55話
リュネの料理をちらっと見る。
生! 赤!
……と見た目でも何なのか分かりやすい。
ただ生肉や血を容器に入れただけではない。きっちり見た目までそれらしく整えている辺り、高級レストランの意地が垣間見えた気がした。
しかしドラゴンの肉なんてよく手に入ったな。
「ほう……」
リュネも感心している。
気を害してないか心配したが、大丈夫そうだ。
今度は妾がリュネの食事を眺める。
「ど、どうだ?」
「うん。おいしい。しょっぱくないな」
「おい、それは妾の血のことを言ってるか……?」
「ふふふ」
今さっきの話の仕返しだろうか。
というかそんなにしょっぱいのか?
いつもより笑顔なリュネに怯む。まあ、戦地でもないのだから、怖い顔になることはないのだが……。
とにかくあまり見ないので、ついつい眺めてしまう。
メインが妾に届く。
リュネの食が進むのを見て妾も再びさじをとる。
メインディッシュを食べてるのだろうが、リュネの笑顔をおかずにして食べてる気もしてくる。
「君はどうだ?」
「え、ああ足りないくらいだ」
ちょっと不味そうに妾の料理を見るのはやめてほしいと思いながらも答える。一品一品がおいしい。
しかし少ない気もしてしまう。リュネの表情ついでにもっと食べたくなってしまう。
「劇中に寝られても困るからな」
「それもそうだな」
そんな調子でデザートまで行き着いた。
リュネの方はすべて同じように見えるが、どうも味は違うらしい。甘いだのなんだの言っている。
満足はしたのだろうかと、不安になったが表情を見る限り「とても満足」と言っている。
ぼーっとリュネを見つめていると、「時間は大丈夫なのか」妾に尋ねてきた。
「え? ああ……時間に余裕を持たせたからまだ大丈夫だ」
「それなら劇場内でも見て回るか」
「うむ!」
どうやらちょっとした絵画コーナーや展示品。お土産店などがあるらしい。
……やっぱり来たことあるじゃないか。そう思いながら、リュネの腕を取る。
店から出て、案内板を見る。
「向こうがホールになるのだな」
入口と逆方向。
その先は徐々に薄暗くなっている。
ちょうどガラス越しに作られた庭を距てて光を遮っていた。
庭は妖精さんが出てきそうな青い光が差し込んでいて神秘的。
待合の場所は広々としていた。
ベッドかと見間違うくらいにふかふかなソファが庭を眺めるようにして並んでいた。
劇場前のその場所には妾たちのように鑑賞しに来た人たちがちらほらいた。まだ時間はあるから混んではいない。各々ソファにくつろいだり、パンフレットを眺めたりしていた。
ホール入口を更に横に行くと絵画がでかでかと壁に展示されていた。
リュネが気に入ってて、王宮にもあったもの。
「ここにもあったのか」
「うむ……こっちはデカいな」
妾は一言添えた後別の絵画を見に進む。
リュネはやっぱり立ち止まって見ていたが、やがて隣まで来た。
一通り見て、「この丘……」とある絵の前でリュネが立ち止まる。
「どうした?」
「この辺りに私の家がある」
「へえ……、その、すまんな」
「いや、気を遣わせた」
「ちなみに奥さんはいるか?」
「いない」
「よし……ならばあとは妾の脳内で保管するから問題ない」
「それも困る」
となでなでしてくる。
リュネの自宅に行きたいのは山々だが、話が話なので提案するのはやめた。
所帯持ちでないことをどさくさに紛れて確認できたのでよしとしよう。
そういえば、前に故郷には愛着がないと言っていたのもちょっと強がりがあったのかもしれない。だって、先ほども今もとても辛そうだから。
お土産店をちらっと見るが、分からない俳優の立ち姿だった。多分熱狂的なファンにはたまらないものだろう。妾もリュネのポスターがあったら買うかもしらん。
もうすぐ入場時間だがそれまで二人してソファに座った。
「……どういう内容の劇なのか、君は知っているのか?」
「えっと……、要は男が恋した女の影を追いかけるやつだろう。最終的に彼女と最後に約束したことをずっと守っていくって感じの……」
どこがダンジョン要素があるのかわからないくらいには随分脚色している。
こういう本をダンジョンにいる時に何冊か読んだ。それで恋愛のことは学んだつもり。
「ほう……アルトがそれを選択したのか?」
「そうだ。なんでもダンジョン関係らしいが……正直わからん。それにしても、仲がいいのだな」
「はは……、妬いてるのか」
「ち、ちがうもん」
「ふふふ」
「こら!」
ぺしんと背を叩く。
フードの金の装飾がカラカラと鳴る。仲がいいのは多少妬いている。カップルだとしたらめんどうな彼女だろうなと思いながら定位置の腕にしがみつく。
「と、とにかく。もう行って座っておこう」
と、案内が始まったのを見て話を逸らした。




