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社畜にブラックギルドはぬるすぎる!  作者: 城太郎
第五章・業務整備課編
31/47

31.寿命が縮むレビュー

「ダメだね。こんなんじゃ、話にならないよ」


 提案書を一目見るなり、部門長はいつもの軽快なトーンで切り捨てた。クロダの心臓がキュッと締めつけられる。


 部門長室には、クロダ、部門長、そして助っ人として呼び出したセシルの三人が顔を合わせていた。


(こんなにあっさり……いや、もちろん一筋縄ではいかないと思ってはいたけど……)


 それでも、部下たちの頑張りを無駄にしたくはない。クロダは必死に食い下がった。


「そこをなんとか……ご検討いただけませんか?」


「無理だね。ほら、セシルちゃんも見る? これ?」


 セシルは差し出された提案書を黙って受け取り、静かに目を通す。読み終わっても、表情一つ変えない。


(助け舟すら出せないレベル……ってことか)


 クロダはがっくりとうなだれた。


 自分たちなりに必死で作った資料が、ここまで否定されるとは思ってもいなかった。


(でも……せめて何か、ヒントだけでももらわないと……!)


 クロダは慎重に言葉を選びながら、部門長に問いかけた。


「部門長、その……もしよろしければ、アドバイスをいただけませんか……?」


 部門長はおなかをぽんぽんと叩き、あはは、と豪快に笑った。


「クボタちゃん、そんなことも分からないとは、まだまだ青いねぇ!」


「す、すみません……」


「まあまあ、いいじゃん。じゃあ、まず一番ダメなとこ言ってあげるね。『残業代を削減した分をベースアップに充てる』、これ、最悪!」


「えっ……?」


 意外すぎる指摘に、クロダは言葉を失う。


「理由は……セシルちゃん、説明したげて」


「……分かりました」


セシルはいつもの無表情のまま、クロダに問いかけた。


「資料を作るときに大事なのは、相手を意識すること。さて、クロダ。あなたたちはこの資料を誰に向けて作りましたか?」


「え、えっと……部門長や、ギルドの上層部、ですか……?」


 語尾に行くにしたがって声が小さくなるクロダだったが、セシルは静かに頷いた。


「その通りです。つまり、これは“上層部に刺さる資料”でなければならない。けれど、今回の提案は、残業代を賃金に置き換えただけ。ギルド全体としての支出は何も変わっていません」


「そ、それは……」


「経営の立場で見れば、まったく旨みがないということです。変化には必ずリスクが伴います。ならば、変える理由が必要なのです」


(なら……賃金アップを条件に入れなければよかった? でも、それじゃあ職員たちは納得しないし、改革案の意味がない。……となると、残業を減らそうという案自体がダメ、ってこと……?)


 クロダは必死に考えるが、答えが出ない。


 そこへ、部門長が追い打ちをかけてくる。


「それと、『売上減は効率化でカバー』ってのもNGだね。不確実な予定なんて、誰も信用しないよ?」


「で、でも! 素材調達課では実際に売上が上がっています!」


 なんとか粘ろうとするクロダの声を、セシルが静かに封じた。


「クロダ。これはあなたの問題ですよ。ギルドに入って二か月、課長になってから出した成果は一個だけ。実績も、信用も……今のあなたには致命的に足りていません」


「そ、そんな……」


 事実すぎて、言い返す言葉もない。クロダ視線を落としたまま、ただ黙り込むしかなかった。


「あーあ。セシルちゃん、そんなにへこませることもないのに。ハラダちゃんがかわいそうだよ」


「部門長、あなたがそれを言いますか……」


 部門長は無邪気な笑みを浮かべ、もう仕事の話は終わり、と言わんばかりだ。今のクロダの実力では、その牙城を崩せそうにない。


(ごめん、みんな、俺の力が足りないせいで……)


 これ以上説得を続けようにも、もはや心がついてこなかった。


「あ、ありがとうございました……」


 クロダは意気消沈した声で一礼すると、とぼとぼと扉に向かう。そしてドアノブに手をかけた、そのとき――


「ちょっと待ちなよ、クロダちゃん」


 クロダはハッと顔を上げ、急いで振り返る。


 部門長はあごひげをいじりながら、クロダに向かってニカッと歯を見せた。


「僕は、何から何までダメとは言ってないよ?」


「そ、それはどういう……」


「クロダちゃんに足りないのは、実績と信用でしょ? だったらさあ……僕の権限が及ぶ範囲で、それを積むチャンスをあげてもいいよ」


「ほ、本当ですか!」


 クロダの目に、一気に希望が戻る。クロダは飛び跳ねるように部門長の前に駆け寄った。


(最後のチャンスだ……ここまできたら、なんだってやってやる!)


 そんなクロダに、部門長は今日一番の悪い笑みを浮かべながら告げた。


「クロダちゃんのその案、試験運用してみればいいんじゃない? そう、たとえば…………製品加工課でさ!」


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