20話
灰色一色の土地。
降り立ったここがちょうど丘となっていて一望できた。
木々は細々としている。
生命のさざめきは一切聞こえない。
唯一聞こえるのは、何処かにいる魔物の咆哮。
何かと縄張り争いでもしているのだろうか。その声はまだ遠方にいることを物語っている。
たまに来ていた野蛮人たちはどこに住んでいるのだろうか。内で気になっていたことを思い出しながら見渡す。
前に彼が言っていたことから察するに、おそらくはダンジョンがあった影響だろう。今はもう妾の空間に置いたから軈て緑が増えることを祈るばかりだ。
自由になり、外に出れた。
足に感じる土の感触。
居心地の悪さは長年捕えられていたせいだろう。
そして最初に見た風景は殺風景。消沈してしまう。もっと先は緑生い茂る美しい景色が拝めると思い楽しみとする。
先に目覚めた妾はこうして寂寥とした風景を眺めていた。ついでにダンジョン内にいた魔物たちは妾があらかじめ作っておいた空間に移動している。召喚魔法で呼べるので食事も先頭になったとしても安心だ。
この土地でダンジョンの脅威は無くなっただろう。
そろそろ横でまだ寝ている彼を起こさなくては。
空も陽は出ていない。
どんよりとしている。
まだ、行動できる範疇だろう。
ただ失血しただろうから、しばらくは危険の少ない場所にでも移動して回復を待つつもりだ。
目を開けてくれる前に以前竜人から貰った血の入った瓶を取り出す。
「リュネ」
一度声をかければ星空の瞳が開く。
彼もまたダンジョンからの久しぶりの生還だ。
まだ傷は癒えていない。気分もすぐれないリュネが色の悪い顔を向け第一声を呟く。
「……月が何回登ったろうか」
「お前に薬を与えて9回は登ったから……もう少し経ったと思うぞ」
「君はどこにいくつもりだ?」
向こうから尋ねられた。
幽閉されていた妾を多少なりとも心配しているのだろう。ニヤリとしそうになるのを堪える。頬が引き攣る。
これからどうしようか。
色々見たいことがあって、むしろ行動できない。これは贅沢な悩みだろうな。
リュネの問いに答えあぐねる。
と言っても、答えはほぼ決まっている。
「リュネのところについて行こうと思っておる」
むしろ着いて行ったほうが楽しめるのではないか。その考えに落ち着いていた。
そう答えてからその星空の瞳を見る。
迷惑ではなさそうだ。
望んでくれているなら尚良いのだが。
「あまり楽しくはないと思うが……」
「どこにいくのかは、決めておるのか」
「帰ってみる」
「え」
リュネの返答に驚く。
妾は一連のことを見てしまっているから。
パーティが彼にしたことも全て。
だからこそそこへ帰るということに驚いていた。そもそも人間から逸脱しているが大丈夫なのだろうか。
妾の心配を察しているのかさらに続ける。
「どういう顔で出迎えるのか見ものだからな。あとは色々とやりたいことがあるのでな。その後は旅をしていい場所があればそこで腰をおちつけるつもりだ」
「ほ、ほう」
何をやるつもりなのかは分からない。
この流れで聞いておけば良かった。
しかし妾の頭はその後に続いた旅という言葉に唆られ聞きそびれた。
「た、旅というのは、いろんなところに赴くことなのだろ!?」
「とにかく行くぞ。ーーいや、その前に」
興奮して縋る妾を退ける。
そして、曇天を游ぐ翼竜を仰いだ。
まさか……。
――まだ傷が癒えていないというのに。
傷口から矢……いやもっと長い。血の槍を作り出した。
「ま、待……」
何をしようとしているかを察して妾は赤い液体の入った瓶片手に制止を試みる。これがあるから問題ない。直に飲みたいのなら竜人でも召喚しても良い。
そう伝えたかったのだが一歩遅かった。
飛んでいる竜に狙いを定めて投擲した。
槍は翼竜を穿ち、そのまま墜落してきた。
妾は木の下に避難する。
細々としすぎて気が紛れるだけなのだが。
そのまま中身の無くなった瓶だけ持ってリュネを観察していた。
……足りないのか?
今度は地に滴った血潮から複数槍を出現させる。狩人の血でも騒いだのだろうか。
……前に伝えたあまり狩るなという言は忘れているらしい。あれは吸血鬼に対してだったか。
魔王を倒す時と同じように生き生きとしていた。
もう止める気は起きない。




