38話
「妾としては色んなリュネを見られるから楽しいぞ?」
ガンガン冗談を言う妾の頭を叩く。
調子に乗るな、と言うことか。それでもいつものリュネが戻ってきたので「えへへ……」と叩かれた部分を押さえて笑う。
妾たちの痴話を一通り眺めていた王が「逃げ足だけは早いのだ」と呟く。多分、臣下たちのことを言っているのだろう。
妾のせいもあるからついさっきと打って変わって小さくなる。今度は妾が「すまん」と小声で謝る。
これは隣にいるリュネにしか聞こえなかったが、「問題ない」とまたぽんぽんしてくれた。
リュネに同じ轍は踏ませたくない。
王だけを叩くだけかと思ったが、あれは違うとおもったから咄嗟に止めた。
殺しも正直してほしくないのだ。
「その心配もしなくていい」
……伝わったのか。それとも無意識にそう言う態度が出ていたのか。
そう言ってくれた。
今回の作戦ももう少し調査でもしておけばよかった。はしゃぐのもダメだな。
ダンジョンと違う。
王は別の目的があってリュネが来るように仕向けたのだ。二人の闇討ちの命令はすっとぼけていたが、腹心の部下から二人に頼むなりやりようはある。
妾はちょっと申し訳なさを感じていた。要は臣下をどうにかすればいい。
妾が……。
ぐっとリュネを掴んだ手が力む。
「君が背負う必要はまったくないぞ」
妾が悶々としていると、更に安心させる言葉と目。
夜空が落ち着かせてくれる。
「で、でも」と慌てる妾を他所に、リュネが王座に向かって歩き出す。リュネを掴んでいる妾も一緒についていく形になった。
王座を通り過ぎる。
王には何もしないのか。
ぐぬぬ……。
……。
「大体お主がリュネを置き去りにしたからこうなったのだぞ。わかっておるのか?
その調子だと死んだことも知らなかっただろう!? 魔王を倒したのもリュネ! 妾を白馬の王子様のように攫ったのもリュネ。愛称で呼ぶのも不愉快だが、今は妾のものだっ! ……もが」
ついつい妾は爆発してしまった。
今までの鬱憤だ。
最後は残念ながらリュネに口を押さえられた。しかし、ある程度は言えたので満足だ。
王も一瞬目を見開く。
そうなのかと、リュネを見ていた。
そして今度は妾を見た。
妾は妾でしてやったりなので、踏ん反りかえる。
静まり返った後、王が一言。
「……いや、リュネ。鍵開けできたろう」
「……?」
「その剣、全ての鍵、バリアを開けられるものなんだが……だからこそここまで来れただろう? パーティメンバーも臣下の息のかかった者。リュネに一度離れてもらって、彼らを後ろから気絶させる手筈……のつもりだったのだ、が、、、今回のようには伝わらなかったみたいだな」
「……」
この城全体にバリア貼ってたのか。
それさえ知らなかったな。
これからは行き当たりばったりはやめよう。
リュネはリュネで少しいたたまれない。
こほんとリュネは改めて進みだす。
こやつら会話というものをしなさすぎる……。




