試練 大暴れ編 終
とにもかくにも地上へ向かう方法を探す必要がある。
他の魔獣の姿はとうに消えている。
おそらくは下層の魔獣達が這い上がってきたことで姿を隠したのだ。この状況はおれたちにとって朗報だ。魔獣に襲われることなく地上へ向かうことが出来る。
「…風よ」
ふわりとした風が吹いた。
イナンナさんの魔法だと気づいた時には、宙に浮かんでいた。直後、強烈な風が背後から吹いて、滑るように飛んでいた。
「うぉおおおおっ!」
「愚弟、騒ぐなっ!」
ごちんとゲンコツを食らう。
どうにも姉達はご機嫌斜めのようである。
ジーナ姉はものすごい形相でおれを睨みつけるし、イーナ姉はゴミを見るような目でおれを一瞥しただけですぐに視線を逸らした。言葉をかけるでもなく存在自体を無視するような態度は流石に気になったが、まぁ、今はそんな場合じゃないと意識を切り替える。
ミァハさんは明らかに衰弱しきっていた。
脈すら細く、呼吸すら浅い。
顔色は真っ青で、冷や汗すら出てこないようだ。傷口からあれだけ溢れていた血もほぼ出てきていないようだ。布を押し当てて止血していたが、その行為のおかげとは絶対に言えなかった。
「…あった。上層に向かう祠」
え。
イナンナさんが指す方を見れば、確かに祠があった。けれど、おれが想像していたものよりもずっと大きな建物だった。
入り口と思しき門ですら見上げるような高さがあった。これなら大型の魔獣が通り抜けることも出来るだろう。よくよく見れば、地面の足跡が全てこの祠に続いている。
「愚弟。上の状況はどうなってる?」
「え。なんでおれに聞くの?」
「あんたがアスラを操ってんでしょっ? 状況くらいわかるんじゃないの?」
「ああ、そういう意味。あー、っていうか、詳しくわからないんだけれど」
「はぁ? どうすんのよ、下手に入って巻き込まれたらただじゃすまないじゃない」
イーナ姉の言葉は至極最もである。
万が一、あの化け物達が暴れている場面に出会してしまったらそのまま全滅するのは目に見えている。なにより、ミァハさんがいる状況で戦闘になることだけは避けなければならなかった。
「でも、大丈夫だと思う。もう終わってるみたい」
アスラの状態は債権者であるおれには手に取るようにわかる。
肉体の損傷はなく、魔力の消耗は激しいものの問題なし。なにより、さっきまでは出力の限界近くまで魔力を解放していたが、今は当初と同程度の出力に収まっている。
それでも時折震動が走るのは破壊活動を続けているからだろう。
すでに勝負はついているのだ。
「…行こう」
イナンナさんはおれの言葉を信じて門を潜った。
瞬間、視界が暗転する。
全身に妙な違和感を覚えるのと同時に視界が明るくなった。
死体の山。
大型の魔獣の残骸がそこかしこに飛び散っている。悪臭じみた匂いまではしなかったが、濃厚な血の匂いは充満していた。
ここまで大暴れするとは。
誰もが絶句する中、アスラに視線を向けて、
「もう、やめぇてぇえええええええええっ!」
悲鳴を上げながら泣き崩れる誰かを見つけた。
いや、本当に誰だあれ?
アスラはそれを気にもせず、迷宮の壁を破壊し続けている。
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