53話
揺られること数分。
完全に陽は姿を消していた。
後にはグラデーションになる空が上を彩っていた。
――ここが劇場か。
神殿と見間違えるような建物。
町はずれに建てられているのはあえて、なのだろうか。
それとも大昔は式典でもしていたものを改築して劇場にしたのかもしれない。
降りは大丈夫そうなリュネを差し置いて馬車に降りる。
リュネが降り立ってから「ありがとう。王にも礼を頼む」と伝えていたのを背で聞きつつ、周りを見渡す。
人通りはあまりない。
しかし、高級な住宅やお店が立ち並んでいた。
多分、交通の利便も悪くないから、貴族層がこの辺りに住んでいるのかもしれない。
「……この辺りに私の家がある」
「え!?」
「ふ……、今日はここで観るのだろう?」
「う、うむ。劇場内のレストランで食って、そのまま見に行く」
「では、エスコートしてくれ」
「わ、妾はリュネにお願いしたいのだが?」
「今日君がすべてセッティングしてくれたのだろう? 生憎私は場所がわからなくてな」
「ぐぬ……」
わざとらしく言ってくる。
……お前のほうが勝手知ったる場所だろうに。家も近いのなら尚の事……。
とはいえ、守られたり、導かれたり、蚊帳の外なことは多い。
戦闘も後衛よりだ。
たまには妾が前へ行くのも悪くない。
「ほれ!」
リュネの手を雑に取る。
羞恥を消したかったのもある。
「動きずらそうだからな」
「甘えさせてもらおう」
地面を引きずるくらい長めのマントだ。
やっぱり動きずらそう。
リュネは妾を支えに歩く。肩に置かれる手。
マントの中に若干入っているため、ちょうどいい体温が心地よい。
二人折り重なって劇場へ入っていった。
中も中で王城のような輝かしさを放っていた。
ここも城のような蓄光の機械か技術でも使っているのだろう。
流石に眩しすぎるのか再びリュネがフードを被る。
王国の技術はすごいな。
しかしあまり魔法に頼っている風でもない。
てっきり生活の中でも魔法で便利に……と思っていた。
戦いの中だけ使うという法律でもあるのか。
コツコツと輝く白い大理石を進む。――といってもリュネペースで。
妾は店名しか知らないから、看板を頼りにする。
周りは蝶よ花よみたいな人ばかり。雅すぎて妾は場違いでは……と、逃げるようにうっかり速足で歩きかける。
「……すまん、リュネ」
「いや? 気になるものがあるなら先に行っててくれても構わない」
「子供過ぎないか?」
「ふふ」
今宵は良く笑ってくれる。
予約のし甲斐があるというものだ。
喋ってもくれるのは、本人的にも反省しているとみている。この調子でもっと語ってくれるように調教しないとな。一瞬リュネの顔が曇りかけたが、妾を見て微笑みかけてくれた。




