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13話



 我に帰ったリュネにほっとする。

 背を背けたリュネに変わり「良い試合であった。ありがとう」と礼を伝える。


 赤い絨毯をリュネと二人して歩いていく。

 まるで凱旋したみたいだ。

 しっかり見送ってくれた。バイバイまでしてくれて可愛らしい。


 

 確か食事がどうの言ってたな。

 螺旋階段の途中の部屋にあると言うことか。


 城は元々幾つかの塔があった。

 しかし今はもう一つしかない。


 彼らの対応が扉を閉める最後まで続くのを見る。

 完全に閉じてからようやくリュネが口を開いた。先程の暴走の件をうやむやにしたい気持ちが現れている。

 


「……ずいぶん愛されているじゃないか」


「まさか。ただ主として慕っているだけだ。城にいるのも使用人として。妾が繋がりを断てば去って行くことが目に見えているよ。可愛らしいことには変わりないがな」


「魔王は?」


「あの者はただ妾のことが美しいから、眺めていたいだけ。……そうだな。人間でも綺麗な植物や魚を愛でるだろう? それと同義だ」

 


 円形の螺旋階段が上へと続く。

 登る前のここに幾つか扉があるがどれも瓦礫で向こう側にはいけない。リュネが試しに戸を開ける。


 やはり無理だ。


 行くにはどこかにあるスイッチを押して、魔法陣を発動させなければならない。

 しかし今回そこへ行く予定はない。

 

 リュネが上を見上げていた。

 これを登るのかと言いたげだ。

 妾を見る。


 妾の瞳にリュネの夜空が映る。


 見つめられても絶対妾は箒で飛ばない。恋慕はしているがこれで落ちる妾ではない。

 確かに綺麗ではあるが。



「ほ、ほれ、行くぞ」



 二階を登ったあたりに部屋がある。まずはそこまで行けばいい。


 リュネを先頭に進んでいく。

 妾も続けていく。ズルはしていない。



「これか?」


「ああ」

 


 チョコレート色の扉。

 随分綺麗なのは彼らが手入れをしてくれているからだろう。元は食堂だったと思う。


 長い机があるだけ。

 そこにテーブルクロスとちょこんと妾とリュネのご飯が用意されていた。

 リュネのところにはワインボトルとグラスが。

 妾のところには山菜メインの和食。

 質素な食事が好みなのだ。


 それぞれ席について戦前の食事を楽しむ。



「なんで吸血鬼はこういうイメージなんだ」



 トーンを下げて「……いや確かに私もこう言うイメージだったが」とひとりごちるリュネ。


 一々注ぐのが億劫なのか。

 最初にあった時は礼節や丁寧さを重んじるものだと思っていたが元の性格はやっぱり違うみたいだ。注がずにビンに口をつける。


 お茶会でもそうだったな。

 あれは欲していたからだと思っていた。


 内容が尽きてしまったのか、リュネが「そういえば」と問い始める。



「創造主がどうの言っていたな。……君の血を飲まなかったからここの住民にならなかった、つまり魔王に手出しできるという意味合いか?」


「ああ。言っただろう。妾は囚われている。自由になりたい。お前が好き。だから妾はせめて外界から人を招き、解放して欲しかった。妾がお前を作り替えたが……倒すことができるのは妾の血を飲んでいないからな」


「その意味だと他の魔物にも血が入っているということか」


「そうだ。彼らにお願いして討とうとしたことはある。当時は全く攻撃が入らなかった」


「なるほどな」


 

 さっさと済ませて部屋を出る。

 再び螺旋階段を登り始めた。


 リュネは戦闘の策を練っているらしい。

 己の力もまだ把握していないはず。

 妾も楽しみだ。

 

 それはそうと……――。



「……本当は飲まないという選択肢もあったんだがまあ、あの様は素晴らしかったし、良い良い」


「…………何?」



 満足気に頷く妾。

 ボソリと呟いた筈が、先の階段を登っていたリュネに聞こえたらしい。

 地獄耳というやつか。


 妾が望んだ選択肢は血を飲まないというもの。

 机上の空論ではあるが、飲まずに人間の生活での通常の飲食をすること。大昔それで強大な魔力を得た吸血鬼のがいた。その情報だけで薬を調合し、選択肢を置いた。

 今回ばかりは食べ物もなかったから仕方ない。

 それに選択肢自体も伝えていなかったからな。


 夜空が睨んでくる。

 睨むだけで何も言ってこないのは幸いか否か。



 城の上層は地上に出ているらしい。

 日差しをまともに受けた。

 妾は久しぶりの日光に清々しさを覚える。

 しかしリュネは「うっ」と咄嗟にマントをかぶる。やはり日差しの耐性はない。

 リュネを庇う。



「私にはやはり……陽は眩しすぎる」


「落ちてから出るか」


「ああ」



 マントを丸被りしたまま螺旋階段の途中で丸まった。そのまま眠るつもりらしい。

 妾は久しぶりの塔の外を眺めた。窓は無い。しかし城と外の間で拒絶される。

 透明な壁があるみたいだ。


 リュネの『やはり』という物言いが引っかかる。普通の人間だったはずなのに、陽が眩しいこともあるのか。

 いつか分かれば良いのだが。


 外を一望してからちょっと満足した。もしかしたらまた月が落ちる頃には視界の全てをリュネの瞳の色一杯にできると過信して。



「おやすみ」






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