54話
いくつかレストランがこの神殿に入っているらしい。
そのうちの一つに入っていく。
店の名前は筆記体で描かれている上に王国の古代文字らしいから読めない。しかし意味は三日月。だから覚えていた。
店の中は出入り口から見ても薄暗い。
やっぱり意味からして夜をイメージしているのだろう。
リュネがここか? と妾を覗く。
頷き、入ろうとしたところ店員と目が合った。
「ご予約の方でしょうか」
「あ、ああ……多分リバーサイドで頼んでいるはず」
「少々お待ちください」
なんだかなれない。
リュネは手持ち無沙汰で妾の髪を触ったりしている。それもそれで恥ずかしいからやめてほしい……。
緊張と恥ずかしさのダブルパンチを食らっていたところ店員から「どうぞ、ご案内します」と声がかかった。
それでちょっとホッとしながらリュネのマントの真ん中を引っ張る。
店内はやはり薄暗い。
しかし、良い雰囲気だった。
内装だろうか、噴水があった。
そこに流れる水と星の描かれる天井は反射し合って綺麗だった。
噴水を中心として暗幕がかかっていた。
すべて個室なのだろう。
ついうっかりきょろきょろしてしまう。
リュネがマントを預けて、そのまま妾の手を繋ぐ。
この雰囲気流されないように気合を入れる。
「さ、ゆくか! 妾たちの席へ……!」
「……戦いに行くのか……?」
店員に微笑まれ、その奥のところに案内された。
四角いテーブルが中央に設置されていて、高級そうなテーブルクロス。
その上に食事用のセットと蝋燭が並べられていた。
店員が一度退室してから、それぞれ席に座った。
「妾、テーブルマナーとやら知らないんだが」
今更ながら不安になる。
ここまで高級感のあるレストランだとは思っていなかったからだ。
「私もそうだから、心配しなくていい。人の目もないしな」
「それはそうだが……というか、リュネも知らないのか?」
これは安心させるための、嘘なのかもしれない。
リュネの言う通り人の目はないからいいか。
「まあ、そういう訳だから君が私の分まで頑張って食べてくれ」
「ふぁ? あ、ああ。リュネが食べられるものを出してくれるはずだぞ。王に伝えておいたからな」
……寝起きのリュネに色々伝えるのはやめよう。
「二人で考えた計画か」
「すまんが妾良い店を知らないからな。妾に任せると図書館デートかおうちデートになるぞ」
ふ……と笑うリュネ。
もしかしてそれも悪くない……とか思ってないか?
リュネに任せるのも一興だったか。
妾が残念がっていると、さっそく前菜、スープ……と、運ばれ始める。料理の説明を聞くが、「山菜の――」とか「〇〇産の――」などと断片にしかわからないし耳に入ってこない。
リュネのものを待とうとしたが、「先に食べろ」と言われとりあえず、ちびちび食べていく。
……こうして見つめられるから先が嫌なのだと思いながら、待ちで暇なリュネの口を動かしてやる。
「しかしなぜ、家に行かないのだ?」
「……そうだな」
歯切れが悪い。
もしかして妻がいるとかか?
と妾が持ち前の想像力を発揮する。
それは確かに妾を連れて行きたがらないわけだ。
「私の故郷の生き残りが使用人をしている。周辺もその者たちが住んでいるからな」
「ほ、ほう? なおさら行った方がいいのでは?」
浮気でないことにほっとする。
お互い嬉しいだろうし、リュネの故郷のことが聞けたり見れる可能性がある。それなら行ってみたいのだが、やっぱり気が晴れない。
「……」
「……」
前菜はいつの間にか皿から消えていた。
「リュネが生きて帰って嬉しいだろうし……色々分かち合ったりできるじゃないか?」
「それはそうだが、私は故郷を滅ぼす前に亡命した。そして……」
ふう……と息を吐く。
ちょうどリュネの料理がきたことと辛そうだったので「すまん、もういいぞ」といった。
王の話と自分の想像力を働かせて、今のその土地は開発されてもう見る影もなくなったのだろう。その指令はリュネ自身だったのかもしれない。反発する人は倒して……。
いや、やめよう。




