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道筋

少年は見据えていた。線路の先を。水平線の先を。

ホームを出立して早二時間。少年は空腹を覚えていた。

しかし彼の目的地まで、少なくとも五時間以上を要する。

「あれ食べよっかな」

少年は自分の荷物から、ホイルに包まれた固形食を取り出した。

水気のない見た目に似つかわしく、少年は一口かじると顔を(しか)めた。

「不味い」

口内の水を全て吸い取られ、少年は水筒の水を仰いだ。

口内に潤沢を取り戻し、少年は満足気に窓の外を眺める。

代わり映えの無い景色に飽き飽きし、微睡んだ。


ふと目が覚めると、少年は慌てた。

「次はアナグラム。約十分後に到着いたします」

少年は胸をなで下ろした。目的の駅は過ぎていない。

「アナグラムに停車いたしました。五分後に発車いたしますので、ご降車の方は急がれますよう」

少年は荷物を背負い、列車から降りた。身体の節々が凝ってしまった。

「ここがアナグラムか」

アナグラム。人口一億二千八百万人の独立国。

首都ダイアログのフォーラ美術館には絵画「微笑む君」が展示されている。

しかしアナグラムには首都以上に重要な土地がある。

少年は見知らぬ土地に右往左往しつつ、ある人物を探していた。

「すみません。この辺りにヒュイスに出ているバスはありますか?」

通りすがりの青年に尋ねた。

「ヒュイスか。心当たりが無いな」

少年は頭を下げ、走り去った。

「すみません。ヒュイス行きのバスをご存知ですか?」

今度はマダムに尋ねた。

「えぇ存じ上げますわ。あちらにサービスカウンターという場所がありましてね。そちらでお尋ねになられては?」

「どうもありがとう」

サービスカウンターの自動開閉扉を通り、受付嬢に尋ねた。

「ヒュイス行きのバスはどちらですか?」

受付嬢は笑顔で

「ヒュイスでしたら二番ターミナルですね。こちらを出て右に曲がると見えます」

と答えた。

「どうも」

少年は朗らかな笑顔でサービスカウンターを後にした。

受付嬢の指示に従って進むと停車しているバスが目に入った。

「こちらがヒュイス行きのバスですか?」

外で缶コーヒーを嗜んでいた、車掌らしき人物に尋ねた。

「おっ、ボウズ志願者か!」

車掌の顔が晴れやかになった。

「乗りな」

扉が機械音を立て、開いた。

「好きな席に座りな。こいつ飲み終わったら出すぞ」

相応のサイズのバスにしては乗客が少ない。

二十人前後と言った所か。

「よっこいしょ」

少年は適当な席に座り、荷物を足元へ下ろした。

「よぉキミもアレ(・・)かい?」

歳の近そうな男が、通路の向かいから話し掛けてきた。

随分とフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしい男だ。

「そうですね。では貴方も?」

男はニカッと言わんばかりの笑顔で

「ビルだ。よろしくな!」

と手を突き出してきた。握手をしろという事だろう。

押し付けがましい優しさだ。

「出るぞ!早く座れ」

ビルは席に戻り、バスは発車した。もう辺りは薄暗くなってきている。

「お前ら良く来たな!俺も職員の一人として歓迎するぜー!」

車掌がアナウンスで伝えてきた。

「車掌さんも職員なのか!?」

ビルが座席から立ち上がって声を発した。

「そうだぞ!末端の末端だがな!」

こうして取り留めのない問答を繰り広げながら、荒れた道の真ん中で停車した。

「お前ら降りろー!」

促されるままに、バスから降りた。

「全員降りたなー?」

バスの中を見渡したあと、窓から身を乗り出して言った。

「こっからヒュイスまで走れ!」

一寸先は闇。右も左も分からない、未開の土地に放り出された。

「夜明けまでに来いよ!」

バスは有無を言わさず走り出した。

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