39話
王座の後ろは割れたステンドグラス。
なんの模様があったかさえ覚えていない。
残骸をパチパチと踏み鳴らす。
その開けた外ーー夜空に向かってリュネはピューと口笛を吹いた。
王はリュネのすることに興味があるらしい。
壊れた王座に凭れて、様子を伺う。
久しぶりに会った友人が魔法を使えるようになっているのだから、そりゃあ、気になるだろうな。
逆に妾はどうなるか察しているので、ちょっと見栄を張りたくなる。
しばらくして暗闇からギイギイと鳴き声が聞こえてきた。
真っ暗で何が来ているかは、きっと常人ならわからない。妾はなんとなく察していた。
キラキラと星以外が煌めくのが見える。
そしてヒュと、塔と塔の間を突き抜けて星が落ちてきた。
真っ黒な影はそのまま城内を蛇行する。
姿が見えなくなってから、悲鳴が聞こえた。
それを皮切りに空が落ちていく。
飛竜たちだ。
城壁を襲わせた飛竜たちをこちらにけしかけたのだろう。
堕ちていく数はまあまあいた。
城壁ではどういう攻防が起こったのかはわからないし、物理がきかないわけでもない。
しかしリュネが倒れない限り、ゾンビみたいに倒れても起き上がるだろう竜たち。兵たちには少々難しい相手だったろう。
一体の竜がリュネに褒められたいのか、こちらに留まる。
これでやっと目視できた。
光で卑しく照らされる巨体。
以前リュネに襲われた傷が生々しく残っている。
妾はリュネに殺人はしてほしくないが、竜に襲わせるのは捕食と思っている。
我ながら虫がいい話だ。
「ほう」と感嘆の声が聞こえてきた。
そして、訝しげに妾とリュネを見て、「リュネ……お前は」と困惑し始めた。
妾が先ほど長ったらしく垂れた文句。全部偽りだとでも思っていたのだろうか。
リュネが一度死んだということは伝えたことは伝えた。本当に死んでいたとは思わなかったのだろう。
竜を撫でる手を止めて王を振り返る。
リュネが改めてどういうふうに説明しようか迷っていた。
代わりに勝ち誇った妾が説明する。
「言ったろう。お主が捨てたから妾が惚れ込んで拾っただけだ」
「惚れ薬でも盛られたのか……」
「違う! そんな一時的なものに頼る妾ではない。妾が看病していたらリュネが惚れてくれたのだ」
ふふふと妾はうっとりする。
まさかという分からずやの王に何度行っても理解してくれない。リュネも「違うな……」と王と妾の熱い弁論に訂正しようとする。
確かに妾は惚れ込んでいるのだから、全部正しい。妾は割と正直者だ。
惚れ薬というのがまた不愉快だ。
ちゃんと告白して同行デートまでしている。
なんなら野営で同衾した。
それを包み隠さず伝えてやる。
王はチラッとリュネを見る。本当か? と問うてる顔だ。
いやいや、違うことはない。




