21話
赤の槍を掴んでは投げ、心臓に響く墜落の音を聞く。
そして再び掴んでは投げ……。
繰り返して屍の山ができていた。
少し息はあるものもあったが、しっかり仕留めていた。一方的な狩りが終わる。
魔王の時は水のせいでうまく攻撃も当たらなかった。これは八つ当たりでもあったのだろうか。
「済んだか」
「まだだ」
手を合わせて今度は戴くつもりらしい。
その山によじ登っていく。
首筋に牙を突き立てる。
鱗が硬いらしく、ガリガリと音が聞こえた。
どうしても歯が立たないらしく、別の部位を齧り付く。
――刹那。
屍だと思っていた横の一体が動き出した。
死んだフリをしていたのだろう。野生の魔物にしては知恵の働く戦い方だ。貫いた場所が致命傷ではなかったということか。
翼の先の鉤爪を振り回す。
その遠心力でくるりと一回転した。
リュネには爪の攻撃はぎりぎり届かない。
悪態を付く。
それでも嬉しそうにしていた。
一度屍から降りて、対面する手負の獣たち。
妾はそのまま木に凭れ掛かり座る。
結局槍を突き立てた場所から吸い付いた。
彼の食事風景を見始めた。
狩りの成果物と味に満足そうに齧り付く。
陽が登ってくるまで食餌を楽しんでいた。
◇◇◇
「おはよう」
晩陽の時。
時差ずれのある言葉を述べる。
リュネの方も「おはよう」と掠れた声で返答する。良く眠れたらしい。それともう魔王から受けた傷も、貧血も治っているようで、表情からは些か調子が良さそうに見受けられる。
妾は早速と言わんばかりに出発したいところ。
しかし朝餉とばかりに翼竜の死体を漁る。
啜る音が静かな土地に響く。
妾は一体に跨るリュネを眺めた。
正直この死屍に群がる魔物が寄り付かなくて良かった。これのおかげで倒した我々――といっても一人だが――を警戒しているのかもしれない。
「気は済んだか」
「ああ。随分回復した」
「それはよかった」
乞えば竜人たちから血を恵んでもらうこともできる。ただ、騎士の良い狩人姿が見られたので妾から提案することはしない。
状況が状況なときは妾が血を口に含んで接吻でも何でもしたらいい。そういう場面を期待して妾からは提案しないことに勝手に決めている。
……不味いと言われること請け合いだが、それもまた一興。
お互いに朝餉……ではなく夕餉を経て、今から行く王国について珍しく彼から説明があった。
まず、その国民自体愛国心があるということ。
それはいいのでは。とは思ったが、国王、王族さえ崇めるほどらしい。異常なくらい。
今から向かうのは王子……つまりパーティ内では妾から見るとリーダー格の勇者に会いにいくというのだ。
以前『行かないわけにはいかなかった』と言っていたが、確かに主従関係にあるなら断ることはできないだろうな。
リュネに同情する。
一度死んで良かったのではと不謹慎なことを言いたくなるくらいだ。
行く前からも思っていたが、やはり危ない気もする。何かするつもりなのだろうか。
妾の疑問を補足してくれるように「それと」と足を触りながら更に話し続けた。




