33話
リュネによると死んだのは二度目だ。
一度目は赤い水に落ちた時らしい。
どういう状況下までは聞いていない。聞いていたら一言一句覚えている妾が知らないはずはない。
過去があるからこそドラゴンも単騎で打ち取れたのだろうと思う。……と言っても、相打ちではあったが。
三度目はないようにさせないと。
再びリュネを下ろしたところに旋回していく。リュネがカンとガラスを蹴る。
大して力は入れていないように見える。
まだ己の力の加減がわからないみたい。
ガラスが下に落ちていく。
夜更けだと言うのにキラキラと屑が輝いているのはこの城自体が太陽の光を蓄積しているせいだろう。
リュネがそこから入っていく。
リュネにつけた水玉で見るーーが室内が眩しい。出力が水玉なせいか元々明るすぎるせいか……。
リュネは大丈夫だろうか。
マントをうまく被って下に降りる。
ちょうど王座の後ろ。謁見の時の場所がここから見える。
「来ると思ったよ、リュネ」
王座から声が聞こえた。妾の視点ーーリュネもちょうど椅子の後ろにいるからわからなかった。無駄に装飾があるし椅子も豪華だ。
謁見の時よりもフランクで、リュネのこともファミリーネームではない。
公務でもない普段の奴だと思う。
いや、勇者の時もこんな感じだったな。
落ちてきたガラスを叩き落とす。
何かの書類を見ているらしい。
「二人が君を襲ったと聞いたが……無傷か。それもそうだよな」
言い方が襲撃命令を出したことを誰かから聞いた。自分ではないかのような言い草。
多分闇討ちしてきた魔術師と武闘家のことをいっているのだろう。しかしこの言から察するとあの程度で妾とリュネが討たれるとも思っていなさそうだ。
「……」
「どうした? 昔話を洒落込みにきたわけじゃないだろ?
オレは忙しくてな。要件はなんだ? ダンジョンで見捨てた苦情でも言いにきたのか? 昼はそれかと思ったのだけど……それとも戦績をオレが貰ったのが不服だったか? お前ならすぐ追い越すだろう。あ、あれか? 国を滅ぼしたことか? 案外我が都市の技術で今は安寧を手にしていると思うぞ。
それともオレでも撃ちに来たか? ほら。今のうちだぞ」
そう言って両手を広げる。
リュネは様子を伺っている様に静か。
煽っているのだろう。自暴自棄に見える。
なんだか夕方に見た奴とはまったく違うな。
それでもリュネを侮辱したのはまだ妾は怒っているからな。と伝えることのない台詞を思う。
戦績も人の倍あったのだろう。
ただ、故郷も戦績も大して重要視してなさそうなリュネはどうも思ってなさそう。
御託を述べているが無視してしまおうとでも思っている風な瞳。
ついついリュネから離れる。
妖精のようにリュネの周りを回る。瞳を見たかったからリュネを離れて飛んでしまったが、自重すべきだったなあ。
顰めた瞳は多分何しているんだと言いたげだ。
この瞳も悪くない。
前言撤回だ。
飛んでよかった。
妾にあまりこういう目をしないから。
闇討ちとは言っていたが実際殺すのか否か。
皆までは聞いていない。……聞けばよかった。
リュネがどう動くのか見てから妾も動こう。
……その場合はリュネの邪魔にならないように。あとは言い訳を考えておこう。




