41話
「妾は怖かったのだぞ」
「すまん。あれは少々本心もある。それに自分の血に酔ってしまっていた」
「やっぱり」
「止めてくれて助かった」
「あの目は止めるな、じゃなかったのか」
「ふふ、違うな」
当たり外れをリュネから感じ取らないといけないのは大変だ。とはいえ、それを楽しむ妾も心の内にいるのは確かだ。
「さ、私たちも行くか」
「う、うむ」
リュネが手を差し伸べてくる。
その手を妾は上から被せるように取った。
ちょっと令嬢の気分だ。
悪くない。
昼間通った通路を通り抜けていく。
そして、例の絵画だ。
やっぱり魔王の場所を連想させる。
リュネが立ち止まる。うーんと唸る。
「……見間違いか?」
「うーん。妾には魔王のところにしか見えないな」
妾が描かれていたらしい絵をリュネは随分気に入ってるみたいだ。
妾にはやっぱり見えない。妾が描かれていた……らしいが、リュネも自分の目を疑っている。
気に入ってくれているみたいだから嬉しいことこの上ない。
時間によってか、それとも別の条件か。
違うものが見える奇妙な絵画。
「なぜ」と呟くリュネ。
妾は横顔を見る。
リュネの綺麗な横顔の横に悲惨な光景が目に入った。
柱に血飛沫。
白壁だから夜だとしても目立った。
更に周りを見渡すと、死骸は無く、ただただ血溜まりばかりが城の中を汚していた。
ああ、捕食のあとか。
リュネは気になっていたようだが、今度は妾が引っ張っていく。
それに釣られてリュネが動く。
柱の後ろに竜がいた。
赤く染まった口が何をしたのか。物語っていた。本人は満足そうに舌舐めずりをしている。
グールでも腹は満たされるのだな。
次第に兵たちの姿が多くなってきた。
今までいなかったのは王の情報統制の強さと城壁にいたからだろう。
兵士たちには竜たちは攻撃しなかった。
まあ、リュネの血を被っていないからな。
竜たちを見て、「うお」と驚く声。
「またか?!」という声を聞いているあたり、やはり城壁にいた兵たちもいるらしい。
恨みの目を向けていないあたり、死者は出ていない、優しい攻防だったことが窺えた。
竜たちにしてみれば戯れていた、が正しいかもしれない。
ただの時間稼ぎだったし、リュネの知り合いもいるかもしれないし、妥当か。
やっと城から出て、門の辺りの比較的開けた場所に着いた。
先に行った王の姿。
兵が妾たちを捕らえないのも、先にお触れを出してくれていたからだろう。
王は二人の姿を捉えると、「休むのは王宮より、外の方がいいだろう。手配したから、この者が案内してくれる」と伝えて、兵士を呼んだ。
……こいつなりの配慮だろうか。
個人的にはリュネの家にでも行ってみたいのだが……。
「リュネのいえがいいのだが」
「……行くぞ」
「リュネの――」
何度か駄々を捏ねてみた。しかし遠いいからという理由で、断られる。
また後で希望を伝えようと大人しく着いていくことにした。




