29.セシルのフィードバック
イゼルは早速、窓口で作業しているメンバーたちに改革案を伝えに行った。ユートもそのあとに続く。
執務室には、セシルとクロダ、リーナの三人が残された。
「クロダ」
「は、はいっ!」
急に呼びかけられ、クロダは反射的に直立不動になる。
「……今はもう課長同士なのですから、そんなにかしこまらなくてもいいでしょうに」
「い、いやあ……くせで、つい。すみません……」
クロダは照れ笑いを浮かべながら、頭をかいた。
「それはともかく。クロダ、今回の改革案を私が承認した理由が分かりますか?」
不意の問いに、クロダは戸惑う。
(承認した理由……? そんなの、この案が優れていると思ったから、以上の理由があるのか……?)
思ったままに答えてみたものの、セシルの表情は渋い。
「その様子では、次回以降の提案はうまくいきそうにないですね」
「なっ……!」
(何かダメなところがあったってことか……? もしかして……セシル課長の温情だった?)
続きを聞くのが恐ろしくなり、思わず尻込みしていると、リーナが助け船を出してくれた。
「申し訳ありません。何か至らぬ点がございましたか? もしよろしければ、今後のために教えていただけますでしょうか?」
リーナの素直な態度に、セシルは一瞬だけ迷ったようだったが、やがて静かに語り始めた。
「あなた方の改革案を採用した理由は、説明された以上のメリットがあると判断したからです」
クロダは思わぬ言葉に目を丸くした。
「え……そんなのありましたっけ……」
「あります。たとえば、素材の仕分けが簡略化できます。窓口ごとに種類が分かれていれば、箱詰めの段階で、すでにある程度整理された状態になるでしょう」
クロダは、研修の時の仕分け作業を思い出す。
(たしかに……あのとき、箱の中はあらゆる素材がごちゃ混ぜに詰め込まれていた。あらかじめ分類されていたら、どれほど楽だったか)
感心するクロダをよそに、セシルの言葉は続く。
「さらに、挙げていただいたデメリット……流通量の多い素材に関しても、対策可能です。専用窓口を作るなり、複数窓口で対応するなり……工夫の余地はいくらでもあります」
「な、なるほど……」
「そして、顧客目線でも利点があります。高価な素材は確認に時間がかかりますからね。高級素材専用の窓口を用意すれば、一般利用客の待ち時間を減らせます」
セシルの挙げたポイントは、業務整備課の会議ではまったく出てこなかったものだった。リーナは横で一心不乱にメモを取っている。
「少し考えただけでも、これだけのメリットが出てきます。しかし、それが説明には一切含まれていなかった。つまり……」
(つ、つまり……?)
セシルはクロダの肩をぽんと軽く叩くと、淡々とした口調で言い放った。
「プレゼンが致命的に下手、です」
「んがっ!!」
クロダは悶絶した。
(久々の……ド直球な苦言……! 懐かしい……胸にしみるなあ……)
痛いところを突かれて項垂れるクロダをよそに、セシルの死体蹴りは続く。
「四人がかりで考えて、今話したメリットが出てこなかったのでしょう? プレゼン相手に考えさせているようでは、三流もいいところです。」
「うっ……」
「メリットをこれでもかというくらい並べて、それでも却下されるような世界に我々は生きているんです。つまり、今回の改革案が受け入れられたのは……たまたまですよ」
「はい……」
容赦ない評価に肩を落とすクロダだったが、リーナは逆に目を輝かせていた。
「ご指導、ありがとうございます! 次回以降、改善いたします!」
セシルはその言葉を聞くと、今まで見たことのないような柔和な表情を浮かべた。
「あなた、なかなか見どころがありますね。リーナさん、でしたか。……どうです、素材調達課に興味は?」
「えっ?」
予想外の勧誘に、リーナは固まる。
(ま、まずい! 俺の大事な初めての部下が!)
クロダは慌てて二人の間に割り込み、声を張った。
「彼女は業務整備課の大事な戦力ですので……! では、我々もこの辺で。お時間をいただき、ありがとうございましたー!」
そう言い放つと、クロダはロープに縛られた不自由な身体を必死に動かし、リーナの持つロープをぐいぐいと引っ張っていく。そのまま、ぴょんぴょんと跳ねるようにして、素材調達課の執務室をあとにした。




