表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の人  作者: ひじり
1/11

【序章】赤と黒

 何処までも、何処までも。

 機械仕掛けの小型ソリが空中を走り抜け、二つの鈴が風を切り、柔らかな音色を生み出し続ける。見上げてみれば、延々と続く空を暗闇の雲が覆い尽くし、星々の姿を隠していた。

「あれ見て」

 操縦士の隣に座り、古臭いヌイグルミを胸に抱く少女が、下を見ながら指差す。座席には、赤の遊びが入った黒帽子をかぶる青年が一人と、青銀の髪を二束に結う少女が腰掛けている。

「町があるわ」

 その景色は、空とは違う。下界に生きる人々の灯りが、地上の星空を彩っていた。

 下を見ず、青年は相槌を打つ。傍ら、空いた手で少女の腕を取り、ほんの少し引き寄せた。

「危ないぞ」

 ソリから身を乗り出し、今にも落ちてしまいそうな少女に返事をする。すると、少女はニコリと笑い、後方の荷台へと手を伸ばす。

 小袋を掴み、中からお菓子を取り出すと、それを口に頬張った。

「大丈夫よ、だってわたしは一人じゃないもん」

 モグモグと口を動かし、幸せなひと時を存分に味わう。

「そんなことよりも、次は何処に行くの?」

 青年の心配を余所に、少女はコロッと話題を変える。二人の旅には、明確な行き先がない。

 ただただ自由気ままに鈴の音を鳴らし、空を走っていた。

「願いを持つ人に、会いに行く」

「ふうん? それで、会ってどうするの?」

 青年は横を向く。興味津々の少女と目が合った。

「いつも通り、願いを叶えるさ」

 例えそれが、どんなに悪い人の願いだったとしても。

 そしてその願いを叶え終えた後、予測不可能な事態が起こったとしても。

 青年には関心がない。行うべきは、願いを叶えてみせることだけだ。

「そっか」

 肩を竦め、少女は再び小袋の中に手を入れた。

「楽しみね、エズ」

 別のお菓子を探しながら、優しげな声色で青年の名を呼ぶ。

 エズと呼ばれた青年は、僅かに口角を上げ、ゆっくりと頷いてみせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ