閑話:黒依と撮影現場
「おはようございます。本日もよろしくお願いします」
「ああ、那谷ちゃんもせっかくの休日にこんな仕事ですまないね」
「問題ありませんよ監督。我が主へ捧げる資金源となるのでこういった仕事であれば内容はある程度吟味しますが歓迎します」
毎週日曜日の朝に放送される特撮番組の戦隊枠、その撮影に演者としてここ最近呼ばれるようになった。
キャスティングの理由が「子役で敵組織の幹部の貫禄を出せて、生身の殺陣をこなせる人物」をオーディションで募集したが、集まった応募に対して監督達はいまいちピンとくるものがなかったらしい。
ヒーローとしてメインを張る事が確定している優牙の提案で知り合いの私が呼び出された。中学二年生を子役に含めていいのかは微妙だとは思いますけど。
演技はセッション中に行うRPを動きを交えて行うだけ、殺陣などのアクションは護身のために修得している技を組み立てて対応するだけ。
既に行われていたオーディションと同じ内容をやらされて、ビビッと来たらしく採用されました。
「そう言えばなんだけど、那谷さんは親の事を我が主と呼んでいるのかい?」
「あ、ソレ私も気になる。優牙ちゃんが絶対に逆らえない人って言ってたからどんな人なの?」
「命の恩人ですよ。名を含め私に欠けていた物を与えてくれた御方です」
「ああ、黒依ちゃんストップ、ストップ。リーダーから口止めされてるでしょソレ」
「私の過去に関する話ですか?我が主からは私が語っても問題ないと判断したのであれば語ってよしと言われていますよ」
「……ほんっとうに甘い。だれかーブラックのコーヒー持ってきてぇ。砂糖吐きそう」
はて?まあ、求められたので持参しているブラックコーヒーを提供しますか。
自身の水筒より撮影現場備え付けの紙コップに注ぎ、これでよしと。
「どうぞ」
「……すっごい複雑。これオリジナルブレンド?」
「まあ、はい。使いもしない豆を腐らせるのはもったいなかったので私が適当に混ぜて用意した奴です」
「雑談中すまないけど那谷ちゃんちょっといいかな?」
「どうされましたか監督」
「那谷ちゃんの演じるヘラリオのテーマ曲、仮に用意したらレコーディングを頼めないかなと思ってね」
「構いませんが、今から用意したとして間に合うのですか?」
「非常に悔しいけど、円盤の特典として挿入歌にするつもりさ」
「ご予算は如何ほどで?」
「ヘラリオ関連の予算で現場判断で使えるのは十万ほどだね」
……アイツに言えばその半分で用意してくれるでしょうね。納期が鬼畜でも金が掛かっていれば間に合わせるでしょうし。
電話、掛けますか。




