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24話



 彼がノックして入室の旨を中に伝える。

 そして陽が傾きかけているのに、光に満ちていた。蓄光でもしているのだろう。マントをフードにしているとはいえ光に当てられて少し蹌踉めく。

 

 勘付かれない程度に支えてあげた。



 ステンドグラスと王座を背に一人の影が見えた。

 妾は一方的に知っている顔。

 

 確か名前はアルテミス・カークリノラース。ダンジョン内では勇者という位置付けを勝手にしていた。


 そして周りには複数の配下。どうやらここで執務中であったらしい。妾たちに全ての目線が刺さる。



「――ああ。戻ったか」



 後光が差す。

 ちょうど逆光になって向こうの姿は影になっていた。表情はよく見えない。

 周りがいるせいでより一層緊張感が増してしまう。


 リュネは片膝を付いて平伏す。それに倣う。

 次に口から垂れる言葉が一体何だろうか。やはり謝罪か己の行いを忘れて労いか。しかし推測とは別の言が響いた。

 


「貴様の戦歴は我が功績となった光栄に思うと良い」


「……」



 

 それに頭を垂れて肯定する。

 肯定してくれるなよ。

 戦歴がどれほどのものか妾は知らない。

 亡国の者が別の国で王子に抜擢されるくらいだ。相当のものだったと見受けられる。


 先に妾の方が怒りでどうにかなりそうだ。

 こっそり魔法を放つつもりだった。彼がこちらを見ていたのでやめた。

 妾が煮えくりかえる可能性があると思って監視していたのだろう。

 別の意味で気にかけてくれるのは嬉しい。

 しかしこのモヤモヤは晴れない。


 それでも反論しない。


 いや。

 地に付いたリュネの掌は拳が握られていた。

 血が滲むくらいに。


 苦しんでいるのが伝わり、妾も悲しくなった。



「ダンジョンの消失が確認された。魔王を討ち取ったのだろう。さすがリバーサイドだ。これからはゆっくりと過ごすと良い。こちらで手配してあるから明日にでも窓口で確認してくれ」



 皆までは言わないがダンジョン攻略も、彼らのものなのだろう。


 要件だけを一方的に伝えた。

 終わりに顔を上げて奴の目を睨んでいたのを頭を下げながらも見守っていた。



 ――もしこのままリュネが突撃しても援護できるぞ。



 というような目配せをしたつもりだった。

 彼は返してくれなかった。



 王の方もそんなリュネの目を見つめ返し、頷く。謁見は終わりだとでも言うように。

 王はくるりと踵を返す。

 そして、再び臣下たちと会話し始めた。


 屈服したまま頭を垂れる。

 立ち上がり、もう出るぞとでも言うように妾に目配せする。妾が立ち上がったのを一瞥して、出口へと向かっていった。

 

 掌から零れ落ちる赤い雫。下では赤いカーペットが受け止めていた。きっとこれさえも妾以外は気付くことはないだろう。

 辿るように妾も慌てて付いていく。



「りゅ、リュネ……」



 王にほとんど言葉を発することなく謁見が終わった。

 何か反論するつもりだったからと踏んでいたので、拍子抜けというか。

 


「お腹すいたな」


「りゅ、リュネ」



 妾の気が抜ける。

 あまり屈辱には感じてなさそうな。

 いや、逃避している気さえしてきた。



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