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10話


 咄嗟に妾はリュネの腕を掴む。

 床が開き、下は串刺しにするための大きな針。リュネの片足は宙を浮いていた。

 

 落ちるリュネの足元の小石。

 からんからんと後から反響する音だけが妾たちの元まで届いた。

 

 妾が掴まなければ一貫の終わり。

 


「助かった。礼を言う」


「半不死とはいえ気をつけてくれ」


「わかった。それは反省しよう。しかし、箒で飛べば良いのでは?」


「あれは一人用で……無理だ。それにここは。ほら、天井が低いだろう」


「ここ通る時どうしているんだ」


「別の妾用通路を利用してる」


「そこから行くのはダメだったのか?」


「その……女の子は秘密がいっぱいあってだな!」


「私は気にしないが」


「妾が気にするのだ」



 リュネに見られるのはどうしても憚られるから、どうにか回避していった。

 不服そうなリュネの背中を押して促す。


 箒も密着してどうにか乗れないことはない。

 ただこれは妾の心持ちの問題だ。

 密着はダメ。

 

 リュネの言う魔王のいる付近は妾も魔法は使えない。箒では通れない。

 それと秘密の通路は如何わしい本、妾の昔の物などが一杯なのだ。まだ危険なダンジョンと言われなかった時、ただの山だと思われていた時代。

 こっそり廃棄するのにはもってこいだった場所。


 その時に捨てられた如何わしい本。

 しかもわかりやすい表紙が多い。

 絶対だめだ。



 話を背けて進ことにした。

 開けた床を避けて二人で隅っこを歩く。

 リュネが壁は大丈夫なのかと視線を送ってくる。前に槍が飛んできた場所があったことを指しているのだろう。

 

 ここの壁は串刺しにしてくることはない。


「問題ない」と伝えて先を進ませる。

 これ以降、妾がいるしあの人の場所までは戦闘になることはない。良い体力温存になるはずだ。



「ドラゴンとの戦いもそうだったが、よく動けたな。あの鎧で……」


「重いものじゃないからな」


「いや、兜だけでも重かったぞ。それにお前を仰向けにするのにも手こずった」


「そうか? 多少は鍛錬しているし、慣れてしまったからわからないな」


 

 リュネも足の鎧はまだそのままだ。

 それでも器用に歩くし立ち回っている。



「最近の鎧は案外ガチャガチャ言わないものなのだな。――あ、そこの床は真ん中を進んでくれ」


「わかった」


「しかし助け合いも楽しいものだな」



 妾が呟くとリュネが振り向き口角を少し上げて応対する。――道がわかっているからだろと言いたげだ。


 そして一度立ち止まり、真ん中にゆっくり移動する。リュネに「そこから進んで良いぞ」と指示する。


 やはりパーティとはこんな感じなのだろうか?

 妾自身が罠を知っているからこそ難なく進めているのもある。実際も指示とか助け合いが大事になるのだろう。


 

「……別なのだがな」と再び進み出したリュネが呟く。



「……?」



 妾は後を向く。

 しかし目を背けられてしまった。


 別とは――勇者たちのことだろうか。

 確かに裏はドロドロとしたものがあった。その後リュネが何か言った気がしたが、妾はよく聞こえなかった。

 その間にも床の罠の場は通り過ぎた。



「ここから先は妾が先頭に立つよ。罠があったら妾の後ろをついていけば良いし、魔物がいても妾のことを知っているものばかりだ」


「確かに余計な戦いはしなくて済むな」


「そうだ。それに竜系の魔物に襲いかかっても困るからな」


「私がか?」



 ――と自嘲するリュネ。

 少し前までは襲われる側だったのに、夜が数回来ただけで捕食者側だ。可笑しいのも無理はない。


 そうだ。

 今のうちにダンジョンの外いるはずの魔物たちのためにリュネに警告しておこう。と言っても妾が作り上げたものではない。先ほどの良い喰らいっぷりを見てしまっては外部の魔物のことを哀れに思ってしまったから。



「あと、ダンジョンには吸血鬼はいない。ただ、外には野生の吸血鬼がいるはずだから、そいつらとも関わるなよ」


「関わる気はないがなぜ?」


「ほら、向こうは天然というか自然的に生まれた。

 眷属として噛んで人から吸血鬼に変わる者は居ろうが。

 リュネは――……妾のせいだが作り替えているから、敵になるか友好的に話してくれるか判断がつかん。奴ら基本的に雑食だ。家畜の血ならまだしも竜の血を好んで飲む者はいないはず」



 妾の時代の吸血鬼は。と言う話にもなって来るがこれはまた外へ出た楽しみにとっておこう。

 その時リュネがいるならまた戦闘になってしまうがそれはそれで見ものだ。



「あと、吸血鬼たちは己の血でも魔法が使えたり噛んだ者を眷属やらグールやらにできるから試してみるといい」


「では君は私の眷属?」


「バカ者。噛んだくらいではそうそうならん。それに創造主――まあ、お前が妾の血を飲まなかったから違うが、ここのものからしたら主さまだぞ。

 あと、グール化は死体になってからだ。眷属にする時も噛む時、毒のようなものを注入しなきゃダメらしいぞ?

 ほら、蚊とか言う虫。あいつ痒いだろ? 血だけ吸えばいいのに変なものも注入してるからだ」


「それは無理そうだな。ちゃんとした吸血鬼の特権か」


「そうかもな。本能でわかるかもしらん。とにかく、他の吸血鬼には関わるなよ」



 罠を抜けてからしばらくは誰も魔物はいない。

 妾が出なくて良いとも伝えていたのもある。伝えていなかったから、リュネは警戒している。


 良い心がけだ。

 ……もう伝えなくていいか。

 

 魔物がいないのにはもう一つ理由がある。ここは一応演者用の休憩所を設けてやっていた場所。誰も来ることはなかった。


 リュネに吸血は必要ないか聞いたが満腹らしい。

 このまま休憩所を抜けていく。

 

 先ほどまでの岩を削って作ったものではなく、段々紺青色の壁に変わっていく。これは元々の城の作りがこれだからだ。

 あの者に近づいているとよくわかる。

 


「もう罠という罠もない。まあ、魚人みたいなものはいるが、きにするな」


「敵がいないのはお前が伝達の魔法でもしていたのか」


「あ、よくわかったな」



 それくらい見たことがあると言いたげな顔。

 騎士であるならちゃんとしたところに仕えていたのかもしれない。そうであればリュネの言っていた『行かないわけにはいかなかった』の言に納得がいく。

 まあ、さっきも見せていたか。


 

「それにしてもよく喋るな」


「外から来た者と喋ることなんてそうそうなかったからな。良いだろう」

 


 さ、行くぞと言わんばかりに大きな観音びらきの扉の目の前。

 これは扉というよりも、城門に近い。

 妾は箒を手に持ち、上の部分の壁の空いた穴から飛ぶことにした。



「ここは内から妾が開けておかないといけない門で

、今妾が……」



 説明している途中で剣を地面に下ろして準備体操でもしている。



「ま、まさか」


「いけるだろう」



 そう言って両手を扉に添える。



「無駄な体力を!」

「――……っ」



 また妾の制止を無視する。

 眷属だったならめんどくさいやつだ。

 妾の想像に反して城門は開いていく。

 ギチギチと裏のレバーの音が聞こえる。壊れそうなわけではなく年季が入っているからだと思いたい。


 城門は半分開いた。

 この程度なら余裕で入られる。

 ふうと一息吐く。

 リュネはまあまあ満足そうだ。手袋をつけた手を見ている。人並外れた力を自分でも驚いているのかもしれない。



「途中で戦闘ができないのであれば、どれくらい力があるか知りたかったのだが……まだいけそうだな」


「そ、それはよかったな」



 引く妾を他所に手応えをかんじている。剣を拾って城門に入った。



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