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52話



「……妾はこういう日常生活とかがいいのだろうな」



 リュネがきょとんとする。

 向こうが口を開く前に「じゃ、着替えてくる。リュネもあそこにあるから頼んだぞ」といって洗面に向かった。リュネから何か物を貰ったら怖いので、一緒に普通の生活をと思っている。だからこそ、リュネについて行っているし、リュネの言う安息の地についていきたい。



 ――着替えなくては……。



 切り替えて、妾用に仕立ててもらった黒と蒼のドレスを見る。なんだか肌が透けてるところがある。

 シースルーってやつだろうか。

 それともふもふの上着。

 妾が普段着る白い魔女風の装束ではない。

 なんだか新鮮だ。


 深い青と白のグラデーションの髪と割と合う。


 最後に金のネックレスとピアスをつける。

 ……我ながら悪くないんじゃないか?



 ……流石王家に仕える仕立て屋だなあ。

 と、上から目線でその腕を勝手に評価する。


 しかしリュネに見せるのもなんだか恥ずかしいな。

 そう思いながら、ちょこっとドアを開く。


 リュネは眠さもまだあるらしくもたもた着替えていた。

 黒い義足が見えないくらいのズボンとブーツ。まあ、これは王国の悪い風習だしな……。


 白基調の軍服。金の装飾はどうやら妾とお揃いらしい。

 戦闘服じゃないリュネも珍しい。いや、白なのも珍しいんだが……。


 まだ、陽が残っているので、白のマントにフードを被る。

 フードの裾にも金の装飾があしらわれていた。それと、マントには月の満ち欠けが綺麗に縫われていた。これはリュネの名前の元が月だからだろうか。

 

 しかし、マントが地面に着くくらいだし、なんだか動きずらそうだ。

 今回は妾がエスコートしなくてはな……!



「……綺麗だぞ」



 ドアを半分開けて褒める。

 語彙力はなくなるのは仕方ない。


 妾に気が付いたリュネに穏やかな視線を向けられる。



「…………」

 


 照れくさい。

 何か言ってくれ。

 視線に殺される。


 満足したのか、再び足の装備を弄り始めた。そのまま無言で見つめられたら童が死ぬのでちょっとほっとした。

 リュネの準備が終わるまで、その隣に座った。

 確か義足は魔法がかかったものだったはず。だからそこまで支障はないはず。そういえば、魔王の戦いのとき頑なにあの水に入らなかったのは魔法で出来ていたからだろうか……。

 足にかけられた魔法がその魔法で流されてしまうとか。

 基本的に魔法の解除は上書きか呪い系なら解除魔法がある。あの時は上書きの可能性があったのだろう。

 と、照れ隠しに思い起こす。



「待たせたな」



 終わったらしいが、居心地が悪いみたいでまだ足の方を触っている。

 動きにくいとかだろうか。

 ……やはり今回は妾が手取り足取りエスコートしなければ……!

 妾が先に立ち上がって、リュネに手を差し伸べる。



「では、行こうか」

「ふ、」

「んな、笑うなよ」

「いや、私がエスコートされる側とはな」

「今度は頼むぞ」



 笑いを堪えつつ、リュネが妾の手を取る。

 よた……となりながらも、立ち上がる。


 二人してゆっくりいく。

 この感じは念願のデートだな。しかも敷居が高い所へ。口をⅤの字にしてしまう。いわゆる鼻の下が伸びる……といった感じなのかもしれないと体感する。

 これは身長差があるし、ちょうどリュネが後ろ斜めにいるからわからないはず。




 ホテルの入口にいく。

 行きはリュネの日差し問題があるから馬車で向かう。

 日は落ちかけ……といってもどこまでが大丈夫なのか定かでない。しかし、本能的にかリュネも避けているので、油断はできない。

 そのためホテルを出る直前にローブのフードを被っていた。

 フードについた装飾がからりと鳴る。


 馬車はホテル前のロータリーに沢山あった。

 しかしすぐにそれとわかるものが止められていた。

 黒塗りで所々金が施されている。……王がそれとすぐにわかると言っていたが、絶対これだ。



「お待ちしておりました」

「待たせた」

「どうぞ」



 御者が出迎える。

 簡単な挨拶をする。大方、行き先とかはあらかじめ伝えられているはず。


 リュネを先に乗せる。

 私が先かという顔をしてきた。



「ほれ、妾を支えにしていいぞ」



 と、伝えてみる。

 ホッとしたように頷く。

 妾の肩を支えにして馬車に乗り込んだ。


 カラカラとフードの飾りが鳴る。

 その後に妾も乗り込んだ。ちょっと足をあげないといけないくらい高い。

 もたもたしていると、リュネが手を差し伸べてくれた。

 グイっと引っ張られる。

 乗るというより、運ばれたという方が正しい。


 たたずまいを正していると出発の声がかかる。

 徐々に外套が輝き始める町。

 再びフードを外した状態で外に照らされているリュネをぼーっと眺める。



「見つめすぎだ」

「いやか?」

「余程好きなんだろうな、とは思っただけだ」

「それはそうだぞ。自覚がないとはな」

「そ、うか?」



 恐らく向こうは冗談で行ってきたのだろうが、妾はそんなことない。リュネは妾の勇ましい回答にむしろどぎまぎしている。

 ……してやったりだ。


 そろそろ告白の回答がほしいところだ。

 今はデートを楽しもう。

 勇ましい回答はしたものの、正直言うと緊張している。えっちなことをするわけでもないし、毎度同衾しているのに、耐性がない。


 それとこれとは別ということなのだろうか?

 リュネから顔を背けて景色を楽しんでいると、横から視線を感じた。心配している顔だ。



「どうした?」

「いや……」



 はぐらかして妾のように窓の外に視線を移してしまった。

 心配しているわけではなく、リュネも緊張している……とかか?

 王によればこういうところに行くことはないと言っていた。だから多少は緊張しているのだろう。愛いやつめ。


 街灯に照らされたリュネは心なしか穏やかで、ほほ笑んでいる気がした。


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