【トランプ大会】
夕食後、銀仁朗のリクエストに応え、玲、桜、英莉子、そして銀仁朗が参加するトランプ大会が開催された。
「腹も膨れたところで、お楽しみのトランプやりまひょ!」
「銀ちゃん、トランプ遊びで何をやったことある?」
「ババ抜きと、神経衰弱と……あと大富豪もやったことあんで」
英莉子は、銀仁朗の返答に対し、納得がいかないようで、異を唱える。
「ちょっと待って。『大富豪』じゃなくて『大貧民』じゃなかった?」
「え、お母さん、大富豪でしょ。桜もそう言ってるよね?」
「うん。自然学校の時にみんなでやったけど、みんな大富豪って言ってたよ」
「本当に? ママはずっと大貧民って言ってたけどなぁ。そういや、住んでる場所によって呼び方が違うゲームって結構あるって話よね」
「それ、こないだテレビでやってた。『だるまさんがころんだ』も違うって」
「桜それ知ってる。『ぼうさんがへをこいた』って言うんでしょ」
「ママ、逆にそれ知らないわ。『ぼうさんがへをこいた』って面白いわね」
「遊びの名前なんかも、地域によって違うんやな。知らんかったわ。ちなみにルールは一緒なんか?」
「多分一緒だと思うけど。試しに大貧民、じゃなくて大富豪をやってみましょうか」
「せやな。母上の言う大貧民と、わしらがやってた大富豪に違いがあるんか試すんも、また一興やしな」
「じゃあ、ママがトランプ配るわね」
そう言って、英莉子はトランプをシャッフルし、各自にトランプを配った。
「はい、じゃあクラブの3持ってる人は誰かな?」
「お母さん、クラブじゃなくてクローバーでしょ」
「え、そこから違うの?」
「うちらは、いつもクローバーって言ってたけど、銀ちゃんは?」
「どやったかな。そんなん気にしたことなかったさかい……たしかクラブやった気がするけどな」
「桜がスマホで調べてみてあげるねー。えっとねー、これだ。へぇ~。英語ではクラブなんだって。日本ではクローバーって言う人もいるってさ」
「桜、仕事が早いわね。ありがとう。また一つ勉強になったわ」
「母上、ルールのとこで言いたいことがあったんやが、ええか?」
「何? また違う所あった?」
「せやねん。わしがやってた大富豪のルールでは、最初にカード出す人はハートの3を持ってる人やったんやが」
「あ、それ私もそうだ」
「桜もそれでやってたー」
「ま、またマイノリティなのね、私……」
「ほな、今回はわしらのルールを適用して、ハートの3持っとるわしから出すでぇ」
「やるからには、ママが大人の意地で、一位を取っちゃうわよ~」
「桜にはだけは負けたくないから頑張ろっと」
「お姉ちゃんうるさい。負けて泣きべそかかないようにねー」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
「キー! ママ、銀ちゃん、お姉ちゃんをギッタンギッタンにしてやろう!」
「母上、わしが知ってる大富豪は個人戦なんやが、チーム戦のルールもあんのんか?」
「無いわ。ただの姉妹喧嘩よ。無視して大人の恐ろしさを見せつけてやりましょ!」
「お、おう(母上は、子ども相手でも容赦なく本気出すタイプの大人のようや。敵に回すと厄介なタイプやな。覚えとこ)」
数分間の白熱した戦いは、思わぬ展開で幕を閉じた。
「な……なんで私が大貧民なの……」
「やーい、ほら見ろお姉ちゃん。桜が大富豪だー」
「悔しい……もう一回やるよ!」
「望む所だよー。でも桜には勝てないだろうけどねー」
再び熱戦の火蓋が切って落とされようとしたその時、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
「ただいまー」
「あ、パパ帰ってきたみたいね。ママはパパのご飯の支度するから、抜けるわね」
「みんなで集まって何して——あぁ、トランプか。何のゲームしてたんだい?」
健志の質問に桜が応える。
「大富豪だよー。あ、パパは『大富豪』か『大貧民』どっち?」
「うちはどっちでもなく、中流階級かなぁ」
玲は健志のお門違いな回答にツッコミを入れる。
「お父さん、うちの経済状況の話じゃなくて、『大富豪』か『大貧民』どっちで呼んでたかって話だよ」
健志は、自分が筋違いな返答をしたことに気づき、顔を赤らめた。
「あぁ、そういうことね、あははは……。うーん、パパの周りでは、大富豪って言うんじゃないかな。関東の人は大貧民って言うって聞いたことあるけど」
それを聞いて、玲が質問した。
「じゃあ、ママって関東出身なの?」
「そうだよ。中学までは、埼玉とか千葉に住んでたらしいよ」
「へぇ、知らなかった」
「玲に話したことなかったもだね。でも、同じゲームでも、人によって呼び方とか、ルールとかが変わるのって面白いよな」
銀仁朗は健志に近づき、ゲームのお誘いをした。
「仕事終わりでお疲れのところであれやけど、父上も大富豪やりまへんか?」
「いいね。ご飯ができるまで、パパ参戦といこうか!」
「桜が大富豪だからねー。そして、お姉ちゃんが大貧民!」
「強調すな。次は絶対負けないからね!」
言い争う姉妹をよそに、銀仁朗は健志に話しかける。
「わしらは中流階級からの下剋上と参ろうか、父上」
「そうだね、目指せ中流からの脱却だぁ!」
健志の参戦した大富豪の結果は、やはりと言うべきか、健志の惨敗で幕を閉じた。
「健ちゃん、ご飯できたわよ……って、どうしたの? そんなにやさぐれて」
「子ども達が……強ぇんじゃ」
「いや、パパが弱すぎるんだよ」
「桜の言う通りね」
「わしもそう思う」
すっかり意気消沈した健志が、英莉子に嘆願する。
「英莉ちゃん……こんな大貧民でも、ご飯を頂いてもよろしいでしょうか?」
「冗談言ってないで、早く食べなさい。玲と桜は、お風呂入ってきなさいよ」
「ならば、この大富豪の桜が、今宵も一番風呂を頂こうではないかー、わっはっはー」
「はいはい、さっさと行ってきな」
久々に遊んだトランプを眺めながら、銀仁朗は目を輝かせながら言う。
「わし、トランプ遊び大好きや。玲、風呂が空くまで神経衰弱やろや。わし神経衰弱も好きやねん」
「いいよ、付き合ってあげる。こうやって家族みんなでゲームして遊ぶのって、やっぱり楽しいね!」
数十分後——。
「お姉ちゃん、お風呂上がったよー」
「はーい。じゃあ銀ちゃん、私お風呂入ってくるね」
「おう。付き合ってくれてありがとう。……わし、もっと玲達と色んな遊び、やってみたいなぁ」
「色んな遊びって、トランプ以外ってこと?」
「トランプもええけど、もっとほかの遊びも知りたいし、やってみたいねん」
「好奇心旺盛だね」
「楽しいことやってる時が、一番ええがな」
「じゃあ、またみんなで色んな遊びにチャレンジしようか」
「おう、ほな次何する?」
「今日はもうおしまいだよ」
「なんでや~。これからが本番やろがい」
「私、テスト勉強しなくちゃだし」
「そうか……それは残念やが、仕方ないなぁ」
残念そうに肩を落とす銀仁朗を見て、英莉子が声を掛けた。
「銀ちゃん。私でよかったらお相手しましょうか?」
「母上! おう、よろしゅう頼んます!」
「私がトランプ遊びで一番好きなのがあるんだけど、それやってみる?」
「おー、何や何や。教えてくれ!」
「『スピード』って知ってる?」
「初耳やな。それやろ。早よルール教えてくれ!」
「わかったわかった。スピードは……」
健志は、食事をしながらみんなの様子を微笑ましく眺めていた。銀仁朗が加わったことで、家族の団欒に変化が生じていることに気づく。
「なんだか、家の中が賑やかになった気がするなぁ」
玲も同じことを感じていたようで、何だか嬉しくなる。
「私もそう思った! お父さん、お仕事終わりに付き合ってくれてありがとね」
「何⁉ また泣かせにきてる?」
「あ、そういうのいいです」
「本当に泣いちゃうよ、違う意味で」
「はいはい。銀ちゃんが来てから、家の中が明るくなった感じするよね。別に今までが暗かったわけじゃないけど……なんだろうね、言葉では表せないな」
「生命ってのは、そこにあるだけで光り輝いているものなんだよ。それが人間であれ、他の動物であれね。銀ちゃんという生命がうちに来てくれたことで、光が一つ増えたから、前よりも明るく感じるんじゃないかな」
「光が増えた……か。あ、そういえばさっき銀ちゃんがこんなこと言ってたんだ」
「ん? どんなことだい?」
「もっとみんなで楽しく遊びたい。知らない遊びもしてみたいってさ」
毎度ながらに、変わったことを言ってくるコアラだなと感じつつも、健志はその言葉をしっかりと受け止める。
「本当に変わったコアラだなぁ……。でも、銀ちゃんの願いだ。家族として、叶えてあげなくちゃだね!」
「うん、私もそう思う」
「そうだ! うちにいつかのお正月にやったっきりで、どこかにしまってある『人生すごろく』があるはずだよ。明日は土曜で休みだから、久々にみんなでやってみようか!」
「うちに人生すごろくなんてあったっけ?」
「あるんだって……たぶん」
「どこに?」
「うーん。英莉ちゃんに聞いてみないと分からないなぁ」
「もう、お父さんったら」
「面目ない……」
玲は、母と銀ちゃんが楽しそうにスピードに興じている姿を横目で見て微笑んだ。
「ふふっ。今は銀ちゃんとのスピード勝負に夢中みたいだから、また明日聞いとくね」
「ありがとう」
「お父さんも、ありがとう。銀ちゃんのこと、ちゃんと考えてくれて」
「当然だろ。なんてったって、一家の大黒柱だからね!」
「ゲームでは大貧民だけどねー」
「……しゅん」
コミカライズ・アニメ化目指して描きました
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