第29話 偽りの戦火 プロローグ
第9話から今話(第29話)に飛んでいますが、第10話から第28話は、性描写などの関係でミッドナイトノベルズの方で公開しています。今話からは、性的表現は問題ないと思いこちらで公開します。
年齢で問題ない方は、第10話から第28話は、ミッドナイトノベルズをご確認ください。同名小説『剣聖の物語 剣聖スフィーティア・エリス・クライ 序章 Vol2』で公開しています。
偽って、騙して、欺いて嘘の国の戦争は続いて行く。
そこには真実など必要ない。むしろ無駄だ、無意味だ。
人の生命を犠牲とせず、称揚してさらに騙す。
それが連鎖していつまでも続く。
巻き込まれた方は堪ったものではない。
しかし、それが現実。
絶対変わらない偽りの支配の前に抵抗は無意味か?
抵抗する気すら起こらないほどの絶対支配の前には絶望という言葉がふさわしい。
しかし絶望の中にも希望を見出す者がいる。
自らの命を犠牲にしても次の火種となる。
小さな火種はやがて大きく燃え上がり革命となることを信じて。
例え死すら事実から消され偽りに塗り替えられたとしても。
一度光を取り戻した種火は、どこかでまた命の火をあげる。
そうした命の灯を私は讃えたい。
~アーシアのどこかの夢想家で一国の王となった男の手記より ~
ここは、ヴェストリ大陸西部で長く続いている戦争の戦場だ。
「来るぞ!」
「備えよ!」
遠くで、ボーっという音がした後赤い炎の玉がそこから放たれた。
そして、炎の玉が雨霰と陣地に落ちて来た。
敵陣から魔導士等が放った魔導火球の攻撃だ。
シュンッシュンッシュンッ!
その後、大弓から放たれた大量の矢が弧を描き、これも陣地に落ちて来た。
これらの攻撃は、大盾や味方の魔導士による防御魔法によりほとんどが防がれた。
ズドーンッ!
ズドド-ンッ!
「気を付けろ!」
轟音が敵陣後方から響くと、今度は、砲弾が飛んできた。
陣地近くで爆発すると、そこでは、混乱が起きる。
大砲の音が止むと、敵陣から鬨の声が沸き起こった。
「ここからだ!敵さんが大量にやってくるぞ」
「ウワーーーッ」
槍や剣を持った敵兵が大勢やって来た。
「そら、迎え撃て!」
長弓による矢が上空に放たれ、矢が雨霰と敵歩兵等に降り注ぐ。
盾を持たない兵等は、バタバタと倒れるが、それを踏み台にして進んだり、死体を盾にしてなおも進んでくる。
ある程度近づいて来た敵歩兵等を陣地から弩級兵が、狙いを定め一人ずつ打ち抜く。
そして、虚を突く形で、陣地の横方向から、敵騎兵が現れた。これに後方の長弓兵が上空に矢を放つが、騎兵のスピードが速く、矢は通り過ぎた地面に突き刺さった。
「放て!」
魔導士等が、大量に用意した野球のボール位の鉄球を物理魔導で飛ばす、魔道誘導弾を放って応じると、敵騎兵等は。バタバタと倒れた。
それでも、陣地まで辿り着いた敵兵とは、接近戦となったが、排除されていく。
「ふう、何とか敵の攻撃を防げたか」
「今回は、投入された兵も多く危なかったぞ」
そうして、安堵していると、敵陣方向の空の一点がパッと光った。
「何だ、あれは?」
そこから現れたものが接近すると、すぐにそれが何かわかった。
「ドラゴンだ。ドラゴンが現れたぞ!」
緑色のドラゴンが、突然現れたのだ。
クケケケケーッ!
緑色のドラゴンは、咆哮すると、尻尾を上空に丸めるや、そこから緑色のドラゴンを覆うように竜巻が発生し、ドラゴンが竜巻の中を上空へと舞い上がって行くと竜巻はドンドン大きなものへと変化する。緑色のドラゴンが竜巻から姿を現すと、竜巻が陣地の方へと急に動き出した。
「竜巻だ!」
「退避!退避!」
「うわーっ!」
「ウギャーッ!」
陣地にいた兵等は大部分が竜巻に飲まれた。
これにより防御線が崩壊し、守備兵は混乱した。
そしてこの混乱を確認した敵が、この機に歩兵を一斉に送り込んできた。
するとあっという間に陣地を奪われ、堅固であった防御線が瞬く間に突破された。
「う、うう、誰か助けを・・・」
ブスッ!
「ウハッ・・」
陣地を占領した側の兵士が、占領された側の倒れてまだ息のあった兵士の胸に槍を突き刺し、薄ら笑いを浮かべていた。
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ここは、ヴェストリ大陸の東端にある海辺の断崖に佇む古城だ。
天気も良く快晴の気持ちの良い朝だ。
海面が陽光に照らされ、美しく輝く。
ここは、剣聖スフィーティア・エリス・クライの居城である。
この場所は、極秘だ。
周辺には、街も村など人が住むような所もなく誰も近づくことが無い場所にこの城だけが位置している。
スフィーティアは、いつものように背中に青地に舞う白竜が描かれている白のロングコートと青と白地膝上位までのスカート、白のロングブーツという剣聖の正装に身を包んでいた。
手には柄に金の見事な祈りの女神をあしらった長剣を持ち、自室を出た。
何しろ古城なので、あちこち傷みも見えるのだが、1階の回廊に出ると足を止めた。
スフィーティアは、海側に面した城壁を見つめていた。そこには、大きな風穴が開いており、海面が水平線まで良く見えた。
「意外と、眺めが良いものだな・・」
しかし、スフィーティアは、何かを思い出したようだ。
「あいつ・・・、次こそは、倒してやる。その前に、やはり修理をしなくてはならないな」
そのことを考えると少し憂鬱になる。
スフィーティアは、いつものように1階にある広い食堂で一人朝食を取った。
傍らには黒いモーニングを着た背の高い背筋がピシっとした銀髪の男が給仕としていた。
そして、奇麗に料理を食べ終えると、スフィーティアは口を開いた。
「爺、本部からの指令は?」
給仕していた男が、青いはがき大の包みを取り出した。
「はい、こちらに」
この銀髪の男はクライ家に仕える執事であるダン・フォーカーだ。
「開いてくれ」
「はい」
ダンは、青いはがき大の包みを開いた。
すると、文字が空間に煙のように流れ出し、読めるように浮かんだ。
と同時に、高い少年のような声の音声が流れる。
『指令2025
剣聖スフィーティア・エリス・クライに命ずる。
現在、ブーレイン・フェデラル・シュタット(以下「ブーレイ」という)とミーシア共和国(以下「ミーシア」という)は、長らく戦争中だが、ブーレイがドラゴンを戦争に投入しているとミーシア側から情報が寄せられた。貴殿は、至急ミーシアに赴き、詳細を調査するとともに、全てのドラゴンの排除を行うこと。情報が事実であれば、ブーレイ側の調査も行い、原因を全て排除すること。
なお、今回は由々しき事態のため、貴殿に如何なる権限もあたえる。
以上』
「ほう、これは、これは、また、本部も本気のようじゃないか。如何なる権限も与えるときた。大っぴらにやっても構わぬか?」
スフィーティアが薄く笑みを浮かべた。
「竜の力は、剣聖団のみの専権事項であり、巨大な力です。一国が使用するとなれば、国家間のパワーバランスも崩れます。これを放置することはできないかと」
「そうだな」
指令が終わると、空間に漂う文字が消え、指令書から、今度は地形図のようなものが浮かび上がって来た。ブーレイとミーシアの戦況も描かれている。
ヴェストリ大陸西方の南部とその南に位置するスズリ大陸北部、そしてその間の内海のヴァレンシア海周辺の地図だ。ブーレイン・フェデラル・シュタット(面倒くさいので「ブーレイ」とします)は、ヴェストリ大陸西方の南東部とスズリ大陸北部にヴァレンシア海沿岸を中心に国土を形成する大国だ。
一方のミーシア共和国(こちらも「ミーシア」とします)はその北方に位置する共和国である。20年前までは、ブーレイン連邦を構成する一国家であったが、連邦が分裂した時に一国家となり、独立した。
「ここの戦争は、もう2年以上になると言うが、戦況はどうなのか?」
「はい。ブーレイの突然の侵攻により始まった戦争ですが、当初、ミーシアは、虚を突かれた形で、東と南から侵攻され、あっという間に東からのブーレイ軍が首都ラクス近くまで進軍しました。しかし、ここから迂闊にもミーシアに深く入り込んでいたブーレイ軍は手痛い反撃に遭い、敗走しました。東からの侵攻にミーシア軍は一気に国境付近まで押し返すことに成功しています。ブーレイ軍は明らかに準備不足でした。ミーシアを甘く見ていたのでしょう。補給の確保も考慮されず、進軍すれば、ミーシア軍は恐れおののいて逃げ出すだろうという甘い見通しだったようです。しかし、ブーレイはヴェストリ大陸とスズリ大陸に跨る大国です。国力・兵力の差は歴然としてあり、大量の兵士や武器を投入し、盛り返し、南方からを中心にミーシアの領土は徐々に侵食されています。ブーレイは、兵士の損耗など顧みず、いくらでも兵士を送り込んでいるようですな。かの国では兵士の命など実に軽いものなのでしょうなあ。囚人、老人、それに杖を突いた負傷兵なども戦線に投入されると聞きますな」
「命が軽いか・・・」
「また、兵士の数だけでなく、魔獣や異民族など使えるものは使い、攻撃してくるので、ミーシアとしても防戦一方に陥っているようです。周辺国もこのブーレイの侵攻には驚き、ミーシアに武器や物資を提供するなど支援をしているようですが、ブーレイの報復を恐れ、武器も小出しに提供しているようで、戦況を覆すことはできないようです。ミーシアを救うためというよりも、戦争を長引かせて、ブーレイを疲弊させることを目的としているように見えます。そして、今度は・・・」
「ドラゴンまで送りだし、一気に決着を図っていると」
「はい」
「剣聖は、戦争には関与できないが、ミーシアの置かれた状況には、同情してしまう。せめてドラゴンの脅威だけでも取り除いてやらなくてはな」
「はい」
スフィーティア・エリス・クライは、ミーシア共和国へと急ぎ向かった。
(つづく)
久しぶりの新しいエピソードになりました。現実世界で思うところもあり、感じたことを小説『剣聖の物語』を活用して表現しました。しかし、世界ってどこに向かっているのか、とか思いませんかね?




