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社畜にブラックギルドはぬるすぎる!  作者: 城太郎
第四章・素材調達課編
21/47

21.僕も誘ってよ!

 あまりにも場違いな部門長の声が、かえって会議室の緊張感を一層高めた。


「あれ? どしたのどしたの。せっかくのゴールデンタイム、テンション上げてかないともったいないよー?」


 部門長は巨体を揺らしながらのしのしと進み、会議室正面の特等席にどっかりと腰を下ろした。


「で、セシルちゃん。状況、どんな感じ?」


 セシルは、不自然なほど明るい部門長の声にも一切動じず、淡々と口を開いた。


「事前にご報告させていただいた通り、そこにいるクロダを除いた課員全員が、横領に関与していたことが判明しました」


「うんうん」


 何度も頷く部門長は、なぜか上機嫌だ。


「で、そこの新入り……クリタちゃんだっけ? 君のお陰で、発覚したってこと? お手柄じゃーん!」


「ええ、そういうことです」


 セシルは素直に頷く。


「え、あ、いや、私は普段通り、自分の仕事をしたまでで……」


 クロダは動転し、名前の間違いを訂正するのも忘れて照れ笑いを浮かべた。


「いやいやいや、大仕事だよ、クマダちゃん。その素晴らしい働きに、部門長賞をあげちゃいましょう! ほい、どうぞ!」


 部門長はクロダの目の前までやってくると、懐から麻袋を取り出して手渡した。


 賞状を受け取るように頭を下げながら両手でそれを受け取ると、ズシリとした重みが伝わってくる。チラリと中身をのぞくと、大量の銀貨が詰まっていた。一目では到底数えきれない量だ。


(部門長さん……いい人じゃないか)


 クロダが感動で目を潤ませている間に、部門長は自席へ戻ると先ほどの調子で話を続けた。


「で、横領に関与した他の課員たちだけど……」


 いよいよ本題だ。どんな処分が下されるのか――会議室には、背筋が凍るような緊張が走った。


「分かる! 分かるよ~。お金って、いくらあっても困らないもんねえ? ギルドはたくさん稼いでるし、ちょっとくらい……って思っちゃうよねえ!」


 部門長の軽口に、課員たちはほんのわずかに安堵の表情を浮かべる。だが、セシルだけは一切表情を変えない。


「だからさあ、横領は多少は見逃してあげてもいいと思ってるんだよ。――僕に、話を通しておいてさえくれたら、ね?」


 途端に、部門長の声が先ほどまでとはまるで別人のように低くなる。その瞬間、部屋の空気が凍りついた。セシルは静かに首を横に振り、ため息を漏らす。


(や、やっぱり、怖い人だぁ……)





「僕がこの世でいちばん許せないこと、知ってる? それは、『誰かが僕の見えないところでお金儲けをすること』。誘ってくれれば、僕も喜んで乗ったのに。黙ってやるなんて、それって話が違わない?」


「そこは、私の指導が至らない部分もあり……」


「セシルちゃんもさあ」


 なんとか部門長をなだめようと口を挟んだセシルに、怒りの矛先が向かう。


「課員の手綱くらい、ちゃんと握っておいてよ。どういう教育してんの?」


「返す言葉もございません」


「それに比べて、シマダちゃんは偉いよね? さすがバルドちゃんの弟子、って感じかな??」


 部門長の言葉に、セシルの顔がわずかに歪み、小さく唇を噛んだ。


「どのような処分でも、甘んじて受け入れさせていただきたく……」


「いやいや、セシルちゃんを処分しても意味ないでしょ。人手も足りてないのにさ。ただでさえ横領で売上減ってんのに、挽回する気ないの?」


「……いえ、そのようなことは」


 部門長とセシルの緊迫した応酬に、下っ端のクロダが口を挟める余地などない。


(胃が痛い……罰でもなんでも受けるから、早く終わってくれえ……)


 部門長はため息をついた後、ようやく処分を言い渡す。


「しばらくの間、ヤマダちゃん以外の素材調達課の給料は二割カット。横領分はそれで補填しといて? それと、セシルちゃんは不正防止策を講じて、報告書を提出すること」


「……承知いたしました」


「もちろん、日々の業務はこれまで通りちゃんと回してよ? あ、でも、横領メンバーに大事な仕事を任せるなんて、絶対ダメだから。分かってるよね?」


「……もちろんです」


「はいっ、じゃあこの話はおしまい! みんな、バイなら~~~!」


 部門長はそれだけ言い残すと、ひらひらと手を振りながら会議室を出ていった。





 会議室に残されたのは、苦虫を噛み潰したような表情のセシル、胃痛に悩まされるクロダ、そして怯え切って身じろぎ一つできない課員たちだった。


「……というわけで、処分は甘んじて受け入れましょう。今日の業務は、これで終わりです」


 セシルの言葉を合図に、課員たちはぞろぞろと会議室を後にしていく。その足取りは重く、口を開く者は誰一人としていない。


(自分だけ処分無しだなんて、気まずすぎる……)


 クロダは周囲の視線を気にしながら、気配を消すようにしてこっそりと部屋を抜け出そうとする――が、その努力もむなしく、肩をがっちりと掴まれた。


 恐る恐る振り返ると、そこにはセシルが立っていた。


「クロダ」


「は、はい、なんでしょう……?」


 体を硬直させたクロダに、セシルは呆れ顔を向ける。


「何も悪いことをしていないあなたが、どうしてそんな情けない顔をしているんですか……。それと、部門長の名前間違いは、ちゃんと訂正しなさい」


「は、はい、すみません……」


「しかし、それはさておき」


 セシルはすぐにいつもの真面目な表情に戻る。


「部門長が言ったとおり、不正に関与したメンバーには重要な作業を任せられません。つまり……私の言いたいことが分かりますか?」


「えっと……横領が見つかって、オーノー……いえ、なんでもないです」


 セシルの目が静かに細まり、無言の圧がクロダに刺さる。クロダは慌てて口をつぐむ。


「……あなたのギャグのセンスは絶望的ですね」


「い、いやあ、褒めても何も出ませんよ」


 セシルはこれ見よがしに大きなため息をつくと、自嘲気味につぶやいた。


「あなたを信用するなんて、我ながら頭が悪いんじゃないかと思いますが……背に腹は代えられません。明日からの窓口業務は、あなたに任せます。課の中心として、動いてください」


「え! ……は、はいっ! 承知いたしました!」


 思わぬ大役に驚き、条件反射で元気よく返事をしてしまったクロダだったが、心の中では不安が渦巻いていた。


(課の……中心? 俺が……? 無理だよ、そんなの……)


 そのとき、クロダの腹がぐぅ、と鳴った。間の抜けた音が、妙に不気味に響いたような気がした。


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