試練 手仕舞い編
「はじめまして、私、この迷宮の管理を任されているフレイヤっていうの! パパとママから託されて数百年、こうしてあなた達のような種族と出会えてとっても幸運だわ!」
何言ってんだ、こいつ。
さっきまで泣き叫んでたと思ったら急に笑顔になってやがる。感情の起伏の激しさとなぜかボディランゲージというか身振り手振りが大仰すぎていまいち距離感が掴めない。
というか、管理? 意味がわからなかった。
「負傷者ね? あー、これはちょっとひどいわね…」
するりと間合いに入られた。
その無防備さとその動きに反応できない自分にも驚いた。悪意や敵意がないのだ。ミァハさんを見つめる様子も心底心配している態度そのもので、なぜか拒絶することができない。
金色の髪と赤色の瞳が強烈な印象を与えているが、身に纏う雰囲気が柔らかくてきつい感じがしない。顔立ちは異常に整いすぎているのに、浮かべる表情がとても人間臭くて目が離せなくなってしまう。
歳の頃は十代後半程度に見える。真っ白な肌と細身の体はちゃんと飯を食っているのかと心配になるほど細く、手足がすらりと長いおかげで前世のテレビで見たパリコレのモデルのようにも見えた。
フレイヤと名乗った少女はほっそりとした指先でミァハさんの傷口をさした。触れるか触れないかの境目で傷口をそっとなぞった。
「でも、大丈夫! ほら、この通り!」
突然、眩い光が周囲を照らした。
あまりの眩さに瞼を閉じたがすぐにその光も消えた。一瞬のことで何が起きたのかわからなかったが、おそらくは魔力だ。膨大な魔力が一瞬で弾けることで強烈な光が生まれたのだ。
「何しやがるっ!」
叫ぶと同時にフレイヤを睨みつけたが彼女は満面の笑みを崩さない。
逆に褒めてと言っているような気までして、毒気が抜かれてしまった。
「…ぁれ?」
吐息のような声。
見れば、ミァハさんが意識を取り戻していた。顔に正気が戻り、浅かった呼吸が通常のそれに戻っている。薄らと開いた瞳にも意思の力が宿り、あれだけ薄れていた魔力も力強さを取り戻していた。
胸元の布を取る。
瘡蓋のようになっていたので一瞬抵抗はあったが、すぐに取れた。
綺麗な肌だ。痕跡ひとつなく、ぽっかりと空いた傷が消えていた。
「どう? 私、この迷宮内での怪我ならなんでも治せるの」
ふふーんと得意げに胸を張るフレイヤ。
思わず感謝しそうになったが、そもそもの原因に思い至って言葉を飲み込んだ。
彼女は自分を迷宮の管理者と言った。
「だから、おねがい! あの娘を止めて! これ以上壊されたら、この迷宮がダメになっちゃうの!」
つまり、そもそもミァハさんが死にかけたのもおれたちが死ぬ思いをしたのも全て彼女が原因でもあるのだ。
その事実と目の前で泣き崩れる姿を見て、なんとも言えない気分になる。未だに暴れ続けるアスラをもう一度見て、彼女を止めるかどうか思案することにした。
いや、なんだ。泣き崩れるフレイヤの姿があまりに似合いすぎていてもう少し見ていたい気分になったというかなんというか。
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