試練 終点
自分が自分ではない感覚。
前世では散々酔った挙句の行動がそれに近かった。酒で本音や本性が出るなんて話もあるが、あれはあくまで酒で酔った自分でしかないのだ。普段からあんな馬鹿な真似をしようなんて考えたこともないし、するはずもない。けれど、酒のせいで脳みその中でエラーが出てわけのわからないことをやらかすのだ。
そのエラーこそが自分が自分ではなくなる感覚の正体だ。
散々酒を飲んで飲まれた結果だから間違いない。自分だけではなく誰かがそうなるのも散々見てきたのだ。
だから、あれが良くないものであることは疑問の余地なくわかる。触れたわけでもなく、当然飲んだわけでもない。ただ見ただけで、それもほんの数分で自分が自分でない感覚を味合わされたのだから。
「あれはかつて人間の王国を滅ぼした魔貨。鬼族なのに角がないのは不思議だと思ったけれど、まさか人間だったなんて。ごめんなさい、あやうくあなたを狂わせてしまうところだった」
心底申し訳なさそうな表情を浮かべるフレイヤさん。
狂う。
今はまだ酔いに近い感覚しかないが、彼女の言葉が真実ならばそれこそ金の亡者のようになってしまうんだろうか。
未だに頭に治療の魔法をかけ続けているのを見るに、どうやらまだまだ頭がおかしくなっていると思われているのかもしれなかった。いや、さっきの自分の言動を鑑みれば当然なのかもしれない。思考まではフレイヤさんにもわからないだろうが、あの考えはダメだ。自分本位というか、あまりにも都合のいいことだけを考えてしまっていた。
「で、どうすんだよ?」
「…あ?」
愕然とするおれに対して、アスラはなぜか不服そうな顔をしている。
どうするか。
その問いかけは、当然金貨の話だ。やばい代物だってのは十分にわかった。
なら、貰うのをやめればいいってことだろうか。なるほど、そりゃそうだ。ただし、その選択をおれに投げてる時点でこいつもおれの答えがわかってるんだろう。
「当然このままだ。お前や姉貴達の許可がいるってんなら、そうするよ。そもそも、見ただけでやばいならその方がマシだってことだろ」
なにより、アスラや姉達には影響がないのだ。
そういう意味ではブレーキの役割も期待できるし、おれ自身がまた頭がおかしくなっても助けれくれるはずだ。
…うん、この思考は間違っていないはずだ。
助けを期待すること自体おかしいことではないし、というか、助けてくれると確信できるのだ。だからこそ、アスラも姉たちも自分の欲しいものではなくおれのためになることを選んでくれたんだろう。
「だと思ったよ。けど、こんなに金貨集めてどうすんだ? 商売でもやるのか?」
「それについては後の話だ。まずは、これでいいさ」
ようやく話がついた。
ため息を吐いて、後頭部の感覚に意識を向ける。
柔らかい。
太ももの感触が心地いい。傷も痛みもないから完全に治っているようだ。中身の心配をしているのか未だに治療を続けているのが気になったが、まぁこの感触を味合うのも悪くない。
「じゃあ、これでご褒美の話はおしまい。それじゃ、さっそく!」
が、その時間も長くは続かなかった。
太ももの感触が消えた。そうと気づいた時気には落下して地面に叩きつけられるかもと思ったがいつも間にか頭部が地面の上に乗っていた。
視線の先で光が舞う。
またもファンタジーの再来だ。
その中心でフレイヤさんは笑みを浮かべていた。
「宴よ! みんな、楽しみましょう!」
上がる花火と飛び散る無数の光。
今度こそ楽しい時間が訪れたと思い、おれはゆっくりと全身の力を抜いた。
腹は減っていたがそれ以上に眠かった。
大きく息を吐いて、周囲の喧騒が遠のいていくのを感じたのだった。
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