31話
決まったとわかると、妾は箒を取り出す。向こうで「頑張ってください」と応援がかかる。
向こう側は元ダンジョンにいた魚人。
リュネが落としていった鎧は全て保管してある。一度見にいったらまるで美術館のように展示してあった。
わかっているじゃないかと誉めたのを覚えている。
そのためもあってリュネが落とした鎧を向こうに放り投げる。マントは被ってもらわなくては陽の光を遮るものがなくなってしまう。
リュネもおとなしくそれを受け取った。
おそらく本人は大切に大切に展示しているのは気づいていないはず。
カンカンと遠くから鐘が鳴る。
おそらく城壁付近で翼竜に気がついたのだろう。
リュネの作戦の内だろうか。
それなら喰らった他の竜も動かしていることだろう。
「では行くということで良いか」
「ああ」
箒に跨って、チラリとリュネを見る。
まあ、当然……相乗りだよな。
――準備はまだか。
そう言う顔をしている。
妾の心の準備は永遠に完了しないだろうなあ。
リュネに急かされて箒に跨る妾。
行ける準備だけは完了している。
「いいぞ」
妾がそう伝えるとリュネが跨る。
妾の腰……ではなく箒を掴む。残念なような、ホッとしたような……。
ふわりと空に浮く。
妾の髪がリュネに当たっている。
それさえなんだかわかってしまって恥ずかしい。嬉しいが……やはり心臓に悪い。
風の音に混じってリュネの声が聞こえてくる。
リュネの声音に関しては地獄耳として定評のある妾がこれを聞き逃すことはない。
「髪……」
「え!? すまん。今度切るよ」
「そうではなく」
髪のこと……?
どうしても移動するとその風に吹かれて靡いてしまう。というかリュネに当たっていたことさえ恥ずかしい。
いや、嬉しくもある。
リュネも邪魔だから言ったのかと思ったがそうではないらしい。
「な、何だ!?」
「いや……」
いつものように歯切れの悪いリュネ。
毎度の如く聞き逃すとでも思ったのか。今回からはそうもいかないぞ。義足のことも謁見でのこともあるからな。
「この感じも懐かしくてな」
「? なんか覚えてないのか」
「うーーん」と考えるリュネ。
今から戦闘だというのに緊張感のかけらもない雰囲気だ。妾としてはリラックスできて悪くはない。
行き帰りの足要員ではあるが、正直不安が募っている。
とはいえリュネのその懐かしい感じというのも気になっている。どうしても昔の女の気しかしないからだ。
再びモヤモヤしてしまう。
それに王城にあった絵に妾が描かれていたというのだ。わけがわからない。




