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45話※リュネ視点





 いたい。

 死んだか……?

 いつ。





 ‘死’ということは否定できた。痛覚と視界が現実に引き戻したから。

 霞む視界は赤。



「使えないヤツだな……」



 昔こういう言葉をよく投げられたのを思い出す。

 では、過去を見ているだけか……?

 視界がようやくピントを合わせる。瞳だけを動かすと見えてくる故郷の軍旗。鎧。

 長かった髪を引っ張り、引きずられている。

 このときは、そうだ。



 敵兵――カークリノラース王国の兵を見逃したのだ。

 いや、見逃した、は違うな。向こうと拮抗していた。故郷の軍が崩れそうになったので、先に先手を打って後退した。

 戦略的撤退というやつだ。

 

 それに対峙した向こうの武人も良い者だった。



 今思えば、あれは前王だ。

 今のアルトと似ている。策は喋らない。しかし、対処を幾つも考えている。アドリブがアドリブでないように。

 それに前王には保護してもらった後も良くしてもらった記憶はある。



 今……夢の中の状態は戦場の傷ではない。

 味方から受けた折檻だ。

 片目は開かないし、身体全てが痛い。足の感覚だけがないのは現実の私にないからだと思いたい。


 連れてこられたのは崖。

 

 故郷は紅水やダンジョンの出現のせいもあり、農作物は育たない。

 水も満足に確保できない。

 民の飢えが酷かった。最初は赤水でお祈りするという変な風習があった。信仰は心の支えだけで、腹が満たされることはない。

 私はまだ裕福な方だった。下はもっと悲惨だったろう。当時身に行かずとも何となく周りの表情で分かってしまった。

 結局それを外で略奪という形で補っていた。

 


「ここに落としたらどうなるか、貴様で試させてくれ」



 私を連れてきた者がそう伝える。

 過去を見ているというだけだからか、抵抗はできない。当時でも身体は動かないから、どちらにしろされるがまま。

 手を放して、身体を蹴られる。

 重力に逆らうこともできず、落ちていく。

 すべてがゆっくりに見えた。

 私の視界の端で蠢く人影。

 私を引きずってきた者の部下かと思ったが、アレは違う。



 私と相対した前王だ。

 たまたま見ていた、というより戦地を偵察中だった。後に聞いた時そう語っていたのを思い出す。




 そしてすぐ視界は赤になった。

 沈んでいく。



 この時、もう死ぬのだろうと思っていた。

 藻掻くこともしなかった。

 

 第三者目線で己の過去を追体験しているから、この赤水。紫――いや、青だ。

 なぜだろう。




 それに、この感じ。

 あの娘の髪に触れた時の感覚に似ている。

 暗転していく視界の中、一つ飛び込む音が聞こえてきた。



 そういえば、そんなことがあったな……と思いながら、意識が浮上していった。


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