36話
どちらもまだまだ。
本気を出していない。
軽い手合いを見ている気分だ。
とはいえ、こう呑気にしていては城壁の兵士がこちらに援護に来てしまう。流石に妾もその時はリュネがどう言おうとも、妾が下に降りて加勢する。それでも二人で多勢を相手には中々できるものではない。
リュネがガリと指を齧った。
あらかじめ落とした血で蛇を形作る。
「魔法なぞいつ習った」
と言いながら、様子見のため後退りしていた。
驚かし怯ますには効果があったらしい。
それはそれとして……。
アルト王とリュネのこの戦い。
先ほども手合いを観戦している気分にはなった。なんだかダンジョン中の演劇を見ている感じに近い。
最初は確かに緊張感があった。
ーーいや。今思えば妾だけが不安だっただけか? リュネはまた察しろ状態だったことか?
……それは髪の話で恥ずかしくてもしかしたら妾の耳に入ってなかっただけか。
あとで愛称の件と共に問いたださなくては。
甘々におだててくれなければ機嫌は直さないつもりでいこう。普段は妾が甘々なのだから。
大して参戦していないにも関わらず状況が分からなくなったり、恥ずかしくなったりと妾が忙しくしている頃。
ガタンと扉が開いた。
もう兵士が来たと思ったが、大臣たちだった。謁見の時にいた者たちとまた別の部署らしきものたち。
多分一部の臣下たち。
開いた瞬間の光景に困惑している様子。
「呼ばれて伺いましたが、一体これは……? 敵襲でしょうか?」
「宰相や他の臣下もいないようですが、この会議は全員参加と聞いております。一体どういうことですか」
「……」
どうやら大臣たちはこの状況をわかっていないようだ。流石に報告があるはずだが、なかったということだろうか?
彼らの話を聞く限り、一部だけが呼ばれたのか。
しかも偽りの会議で釣って。
「リュネ」
大臣たちに何も言わず、アルトがこちらを呼ぶ。
何も言ってこないが、目で伝えてくる。
人が揃ったと言いたいのか。
「ど、どういうことだ」
妾も水晶越しで困惑する。
リュネも驚いている事だろうと思っていたが、案の定のようだ。
「これは考えつかなかった」と溢している。
切先が下がってしまった。
王に欺かれたか。
これはと言っているから、もしかしたらリュネにも欺かれたと思った方がいいのか。
やけに違和感があったのはそういうことだったのか。
ダンジョン内から今までずっと演じていたのだろう。いや、もっと前からかもしれない。
そういえば、こいつら謁見の時見つめ合ってたな。
テレパシーのような魔法が使えるのかはわからないが、良い主従だったということか……?
妾を外に出したままにしたのは余計な致命傷を王に向ける可能性があったから……か?
もう参戦してもいいだろう。
ちょっとリュネが心配だし。
それはそれとしてあとでリュネを蹴ろ。
リュネが開けたガラスの穴から箒で颯爽と抜けていく。やっぱりちょっと眩しい。
蛇たちを扉の向こうにいる大臣たちへと差し向ける。案の定無様に悲鳴を上げながら逃げる老獪。
ドアの近くで腰が抜けた臣下の元に近づく。
もう蛇が絡みついて逃げることもできないらしい。手元の鎧を脱いで手を切り込む。血が形作っていくのは大きな斧。
「私とお揃いだ」
「ひ、ひい……」




