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5話


 漆黒の闇。


 すべてランプは消えている。

 ジュルジュルと音がした。

 音を頼りにゆっくり歩く。

 剣が落ちていた。

 


 次第にドラゴンの頭が見えてきた。

 死臭は慣れた。

 

 手前に佇むグラスの中の血は相変わらず満タン。



 剣も放り投げて竜の死骸に貪る騎士。


 

「妾の血じゃないのか」



 尋ねたのだが、独り言になってこだました。

 残念だと思った。しかし嬉しくもある。妾が想定しなかった選択肢だが……。


 

 その姿は恥も外聞も捨て、人の形さえも捨てかけている。いや、まだ人間性はすべて捨てたわけではないはず。

 

 妾の存在さえ忘れ、無視して貪り尽くす。

 その様にゾクゾクした。

 

 ドラゴンの胴体には噛み跡が幾つかあった。

 首元に翼の付け根。

 胴体から四肢。

 尻尾に迄至る。


 鱗は固い。それに死肉だ。すぐに血を飲める箇所を必死に探したのが窺える。

 首元が一番良いのか今は背に乗っている。

 

 これが場面の違えばみんなが憧れる空を舞う竜に乗る竜騎士というやつなのだろう。


 再び肉から口を離していた。


 別の部位を見つけようとしているらしい。


 暗闇で妖しく光る赤い眼。

 牙をキラリと光らせて腐肉に突き立る。


 もしかしたら妾があのドラゴンのように食われていたかもしれないと思うと身が震える。前述の竜騎士よりも遥かに、死臭漂わすドラゴンに乗っているこの騎士がいいと妾は実感してしまった。

 


 どちらにせよ飲んでくれたのだ。

 本当は飲まない選択肢も見てみたかったが……まあよい。騎士が満足するまで見ていたい。生にしがみつく様子が素敵だ。妾にはもうない。



 妾は血の入ったグラスを軽く蹴る。

 グラスと内容物がこぼれた音が反響する。

 

 騎士が音に気がつき、瞬時に振り向く。ぴくりとする妾。

 微かに聞こえてくる。彼の喉が唸る音が。

 静かに着地して降りてきた。

 攻撃してくる様子はない。

 

 何よりも薬を与えた後、飢餓の期間のヨタヨタとした足取りではない。しっかりとしていた。血色は悪いが調子は良さそうだ。


 グラスから溢れた赤には目もくれない。



「……満足か」



 今度は妾が怯えている番。

 騎士には伝わっていないはずだ。

 紅くなってしまった瞳に射抜かれる。何か返答を待っていると、視界が暗転した。


 首元がチクリとする。一呼吸おいてやっと理解した。


 ――あ。噛んだな。



「おい。こら」



 きづいてから彼の頸にチョップをかます。

 ゴブリンやスケルトンのような本能的なものしかない人外ではない。にもかかわらず彼らの時のような叱りつけ方なのは自らが変えたから。これがいわゆる母の気持ちだ。


 多分相似していると思う。

 チョップで顔を上げ、離した。

 彼の唇と首筋に赤い糸が繋がれる。


 妾の美しい陶器のような絹肌から貴重な血が流れていく。途中で妾の美しい白の髪に絡み、染めていく。

 彼の口から滴る血が口角から顎へと輪郭を撫でる。

 それから目が離せなかった。

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