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51話


「ふああ」




 暖かい日差しに瞼を焼かれて目を開ける。


 リュネは昨晩大丈夫だったろうか?

 ……一応竜の血を置いてたから空腹にはなっていないはずだからそれはないと思うが……。

 寂しかったとか……なかろうか。


 と、本人が絶対思わない妄想を早朝から発揮する。



 ……リュネに関しては何となく聞くことができた。

 自国の軍で責任を負わされて、赤水に落とされたこと。

 その後亡命して、故郷を焼いたこと。

 古い臣下達のせいで足を奪われたこと。

 故郷を再生するのではなく、存在していた文化を捨てさせて王国色に開拓したこと。

 


 多分落とされた件のことを死にかけたと言っていたのかもしれない。

 故郷の事はどうしても本人に聞くしかないか。


 さらりと王からは聞いたがちょっと苦難がありすぎないか?

 まあ、王もそういう思いがあるから、無理に引き留めようとはしなかったのだろう。王国を出るまでにリュネを甘やかさなければな……!

 そう思って、王に色々と相談もした。

 奴は意外にも話に乗ってくれ、色々と手配をしてくれた。

 まあ、これでリュネを最後に使った罪はチャラにしてやろう。



 話の最期に王から一つ、忠告された。



 ――コソコソ見ていた君ならわかるだろうが、ヒーラーをしていた者の行方が王国に戻る間で消息不明になってしまってな。

 あれだけは、身分も偽っていた……まあ、後の祭りなのだがな。

 それにやたらリュネを構っていたから、気を付けてくれ。



 客室を出ながら、それらを思い出す。

 柔らかな朝焼けの中、兵たちに挨拶する。


 昨日一緒についてきてくれた兵士が中にいたらしく、付き添ってくれた。

 ホテルに近そうな景色は何となく覚えている。しかし、まだ道は覚えていないので、兵につられて歩く。



「ありがとうな」と伝えて颯爽とリュネのいる部屋へと帰る。


 勢いよく開いた扉。

 すぐ近くの机には準備してあったはずの瓶。

 全部空っぽだ。

 ……よかった。


 しかし、それ以外は行く前と変わらず天蓋もカーテンもしっかり閉じられていた。

 もしかして一日中寝ていた……?


 少々心配になりつつもちらっと覗く。




 スヤスヤだった。


 勤勉そうに見えて休日はだらけるタイプだったとかか?

 ギャップを感じかけたが、周りに本が散らかっていたので、違うみたいだ。そろりと一冊手に取る。吸血鬼の本と、竜に関して。妾が薬を飲ませたのだから、吸血鬼と呼べるのかはわからない。

 蘇生薬はまあ、眷属にする目的もあったし……あの時は魔王打倒も含めていた。血を飲まない選択肢があることも実のところ魔王から学んだのだけれど……妾としてはどちらにしろ結果オーライなのだ。

 しかしリュネの事を聞いてからというものの、若干の申し訳なさが顔を出し始めている。


 そろりとリュネの前髪を撫でる。


 妾も横になる。

 二度寝、ができるかはわからないが……。

 ちょっと寝なきゃ王と打ち合わせしたあれこれ――まあ、デートなのだが――が台無しになってしまう。妾がパンフレットを見て、奴があとは予約や服の手配をしてくれるという。


 むふふ……。

 戦闘服以外のリュネが見られるということか。

 これは妾もノータッチなのでとても楽しみだ。



 本をどかしてリュネの横に寝転がる。ウトウトはしたが、結局昼寝はできなかった。その間にも王に頼んだ服や手配は済んだらしく、フロントから色々と物が届いた。

 そわそわしながら、一人準備してとうとう時間が余ってしまった。

 もうそろそろ起こしたいと、カーテンの隙間から感じる橙色の陽の光で考える。しかし、随分ぐっすりだから忍びないと手持無沙汰になる。

 時間潰しにリュネの髪を耳にかけたり、顔の輪郭を撫でたりしていると起こしてしまった。



「ん……」

「ぁ……すまん」



 起こしてしまったが、どちらにしろ起こすつもりだったので問題ない。

 まだねむねむなリュネに色々と伝えていく。……どうせ今の状態だとリュネが忘れてくれるだろうことを良いことに「お前が喋らないから、いっぱい聞いて来たぞ。例えば……」とつらつらと王から聞いたことを話す。



「うん」

「……、お前の口から話してほしかったが仕方ないよな」

「んー」

「それはとにかく! 色々と予定を組んだのだ。陽が落ちてから出かけたいのだが、大丈夫か? というか、準備があるからもう起きてほしい」



 とゆさゆさと揺らす。

 まあ、出かけるというかデートと言うか……。リュネとしては地元みたいなものだし、味気ないかもしれない。



「わかった」

「よしよし……あ、ちょっと!!」



 頭を撫でてやる。

 いつも妾がされていること。

 それが心地いいのか、もぞもぞとして再び目を閉じようとするリュネ。それを静止してようやく目を開けて妾を見つめるリュネに予定を伝える。



「……その、リュネさえよければ……お出かけしたいのだが、どうだ?」

「……うん、わかった」

「行くところはお食事と劇場なのだが……」



 リュネが頷く。


 これはまだ寝ぼけてる。

 が、ちゃんとベッドに座っているので、覚醒しつつはあるみたいだ。

 しかし最初の最初よりちゃんと聞いている。



「いいか? ドレスコードが必要らしいのだ。……あ、王にちょっと相談したら、用意もしてくれるみたいだぞ。執務の合間に超特急で準備をしてくれてな……」

「ほう……」



 珍しいとでも言いたげな感じだ。

 さらに先を説明する。



「ちゃんと食事はリュネが多分食べられそうなものを妾が伝えてる。だからそこは安心してくれていい。で、終わったら、隣接してるらしい劇場で劇でも見ようと思ってな」



 劇の方は王チョイス。

 どうやらダンジョンが作られた発端――伝承にちかいものらしい。ほぼほぼ庶民用に脚色されているらしいが、物語として見るなら面白いとか言ってた。もしかしたら、王もここから色々調べてダンジョン攻略に至ったのかもしれない。……それは聞かなかったな。

 妾としても、監禁生活一歩手前の記憶の一つだろうが正直興味がある。だから、己の事が知れるかも。と、少々期待している。


 リュネが金の問題を気にしていたが、王の私財からだと伝えたら、困惑していた。これは妾が圧を咥えたわけじゃなく、向こうから言い出していた。

 労いか、ちょっとは気にしていたのか。

 どちらにしろ復讐はこれでチャラとしてる。



「そうか……私の方は何もしていないな」



 なんだかしょんぼりしている。

 妾としてはデートができるだけで楽しみなのだから、問題ない。

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