17話
頭の衝撃はなく、再び目を見開く。
目の前には大きな水溜まりがあった。
周りは月光で影となっているが、おそらくは森。
月夜が綺麗で閑静な場所。
先ほどのモニター音も忌々しい蝶もいない。
リュネは妾を解放していた。
――抱き抱えられていたのにさっさと降ろされるのか。もう少し温もりを……。
場違いな恋心を芽生えさえる。
対するリュネは横に佇んでいた。
無闇矢鱈に攻撃していたのに随分の変わり様。先程までは有効な手段を見つけるため。ある意味標的になってくれていた。
だからこそ妾が糸口を見つけられた。
今度は幻想ではない。可視化できている。ドラゴンの時のようにどうやって攻めようか決めあぐねているのだろう。
武器は持っていないが、過去に魔術師と行動を共にしているリュネだからか間合いを大事にしている。
魔王は数歩離れた岸に佇んでいた。
濡れ羽色のローブ。
月明かりがあると言うのに、顔は闇夜に溶けて見えない。こちらは無視しているみたいだ。
……ずっとここで水に浮く月明かりを眺めていたのか。
それとも観念したと言うことか?
「今の若者――いや、全人類は知らないだろうな。我が奪ってしまったものを愛したものを。何故赤く濁ってしまったのかも。君も知らないだろう」
「何……?」
漸く口を開いたと思った。
――刹那。
リュネの右の太腿を何かが掠める。
リュネが直前に躱わしたため致命傷には至らなかった。
無数の針が砂浜に刺さって、流れていく。水の針だ。
ドラゴンの息吹のような、威嚇か。戦っても無意味という警告か。
どちらにしろ急な攻めにリュネと顔を見合わせる。
「ここで死ねることを光栄に思うと良い」
煽りを皮切りにリュネが剣を振るう。
黙れと言っているような切先を歪ませている。
あれも魔法か。
妾は後衛に立ち、魔王の攻撃や防御を頼りない記憶を辿って戦略を練る。まるでパーティだ。と言っても妾はほとんど攻撃できないから、お荷物同然だ。
空間自体が魔法によるものであれば、どうにか攻撃が届く。それか心臓でも見つけるか?もしかしたら水中にあるかもしれない。暗中模索に近い。
となるとやはり奴自体は本体、生身なのかもしれない。
それなら攻撃が届くような状況を作らないと……。
どうだったか。
再び思い出してみる。
大体奴との記憶は水の上。
楽しそうにはしていた。
奴を水に入れたら……。
推測の範疇だ。
その間にもリュネは血で剣を作って、二刀流にしていた。
ただ、やってみる価値はあるだろう。
妾も追い詰めてみる。
「えい」と妾もその辺の石を投げる。
いいぞと言っているリュネの目がこちらを一瞬向ける。
「リュネ、あの水に入れたら多分攻撃は通じるぞ」
「水の中か」
あまり良い経験がないのか、消え入りそうな声で答えた。珍しい。
「妾もできる限り加勢する。どうにか……」
自身は無さそうだが、頷いてくれた。遠距離攻撃ができないわけではないからうまくやってくれるはずだ。




