試練 大暴れ編 続
突然、いくつもの咆哮が響いた。
まるで産声のようにも聞こえたそれが、迷宮内では最も聞いてはいない類の代物だってことは俺ですら知っている。呆然としていた姉達が一瞬で血相を変え、イナンナさんが必死の形相でおれたちの元へ駆けつけてきた。
「…伏せてっ!」
叫ぶ声と同時に地面に押し付けられる。
姉二人から押し潰されたまま地面に顔面を押し付けられる。衝撃で目の前で火花が散ったが、それと同時に強烈な震動が走った。
頭上で破壊活動を続けるアスラのじゃない。もっと巨大な何かが移動する震動。もちろん一体や二体ではなかった。
「なによ、あれ…」
呆然としたイーナ姉の声。
呟く声には畏れがあった。背中に乗っている姉達の肉体が強張っているのがわかる。視線だけを動かして、何が起きているのかようやく理解した。
巨人がいた。
おそらくはミノタウロス。牛の頭を持った筋骨隆々の巨人が馬鹿でかい斧を背負ってものすごい勢いで走り去っていく。向かう先は上層。アスラの元だろう。
他にも様々な魔獣がおれたちの近くを通り過ぎていく。
その表情がまたありえなかった。明らかに焦っている。おれたちよりも血相を変えて走っていく姿はある種滑稽だった。
その気になれば、おれたちをまとめて踏み潰すことも出来るだろうに、アスラの元へと我先にと向かっていくのだ。
それだけ、アスラを脅威と感じ取っているんだろう。
その事実も何よりの収穫と言えた。
「愚弟…! 一体どうするつもりっ?」
災害とでも言うべき魔獣達が去った後、ジーナ姉が再び詰め寄ってきた。さっきまで恐怖で固まっていたくせに。いや、言いたいことはわかっている。あんな化け物達が総出で袋叩きに出てきたのだ。
これだけの事態を引き起こした時点でどう収集をつけるのか。というか、アスラの安否を心配しているんだろう。
でも、それは無用の心配だ。それ以上にやらなければならないことがある。
「すぐに地上に向かう。途中でアスラを呼び戻して、ミァハさんを集落に連れて行かせるしかない」
「地上ってあんた、何考えてんの! とにかくアスラを逃して、あたしたちも隠れなきゃ! あんな化け物どもをどうしたら…、とにかく長老に知らせなきゃ…!」
イーナ姉はまだ錯乱している。
おれの言葉の意味も態度も理解していないんだろう。不思議だったのはイナンナさんだ。なぜか率先してミァハさんを担ぎ、地上へと向かう準備を整えていた。
「…あなたの言葉を信じる」
一言。
それがおれに向かって言った言葉なのはすぐにわかった。
ミァハさんは再び意識を失っている。おれの目から見ても魔力がわずかにしか残っていないのがわかる。生きてはいるが長くは保たない。その事実がイナンナさんを動かしているのだろう。
「愚弟、本当に大丈夫なのかっ?」
「大丈夫だよ。少しは自分の弟を」
信じろ、と言う前に頭上から何かが落ちてきた。
轟音。
落下の衝撃で思わず尻餅をついてしまった。
姉二人とイナンナさんは難なく耐えている。けれど、尻餅をついたままのおれを揶揄うこともなく、嘲笑うこともしなかった。
いや、できなかったんだろう。
落ちてきたのは、巨人だった。ミノタウロス。胸元に馬鹿でかい穴が空き、血が吹き出している。馬鹿でかい斧も砕け、その巨体はピクリとも動かなかった。
「それじゃ、行きますか」
おれは尻餅をついたのを誤魔化すために言った。
今度は姉二人も反論しなかった。
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