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社畜にブラックギルドはぬるすぎる!  作者: 城太郎
第六章・ホワイトギルド編
38/47

38.自分で考えて動くということ

 その日、クロダはユートと一緒に資料作成に取り組んでいた。


「課長、ここはどうすればいいっスか?」


「ああ、それはね……」


 作業内容は、最近人事課で使われ始めた新人向け作業マニュアルのブラッシュアップだ。


 ユートはまだ一年目で、単独での実務経験は浅い。しかし今回は「新人の視点が重要だ」ということで、ユートに主担当を任せることになった。


 とはいえ、完全に丸投げするわけではない。隣にはクロダがついて、必要に応じてアドバイスしていた。


(ユートは最初、元気だけが取り柄かと思ってたけど……。仕事は丁寧だし、覚えるのも早いし、イゼルやリーナに負けず劣らず優秀だよなあ)


 アドバイスを求められる場面は数回あったが、ユートはほとんど一人で作業を進めていく。その様子に、クロダは内心で評価を改めていた。


「うーん……ここはどうするのがいいっスかね……」


 ユートの手が止まった。クロダは気になって手元を覗き込む。


「素材仕分けの報告書の作成手順……か。新人たちから、分かりづらいという意見が多い……って書いてあるね」


「そうなんスよ……。僕は研修を受けたことないから、イマイチ実感が湧かないんス」


 ユートはペンを置き、腕を組んで考え込む。


(素材仕分け……研修初日にやったなあ。たしかに、あれは新人がいきなりやるには大変かもしれないな)


 当時のことを思い出して苦笑していると、ユートがクロダの方を見た。


「課長、ここはどうしたらいいと思うっスか?」


(……とりあえず自分でやってみるのもありだし、直接新人に聞くのも手か……)


「それは……」


 考えをまとめて話そうとしたクロダだったが、ふと思いとどまった。


(ここで全部答えを言うのは簡単だけど……ユートにも考えて成長してほしいし、まず自分の頭で整理してほしいな)


 クロダはそう思い直し、不自然な沈黙をごまかすように苦笑いを浮かべた。


「えーと、私の考えを言ってもいいけど……今回は『新人の視点で考える』っていうのが大事だからね。もう少し自分で考えてみない?」


「えー……。ヒントくらいは欲しいっスよ……」


 弱気なユートに、クロダは少し助け舟を出す。


「じゃあ、そうだな……新人マニュアルなんだから、私より今の新人や人事課の人に直接聞いてみると参考になるかも」


 クロダの言葉に、ユートは顔をパッと明るくした。


「了解っス! それじゃあ早速、人事課に取材してくるっス!」


 そう言って、ユートは元気よく駆け出していった。





 ユートを見送ったクロダの胸に、ひとつ疑問が浮かんだ。


(あれ……なんで俺、『ユートに考えてほしい』なんて思ったんだ?)


 自分の無意識の思考に驚き、戦慄する。


 これまでのクロダは、仕事において「自分で考える」なんてしてこなかった。指示された通りに動き、余計なことは一切考えない。それで何も問題ないと思っていた。


 けれどユートに教える立場になった途端、自然に「考えて動け」と促してしまったのだ。


(この前、セシル課長に無茶振りされて泣きそうになったばかりなのに……。それを今度は自分がやってしまうなんて、最悪だ……)


 クロダは自分の行動にショックを受け、ユートに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「課長、何言ってるか分からないっス! 正直辞めたいっス!」


 空耳のようにユートの声が聞こえ、思わず執務室を見回したが、誰もいない。


(絶対ユートに嫌われ始めてる……。次からは一から百まできっちり教えることにしよう……)


 深く反省したクロダは、自席に正座してユートの帰りを待つことにした。





 一時間後、ユートが戻ってきた。


「ジェイクさんと新人の皆さんから、いい話が聞けたっス! これで続きが書けるっス!」


 ユートは嬉しそうに席に着き、勢いよくペンを走らせていく。


(どうしよう……謝るなら、早い方がいいよな)


 クロダはタイミングを探りつつ、ユートの様子をうかがう。やがて、ユートがペンを置いた。


「できたっス! 課長、チェックお願いします!」


 クロダはマニュアルを受け取りながら、遠慮がちに声を掛けた。


「ユート、さっきのアドバイスだけど……」


「はいっス! すごく助かったっス! 最高のアドバイスだったっス!」


 ユートは満面の笑顔でクロダを褒めたたえる。


 クロダは謝るタイミングを完全に逃し、やむなく原稿に目を落とした。


 そのとき、別の課から戻ったリーナが戻ってきた。リーナは、クロダの姿を見て目を丸くする。


「課長……どうして正座なんかしてるんです?」


「深い後悔と、止めどない反省の意を示しています」


「???」


 クロダは変な目で見られつつ、そのまま業務終了まで正座で仕事を続けた。


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