大和
「そう。私たちはこの世界で生き残るためにギルドを作ったんです。日本人だけが所属するギルド【大和】を」
大和。
なるほど、確かに日本人であればその名前に感じ入るものがあるだろう。
現におれですらその名前を聞いた時点である種の郷愁にも似た感覚を覚えたのだから。一月だ。赤ちゃんになって…いや、この世界に来てまだそれだけの時間しか経っていないのに、その響きだけで惹かれるものがあった。
「日本人だけですか? 他の国の方もこの世界に?」
「ええ、それぞれの出身国で集まってる。仕方ないよね、言葉の問題もあるし」
「言葉?」
「うん。君にとっては問題じゃないみたいだけれど」
よかったね、と咲奈さんは言った。
詳しく話を聞くとどうやら咲奈さんを含め、この世界に来た人間は誰しも言語に対する補正がないらしい。…いや、補正という言い方が正しくないか。女神によるサービス不足というかそういう類のものだ。異世界で生きるならば基本中の基本というか、そもそもコミュニケーションがとれなければ元の世界でだって生きていくのは難しいのに。
「咲奈さんはどうやって言葉を覚えたんですか?」
「ギルドで教えてくれたの。言葉を覚えた人がいて、その人から教わったんだ…あ、ごめんなさい。透さんの方が年上なのに敬語じゃなくなっちゃった」
「そのままでいいですよ。今の私は赤ん坊ですから」
「…あの、透さんて女の人じゃないですよね?」
「え?」
「いや、言葉遣いが丁寧すぎて、その、あ、もしかして心は女性ってやつですか?」
この娘すごいな。
呆れるを通り越して感動を覚えた。いわゆるあれだ、コミュ力お化け。これだけ脈絡がない発言なのにこちらを不快にさせることなく懐に飛び込んでくる。というか、発想が面白すぎる。
「違いますよ。ただちょっと、世間一般的には堅い職業についていまして」
「お坊さんですか」
「残念ながら徳を積むとは真逆でしてね。金勘定ばかりしていたんですよ」
「銀行員さんか会計士さんですか!」
「そんなところです」
へーと本心から感心している(ように見える)咲奈さん。
中年のおっさんの転がし方をよくわかっている。スナックでは売れっ子タイプだなとくそみたいなおっさんの考えが浮かんだ。いや、本気でしょうもないことを考えてしまったと反省する。
調子に乗って武勇伝でも語ればそれこそ老害にまで成り下がるだろうが、流石にそこまで恥知らずではなかった。なにより、今は赤ん坊である。それこそ武勇伝を語れば語るほど胡散臭すぎて相手にもされなくなってしまうだろう。
「まぁ、こんな姿ですから何か役に立てるようなことはないでしょうけれど。というか、元の姿であっても役に立てるかわかりませんが」
「そんなことないですよ! 私の帳簿見てくれませんか? どうにも書き残すのが苦手で…」
「それはまたの機会にしてください。さすがに、今は集中して文字を読める気がしないので」
「あ、失礼しましたっ!」
すぐに謝れるところも人に好かれるんだろうなと思った。
ここまで彼女の人となりはある程度見れた気がする。
まぁ、猫被りの可能性も十分にあるがそんなことは今は重要じゃない。
【大和】というギルドの存在。それが使いをよこしたという点だ。
善意もあるだろうが、それだけじゃないはずだ。
何か狙いがある。
まずはそこを理解しなければならないだろう。
そこまで考えて、
「ふぁ〜あ」
我慢し続けてきた眠気が溢れ出した。
「ありゃ、もしかしておねむですか?」
「恥ずかしながら、この姿になってからすぐに眠く、なって、しまって」
瞼が重い。本当に眠気がやばい。
あまりのタイミングの良さに笑いたくなってしまったが、生理現象に抗えることはできなかった。
困った表情の咲奈さんを最後に、おれは瞼を閉じた。
もちろん、ギルドへの加入は保留である。ほら、やっぱりそういうしがらみとか面倒だし、子供にはいらないものでしょう。
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