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18話


 彼が攻撃を繰り返す。

 妾も石を探しては邪魔にならないように援護していく。


 ――と言っても石を投げつけるだけなのだが。


 妾とリュネ二人の投擲で徐々に後退していく。

 わざとだろうか。

 わからない。


 水へと誘うせいで力が増してしまう可能性も否めない。魔王を倒す手段であるなら致し方ない。

 リュネも不安要素があるが妾が――微力も微力だが――援助すればいい。


 妾たちの作戦通り躱した後魔王は水の方に入り込む。


 追いかけていき、竜人がやった辻斬りを使う。魔王の右側がブレる。血は流れてこない。代わりに煙のように右側から迸る。


 ――攻撃が入った?

 彼も手ごたえを感じている。


 魔王は水の感触が心地よいのかそのまま膝元まで入っていく。

 再び駆けるが波打ち際でピタリと止まった。流石に泳げなくとも行けない場所ではない。



「来ないのかい。心地よいものだよ」



 子をあやす声で敵に語りかける。


 攻撃が当たるようになったことは、良い進歩だ。それはリュネもわかっている。しかし水には浸かりたくないらしい。

 柄を浅めに握って、遠心力で振るっている。


 波のギリギリを責めるが、空振りに終わっていた。濡れるのは嫌なのだろうか。


 対する魔王はもっと近く寄れといった体裁だ。

 


「ここを恐れるとは水難でもあったか?」


「っち」


「美しいとは思わんかね」



 パシャリと水遊びする。

「勿体無い」と煽ってくる魔王。



 黒塗りな為、どの様な顔をして楽しんでいるかは定かでない。しかし確かに心から楽しんでいることだけはわかる。これを妾も大昔。まだ拘束されてない時、その光景を見たことが何度かあるから。

 例えばカップルが夫婦がその一瞬を楽しんでいた。

 

 掠った腿から血を救って弓矢のように魔王に向ける。触れる瞬間、燃やし尽くした。


 水の上さえ燃え盛る。

 魔王は不快だと感じ、更に彼の両足を攻撃しようとする。綺麗な水に浸かれない足ならいらないとばかりに。

 その直前。妾が再び石を投げ、軌道をずらす。

 水の魔法は逸れて砂浜に吸い込んでいった


 

「君は何もせず、しばらくそこで立ってなさい」



 まるで幼子を叱りつけるかのような言動。

 手を妾の方に向け、パチンと指を鳴らす。


「……!」


 リュネが心配そうに振り向く。心配なのは妾もなのだが、それさえも伝えられない。手足が動かないのはもちろん。声も出せなくなったから。



 対する魔王は再度楽しそうに水を浴びる。

 いつの間にか炎は消えていた。

 

 そもそも妾とそのカップルのように楽しく遊んでいるとでも言いたいのか? 


 こちらはお陰様で、魔王自身の拘束で砂浜の水さえ来ない場所で固まっているというのに。


 リュネは水飛沫さえも後退りし、嫌悪している。

 やはり水に対する恐怖症でもあったろうか。

 それとも吸血鬼特有の苦手なものとかあったか?

 どちらにしろても足も出ない様子。

 自傷して血の苦無を魔王めがけて放つ。

 あまり良い策とは言えないからリュネもここまでやらないつもりだったはずだ。

 

 魔王は立ったまま、リュネからの攻撃に節々を射抜かれる。

 全て貫通して、ぽちゃりぽちゃりと水に落ちる。

 射抜かれた部位から煙が立ち込める。

 それが人間性を失った何かの流血表現なのか。痛みさえなさそうだ。

 彼にはこうはなってほしくない。


 しばらく楽しんでいた魔王。

 遠距離ばかりで萎えたらしい。

 水を操る。竜巻のようにうねる。

 後退して剣を構える。

 

 ーーどうにか薙ぎ払えるか。


 ――どうやって躱そうか。

 

 そういう表情だ。

 水が苦手なら、特に躱し方を考えているはず。妾が動けるなら。魔法を自由に使えるなら防御壁を設けてやれるのに。風に乗って飛ばすことも厭わないのに。

 足はびくともしない。

 もどかしい。


 湖から具現した水の竜巻。岸辺にある葉が水の竜巻に少し触れただけで鋭利なモノに切られたように散っていく。

 リュネも目撃してしまったらしい。

 しかし、どうにか剣で受け流せていた。

 流石剣の扱いには慣れている。



「ーーっ」

 


 それでもとめどない水量を持つ竜巻に剣が取られる。

 とうとう手を離してしまった。

 一つの竜巻に手を取られていたからか四方を遮られ逃げ道を阻まれている。

 それに気づいてすぐに彼の姿は水の中に消えた。



「!! リュネ!」



 呑まれていく騎士の名を叫ぶ。

 ただただ呼ぶことしかできない。


 再び姿形が見えた時。

 リュネの身体に無数の透明の棘が穿っていた。すぐに傷は癒える。ただ、失血で死ぬ可能性だってある。

 

 それでも妾の足は動かない。

 否。動けない。

 この足枷のせいで。

 爪で抉って重さを相殺しようとしても無駄だった。


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