように怒鳴り散らすことはない。しかし、その目に宿るのは――強い"怒り"だった。
「売上が上がったらうれしい……わしもギルドに入ったばかりの頃は、そう信じておったわ。じゃが、みんなで協力して死ぬ気で働いて、やっと売上を10%上げたとき……当時の上司に何と言われたか分かるか?」
ロドルフの瞳は、どこか悲しげに光っていた。
「『その調子で頑張れば、来月はもう10%上げられるな!』……じゃ。馬鹿らしいとは思わんか? 頑張れば頑張るほど、評価もされずに目標だけが上がっていく」
「…………」
「労働者が馬鹿を見るのは、もう御免じゃ。それなり、それなりが一番じゃよ。クロダ、お主にならそれが分かると思っていたんじゃがの」
クロダはドキリとした。
少なくとも、少し前までの自分は、何も考えずにただ働くだけ……出世欲もなく、現状維持だけを望んでいた。
(……ロドルフのことを、笑えない)
足元が揺らぐ。何に自信を持てばいいのか分からない。
(やっぱり、この案は間違いだった? 魔法導入なんて、ギルド規則を変えるほどの改革じゃなくて、ほどほどに進めて、ほどほどに生きる方が幸せだったのかも……)
それ以上、言葉が出なかった。何を言えばいいのか、そしてロドルフを説得するのが正しいのかすら、クロダには分からない。
「……そういうわけじゃから、この話は終わりじゃ」
ロドルフは話を切り上げようと、腰を浮かせる。
そのときだった。
会議室の扉が、勢いよく開かれた。
「おいおい、引退にはまだ早いんじゃねえか? ロドルフのじじい」
姿を現したのは、製品加工課課長――バルド、その人だった。




