星の位置
「夜明けまでに来いよ!」
排気ガスを吐き出しながら、バスは夜道を進んでいった。
「っあのデブ!置いてきやがって!」
ビルや一部の志願者が不平を口にし始めた。
流石にバスを疑いもなく追うほど、愚かではないか。
現在、自分を含め二十三人の志願者が取り残されてる。
星の位置や、駅と出た時間から考えて現在は八時頃か。季節も考えて、猶予は十時間程度。
「他のみんなも結託して、一緒にヒュイスを目指そう」
ビルを中心に、早くも協力体制が敷かれている。
「お前もどうだ?」
やけに背丈のある男に、ビルが声を掛けた。随分と血色の悪そうな男だ。青鯖に似てる。
「自分は遠慮します。自分自身で探したいですし」
青鯖はノソノソと、森の方に進んで行った。
「あんちゃんはどうよ?」
俺は──
「お前ら揃いも揃って能無しか?」
唐突に目付きの悪い、ロングコートの男が声を上げた。
「全員で同じ方向行ってどうするよ。泥船で全員沈むのがオチだ」
ビル以下数名は押し黙った。
「私もその男の右に同じくね」
ぽつぽつと残りのメンバーも散り始めた。
少年は頭の中で地図を広げた。ヒュイスは首都のダイアログの北東部に位置している。
北天星の位置と、冬の季節は………
「ラーラと千年の木、だろ」
ロングコートが声を掛けてきた。
「お前、星座分かるんだろ?」
少年は首を縦に振った。
「ヒュイスの位置を星座で割出したのは、お前とコイツだけだ。見込みあるぜ、お前」
肩より少し低い所で髪を束ねた女との、二人連れの様だ。
少年にとっては、有用な協力者になりうる人物だ。無下にはできまい。
「お褒めに預かり光栄だね。俺は──」
言葉をさえぎり、ロングコートが先に名乗った。
「俺はベンジャミン・カリファーノ。サボルニア人だ」
サボルニアか。十数年前から、酷いエコノミークライシスに陥っていると聞いている。恐らく出稼ぎの為にアナグラムに来たのだろう。
「私はウェンディ・メルト。出身地は伏せさせて貰う」
素っ気ないが、関係はその程度が良いと少年は思った。
「俺はランブル・スクランブル。一応スクラップタウン出身です」
ウェンディが目を見開いた。
「アンタ、スクラップタウン出身なの?!」
何も特別な話しではあるまい。
「リターランドって聞いたことある?」
小耳に挟んだことはある。スクラップタウンと同様、無国籍地帯に当たる地域だ。
歯に衣を着せずに言うなら、貧民街だ。
「知っているとも。そこ出身なのか?」
大きく頷いた。いい反応だ。
「一応お互い、似たような土地出身だから、よろしく」
差し出されたウェンディの右手を握った。少年は驚いた。凡そ人肌の温度では無い。
「なーにはともあれ。役者も揃ったし、ヒュイスに向かおう」
少年はいたく、このウェンディという女を訝しんだ