4.クロダの評価
新人たちの様子を部屋の隅から眺めていたジェイクは、心の中でため息をついた。
今日は月に一度の新人の入会日だ。ジェイクがこのギルドに入って10年、教育係を任されるようになってからはもう4年になる。
(新人のレベル低下がひどいな……)
ジェイクは肘置きに肘をつきながら、自分の新人時代を思い出す。
あの頃は、上司に文句を言うなんて考えもしなかった。どんな仕事でも全力で最後までやり切る。そんなことは当然で、疑う余地もない常識だった。
(それがどうだ、この有様は)
ジェイクは作業部屋をぐるりと見回す。
作業開始からおよそ2時間が経過し、14人いた新人のうち3人は逃げ出し、6人は疲れ果てて座り込んでいる。残りの者たちも手の動きが鈍り、作業のペースは最初の半分以下だ。
中には、作業をしないまま30分近く座り続けている者すらいた。
(体力も、根性もない。なのにさっきは俺の話を平気で遮ったりして……態度だけは一丁前だ)
最近の新人は、好き勝手に自分の要求ばかり並べ立てるが、ギルドだって慈善事業でやっているわけではない。人を雇うにも、育てるにも金がかかる。若者たちは、そんなことも知らずに言いたい放題だ。
それなのに、使えない新人を各部署に送り出そうものなら、文句を言われるのはジェイクたち人事課だ。まったく、損な役回りである。
(まあ、しかし……こいつだけは、まあまあ、か?)
ジェイクは、ただ一人ペースを落とさず作業を続ける男に目を留めた。
作業部屋に移動してくる前から妙に一人だけ張り切っていて、その姿がやけに印象に残っていた。
(確か……クロダと言ったか)
クロダは、ここまで一度も休憩を取らずに黙々と手を動かし続けていた。
(作業は丁寧すぎてスピードに欠ける……が、文句も言わずに続けている点だけは評価できる)
ジェイクは手元のメモ帳にクロダの評価を書き込んだ。
「勤務態度:〇(普通)」
(しかし、臓物やらの素材を触ってから書類仕事をするのは大変だろうに。新人同士で分担すればいいものを)
ジェイクが新人だった頃は、皆で協力して頭を絞り、どうにか期限内に作業を終わらせようとあらゆる手を尽くしたものだった。
「手がしびれて、もう感覚がない……死ぬのか、俺……」
「もうここに、墓を建てて埋めてもらおう……もう限界だぁ……」
「あはは……楽しいなあ……楽しいよお……」
(……とはいえ、手を動かさず泣き言ばかりの連中と協力しろというのも、無茶な話ではあるが……だがそれでも、言われたことしかできないようでは、レベルの高い作業は任せられん)
「作業処理能力:△(判断力・応用力に欠ける)」
一度欠点が目に付くと、他の部分まで気になってくるのが人の性だ。
(周りがこれだけ疲弊しているのに、自分以外の様子を気にする素振りすらない。これは協調性に問題ありだな)
「協調性:×(皆無)」
ジェイクはクロダの評価欄に次々と書き込んでいく。
「もうイヤだぁぁぁーーー!!!」
その時、またしても新人の一人が叫びながら部屋を飛び出していった。これで、4人目。
(今回の新人も、イマイチか。次の配属会議で、課長たちになんて報告するか……)
ジェイクはガックリと肩を落とし、遠い目をしながら深いため息をついた。