35話
王は降り掛かったリュネの血を一撫でして、一言。
「? なんだ? 手負いか。それでも私と一戦を交えたいと? まったく……手合わせが好きなのだな」
「アルト」
「まだそんな愛称を呼ぶのもお前だけだよ」
王は嬉しそうに紡ぐ。元からリュネと王とでは技術も力量も差がある。
ダンジョンでもそうだった。リュネの方が魔物たちと剣を交えていた。王はどちらかというと、指示の方だったように思う。
だからこそ箔をつけるために死んだと思われていたリュネの戦績を貰ってでっち上げようとでも考えていたのだろう。浅はかだな。
力の差は歴然。だからこそリュネが手負いだということに歓喜している。
それはそうと、愛称で呼べる仲だったのか。
妾よりも先に……。
やはり妾も一太刀浴びせたいところ。
あとリュネにも問いただしておこう。
お互い間合いを取りつつたまに剣を交える。
二人ともまだ爪を隠している。
どちらかが本気になったら負けみたいな戦い方だ。
しかし、リュネはただ吸血鬼としての能力を確認したいだけの動きに見えた。本人も驚いていたし……これは確かなはず。
ある程度見ておかなければ、気が済まないのだろう。
王はまだ謁見の時リュネの血を赤いカーペットに仕込んだことは気がついていない。普通は赤を赤に隠したわからない。
次に攻めいる前に王から仕掛けてきた。
中段に構えて突きの体制をとっている。
細い刀身だから剣を交えることはしないだろう。
瞬時に間合いを詰めてくる。
リュネが横に躱わす。
王の突きは空を切る。
空いた片手でリュネを指差す。
その指からレーザー攻撃を放つ。
リュネがうまく剣を使って防ぎ、明後日の方向に反射させた。
きっとレーザー自体の光に対してリュネは問題ない。
魔術師から学んだはずだ。実際に妾がこの目で見た。同じ薄い赤の閃光。
魔法は学んだ人に依存する、たとえば師匠が青いレーザー魔法だと教わった人も青いレーザー。
独学だとオリジナルの見た目で一目で師匠が誰か判別がつく。
だから何処かにある魔法学園は同じ教師から教えられているはずだから発動時同じ型。同じ見た目の魔法。発動時間や癖も似ている。
そうなってくると派閥が生まれるからめんどくさい。
ーーといっていた。
……魔王の受け売りだ。
しかし魔術師の魔法よりも威力は低そう。
今のように躱された時の不意打ち用として身に付けた、と言った感じか。
一番厄介なのは光の魔法だ。
対人は目潰し。
暗い場所には灯り。
と、対して活用場所はあまりない。
今となってはリュネには毒。多分あの時の魔術師の光魔法も対面の相手は妾だったが、そうとうきつかったはずだ。
あの程度でも効果があったのだ。真っ向に当たれば致命傷以上のものだろう。
それさえ気をつければーー。
上段からの突きとレーザー攻撃を躱わしていく。
そして撫で切りにする。
ーーが、細身の剣を撫でるようにうまく防がれる。
火花が散り、一度後退していった。




